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松木玖生が背負い続けたプレッシャー。本田圭佑に重なる姿と、優勝の歓喜に込められた想い。

安藤隆人サッカージャーナリスト、作家

第100回全国高校サッカー選手権大会決勝で、青森山田は大津高を

で倒し、3大会ぶり3度目の優勝を手にした。

タイムアップの瞬間、青森山田のキャプテン・松木玖生は優勝を噛み締めるかのように、倒れて喜ぶ選手たちのもとに歩み寄って、全員で抱擁を交わした。

そこでは涙を見せなかった。その姿は喜びを爆発させるというより、安堵の表情を浮かべているように見えた。

それもそのはず、彼にのし掛かるプレッシャーは相当なものがあっただろう。

来季、FC東京に加入が内定しているU-22日本代表の逸材の背中には、高校サッカー界の横綱・青森山田の10番、そして高校ナンバーワンという看板が常について回っていた。

そして、その看板をより惹きつける強気な言動。高校生ながら思ったことをはっきりと言葉にし、準決勝後のヒーローインタビューでもゴール後のパフォーマンスについて「思うところはあったのでしょうか?」という質問に対し、「特にないです」と即答。

実に彼らしい立ち振る舞いは、時に本田圭佑のようにビッグマウスと言われることもある。だが、裏を返せば本田圭佑のように自分の思っていることをはっきりと口に出すことで、自分自身に強烈なプレッシャーをかけることで自ら奮起し、その目標に到達するために必要な努力を重ねるという、孤独な戦いを続けているプロフェッショナルとも言える。

かつて、本田は自身のビッグマウスについてこう話していた。

「俺って凄くポジティブな性格やけど、裏を返せば、実は凄く不安な性格なんです。不安だから努力しようと思う。簡単に言えば強がっているんですよ」。

この言葉を持って、大会前に彼に「発言も強気だし、周りから見るとビッグマウスと捉えられがちだし、本田圭佑のように自ら言葉でプレッシャーをかけるタイプだと思うんだけど、どう?」と聞いてみると、少し考え込んだ後にこう口を開いた。

「黙々とやるのが美学かもしれませんが、僕は何も言わないで黙々とやっていても成長しないと思っています。まず僕は言葉に出して、それを言ったからには責任が生まれると思うので、それを成し遂げるために練習や試合でやっていく。そこを大切にしています。

僕はそもそもそんな才能ある選手ではないので、いろんな苦労はしてきたつもりです。世間からすると自信満々に見えるかもしれないけど、そもそも才能ないんですよ、僕。これはずっと思っていて、だからこそここまで学ぶべきことを素直に学んでこれたとも思っています。

自分が成長するために常に『できるようになりたい』という気持ちが強いです。自分が自分に期待をしているからこそ、必死で補おうとするんです。言葉もとっさに出てくるんです。『言ってしまった』とかはないです。むしろ『言ったからにはやろう』と。『そんなのできないだろ』って言う人もいると思いますが、それは言わせておけばいいと思っています。敢えて言っています」。

最初からズバズバ言うような性格ではない。中2までは黙々とやる性格だったが、中2の時に高校のセカンドチームが戦うプリンスリーグ東北でプレーし、中3でトップチームが戦う『ユース年代最高峰のリーグ』である高円宮杯プレミアリーグでプレーをしたことでほぼ全員年上の環境下で、自分が飲み込まれないように戦う術として臆することなく自分の意見を言う土壌が作られた。

松木にとって、それを是としてくれた青森山田の環境も大きかった。柴崎岳も中2から高校のトップチームの試合でプレーし、高校生にも全く臆することなく時には呼び捨てで指示をしたり、意見を口にしていた。そう言った土壌もあり、松木がそれで「生意気だ」となることはなかった。

本田圭佑もまだ中学3年で星稜高の練習に参加をした時も、紅白戦ですでに高校生の先輩を呼び捨てで呼んで、意見をぶつけていたシーンに筆者も出くわし、とてつもなく大きな衝撃を受けた記憶がある。

もちろん、ただ文句を言っているのなら生意気だろう。だが、本田、柴崎、松木に共通しているのは、その指示や意見が的確だということだ。

生意気と紙一重になる行為だが、それだけ自身がきちんと考え、周りをしっかりと見ているからこそ、言葉が生まれて、そして「成長する」という向上心が後押しとなってその言葉を口から発せさせる。

本田、柴崎はプロになって、A代表でW杯に出場するようになった今もそれを続けている。だからこそ、松木はこの姿勢を堂々と貫いて欲しい。

少し話はそれたが、松木はしっかりとした思考のもとで言葉を発し、プレーで示している。

初戦の大社戦で1ゴール、準々決勝の東山戦では先制されて苦しい状況になったが、前半アディショナルタイムに得たPKを冷静に蹴り込んで貴重な同点弾。そして高川学園との準決勝では、2−0で迎えた57分に右サイドでこぼれ球を受けて、寄せに来たDFをヒールを駆使した鮮やかなターンで交わし、そのまま角度のないところから得意の左足でゴール左隅に突き刺し、観客を大きくどよめかせた。

そして迎えた決勝。チームにとっては4大会連続、松木個人としては3大会連続のファイナル。過去2年間、1度も勝利を手にすることができなかった舞台で、彼はついに優勝旗を掲げることができた。

思えば悔しい想いに彩られた選手権だった。

1年生の時の決勝で途中交代を告げられてベンチで号泣をした。今年のインターハイ優勝時もタイムアップの瞬間、その場に蹲って一眼を憚らず大号泣をした。2年時の決勝は涙こそ流さなかったが、必死で堪えて次につなげようとする姿が印象的だった。

そして最終学年となった今年、インターハイで全国制覇を達成すると、タイムアップの瞬間その場に蹲って人目を憚らず涙をした。周りも「玖生にようやくタイトルをもたらせてよかった」と涙をする選手もいた。

「めちゃくちゃ嬉しかったですが、もう次です。プレミア、選手権が残っていますから。まだ1冠しただけです」。

目を真っ赤にしながらも、毅然とこう口にする松木。

その後もチームの先頭を走り続け、プレミアEASTを制覇(チャンピオンシップは中止)、あと1つのところまで来て、さらに増したプレッシャーの中で彼は最後の舞台で躍動をした。

彼は本当に純粋に勝利に対して、目的に対して突き進み、それに対する感情を包み隠さず表現できる、本当にピュアな人間だ。

冒頭で少し触れたが、準決勝後のヒーローインタビューのくだりは、3点目のゴールを決めた後に、名将・小嶺忠敏氏の訃報を受け、青森山田の選手は腕に喪章をつけていたが、松木がそれを天に高々と上げ、両手を合わせて祈りを捧げたことに対する質問だった。これは憶測だが、「特にないです」とあの場で答えたのは、答える時間も短い中で、「今、ここで言わない方がいい」と彼なりの小嶺氏への敬意だと捉えた。

「高校3年で100回大会を迎えられるのは凄く誇らしいですし、偉大な先輩たちが築き上げてきたものの上に成り立っている認識はあります。100回として恥じない大会にしたい」

そんな純粋な松木はついに目標に達成した。

「仲間と掴んだ三冠。(決勝を見ていた子供たちに向けて)これからもサッカーを楽しんでいきましょう!」

ハキハキとした声でヒーローインタビューに答えた松木。

その後、整列し金メダルを首からかけると、涙が自然と流れてきた。ようやく高校でのプレッシャーから解放されたが、ここで満足することは到底ない。彼は次なる目標に向けて早くも走り出している。

FC東京で1年目からの活躍、A代表、そして世界へー。

最後に本田圭佑のこの言葉を彼に送りたい。

「自分のモチベーションが高まるやり方を自分で見つければいいと思う。そのために下した結論ならば、決してそこから逃げ出さない。でも、あまり固く考えないで欲しい。何度も言うように、たかがサッカー。悪い時にはたかがサッカーで軽く見ておいたらいい。逆にいい時は、自分をできるだけ厳しく見なければいけない。いい時は周りがチヤホヤするから、その時は地に足がついていないと足元をすくわれるからね」。

サッカージャーナリスト、作家

岐阜県出身。大学卒業後5年半務めた銀行を辞めて上京しフリーサッカージャーナリストに。ユース年代を中心に日本全国、世界40カ国を取材。2013年5月〜1年間週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』連載。Number Webで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。全国で月1回ペースで講演会を行う。著作(共同制作含む)15作。白血病から復活したJリーガー早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯27試合取材と日本代表選手の若き日の思い出をまとめたノンフィクッション『ドーハの歓喜』が代表作。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼務。

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