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次走がヴィクトリアMに決まったアーモンドアイの近況を指揮官が語る!!

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
美浦にいた時のアーモンドアイと国枝栄調教師

女王、ドバイ往復後の現状

 アーモンドアイ(牝5歳、美浦・国枝栄厩舎)の次走がヴィクトリアマイル(5月17日、G1、牝馬、東京競馬場、芝1600メートル)と発表された。ドバイターフ連覇を目指し、1度はドバイへ飛んだ女王だが、開催そのものが中止。競馬に使う事なく帰国を余儀なくされた現役最強馬は果たしてどのような過程を踏んで現在どうしているのか? 管理する国枝調教師に電話で伺った。

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 3月22日。日曜日の夜、私は国枝と共に成田国際空港にいた。ドバイワールドカップ開催へ向け、搭乗手続きも出国検査も終わり、搭乗口へと歩いていた。正に出発寸前のそんな時「ドバイワールドカップ開催が中止になった」と連絡が入った。国枝は述懐する。

 「中止決定を確認した後はスタッフと馬がなるべく早くスムーズに帰れるようにしてもらいました」

 今年、現地入りしていた日本馬は20頭。まずは6人だけを残し、他のスタッフが帰国する事になった。アーモンドアイを担当する根岸真彦は馬と一緒に残る6人のうちの1人となった。こうして人馬が帰国出来たのは3月28日、日曜の早朝。本来ならドバイワールドカップの真っ最中と思える時間帯に日本に到着した。

昨年、ドバイターフを勝ったアーモンドアイ。前列右端が国枝
昨年、ドバイターフを勝ったアーモンドアイ。前列右端が国枝

 「馬はすぐに白井の競馬学校で着地検疫をしました。ただ、根岸は(2週間、検疫をしたので)競馬学校には行けないため、うちの厩舎から別のスタッフが行って面倒を見ました」

 そのスタッフから国枝は報告を受けた。

 「一緒にドバイへ行ったカレンブーケドールは初めての長距離輸送ということもあり多少疲れが出たようです。でも、アーモンドアイは元気一杯で体重も480キロくらいあったと聞きました」

 480キロといえば前々走で秋の天皇賞を制した時とまるで同じ。輸送によって大きく減る事もなかったわけだ。

 「1週間弱の検疫を終えた後、ノーザンファーム天栄に移動しました」

 おりからの新型コロナウイルス騒動により、国枝も牧場へ足を運ぶ事は出来なかった。しかし、その分、報告はしっかり受けていたと言う。

 「本来なら見に行かなければいけないんだけど、こういうご時勢ですから仕方ありません。天栄ではすぐに普段通り乗れたようで、逐一動画を送っていただき見ていました」

 動画の印象では体がひと回りふっくらして見せ、500キロくらいで美浦に戻せるのでは?と感じたと続ける。

 「30日の木曜日には帰厩させる予定です。その後の日曜日、そして週半ばに2本ほど追ってレースへ向かうつもりです」

 これまでレース前の追い切りでは主戦のクリストフ・ルメールが乗りに来ていたが、今回はどうするつもりなのか?

 「まぁ、あのレベルの馬だし、ジョッキーも一流で何度も乗っているわけですからね。1回、2回、調教で乗らなかったからといって大きな影響はないでしょう。コロナで移動にも敏感になっている時期ですから無理に来てもらう事はないと考えています」

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有馬記念、そして次走への不安は?

 ここで改めて9着に敗れた前走、有馬記念について語っていただいた。「3~4コーナー、進出を開始した時には『やはり来たか!!』と思えたが?」と話を振ると、伯楽は苦笑しつつ電話の向こうでかぶりを振り、言った。

 「皐月賞のサトノフラッグもそうだけど上がって行く時の勢いが本来のそれではありませんでした。地力で上がってはいったけど、前半、掛かり通しだった分、最後はガス欠になっちゃいましたよね」

 流れるであろう1600メートルならそんな事はないと思うという国枝に、自分なりの見解をぶつけてみた。確かに有馬記念こそダメだったものの、ジャパンCやオークスでのパフォーマンスをみるとベストは2400メートルなのではないか? 実際デビュー戦の1400メートル戦や昨年の安田記念でも負けているように、距離が短くなればなるほど取りこぼす可能性は高くなるのではないか?と。これに対し、国枝は旗幟鮮明に答えた。

昨年の安田記念ではインディチャンプ(右の赤帽)に後れをとりまさかの3着(左端の橙帽)
昨年の安田記念ではインディチャンプ(右の赤帽)に後れをとりまさかの3着(左端の橙帽)

 「能力の高さでこなせるけど、長めの距離だと折り合いとか道中をいかに上手に運べるかがカギになると思います。実際、有馬記念では1周目のスタンド前で気が入り過ぎてもうひと回りもたなくなってしまいました。そういう意味で1600メートルがダメだとは思っていません。去年の安田記念にしても不利が大きく響いただけでまともに競馬をしていれば勝てていたでしょうから」

 では、臨戦過程に関してはどう考えておられるだろう。昨年の有馬記念以来、4か月半以上開いての実戦だが……。

 「去年のドバイターフを勝った時もその前年のジャパンCから結構間が開いていたし、秋の天皇賞を勝った時も安田記念以来でしたから大丈夫でしょう」

ドバイ遠征前にはルメールが乗って調教をしたアーモンドアイ
ドバイ遠征前にはルメールが乗って調教をしたアーモンドアイ

 横綱だって取りこぼす事はある。ただ、横綱に連敗は許されない。国枝もそう考えているのだと、ここまでの答えからは窺えた。だから不安要素は何もなさそうですね?と聞くと、本心がポロリと口をついた。

 「この中間、動画で見ているといっても実馬を見たのはドバイに送り出す時が最後でもう1ケ月以上見ていません。海外まで往復したり、検疫があったりで、果たして本来のこの馬の力を出せる状態に戻せるのか……。不安を考えれば沢山あります」

 これまでの返答とは矛盾して思えるそのひと言にこそ、指揮官の胸の内が見えた気がした。天秤の上にはどうしてもあらがう事の出来ない“不安”という分銅が載っている。ただ、もう片方に載る“自信”という分銅の方がまだいくらか重いという事だろう。今後その天秤がどちらに大きく傾くかは、この木曜日にトレセンに帰って来るアーモンドアイ次第である。レースまでは約3週間。今後の動向に目を光らせよう。

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(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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