経営再建企業の買収が台湾では成功し日本では失敗するのはなぜか
先週、日本経済新聞に小さな記事で、台湾のDRAMメーカーProMOS社の300mmウェーハ工場にある製造装置をGlobalFoundriesが買うことで交渉が成立した、というニュースが載っていた。台湾では米国の半導体製造請負メーカーのGlobalFoudriesが経営再建中の企業のアセットを買ってもらうことに成功したのである。
この記事を読んで、国内メディアのあり方として最近、疑問に思う。エレクトロニクス業界では、例えば日立製作所の非メモリ半導体部門と三菱電機の非メモリ・非パワー半導体部門が一緒になって2004年に誕生したルネサステクノロジは、さらにNECエレクトロニクスをも合体させてルネサステクノロジとなったように、合併や買収が増えてきた。経営再建中のエルピーダメモリは米マイクロンテクノロジーが買収した。
国内企業同士のM&Aなら新聞に特ダネとして扱われ、書いた記者は「してやったり」という思いを持つ。これはたいていの場合、企業トップの自宅前に隠れ、帰宅時を狙いA社を買いですね、と確認をとる。あるいは、経営陣やそのM&Aを見ている霞が関を取材して裏をとって書くこともある。場合によっては、経営陣や霞が関がリークして新聞に既成事実を作らせるというやり方もある。
国内企業同士の場合ならこれでもよい。しかし、外国企業とのM&Aの場合はこのようなこっそりリークや取材に応えることは極めてまずい。外国企業を無視して一方的に交渉情報を流すことになるからだ。こっそり交渉を進めている場合に交渉内容が表に出れば、外国企業は寝耳に水となり、激怒し交渉打ち切り、M&A不成立になる。外国企業は日本の企業に対して不信感を持ち、信頼を崩すことに憤慨する。もし内緒で進めている交渉内容をもし霞が関が漏らしたら、それこそ国そのものが信頼されなくなる。
しかも、日本の企業が買ってほしい場合にはなおさらだ。外国企業が日本に来て工場を買ったり、あるいは日本に工場を建設するといった情報は、絶対に事前に漏らしてはならない。外国企業が日本で半導体事業を始めることは、日本の雇用を増やし、日本の半導体工場などでクサっている製造エンジニアのやる気を取り戻すためにも極めて重要だからである。だからこそ、内密に外国企業が進めている事実を知ったら、交渉がうまく行くまでひっそりと見守ることにしている。まるで、「誘拐報道」と同じように交渉の成立を願う。
ところが、一般紙はそのようなことは無視して書きまくる。その結果、買収計画は撤回され、成立しなくなる。エルピーダの坂本氏が内密に進めていた外国企業との交渉が公になったばかりに失敗に終わり、会社更生法適用に追い込まれた。新聞記者は何も知らないかもしれないが、結果的に会社をつぶし従業員を路頭に迷わせる片棒を担ぐことになるのである。ジャーナリストたるもの、これでいいものか。
知っていても書けないことがたくさんあるのは業界メディアの常である。書くことで産業界を弱くするのでは書かない方がよい。しかしより強くしたり業界をより発展させたりするのであれば、大いに書くべきだろう。
だからといって、業界メディアは産業界にべったりすればよい訳ではない。時には事実を書いて警鐘を鳴らさなければならないこともある。昔から日本の半導体メーカーがやっていたことであるが、製造装置メーカーへの代金支払いを数カ月~半年も遅らせていた。ひどい時は検収と称して1年遅らせることもあった。このことは業界では公然の秘密であった。しかし、業界メディアはこの事実を知っていてもどこも書かなかった。2004年にSemiconductor International日本版を創刊した後、複数の製造装置メーカーから国内半導体メーカーの支払い遅延問題を取材し、記事を書いた。これは無視できない事実だったからだ。
これまで書かなかったメディアは、装置産業に見方をし、半導体メーカーに反することになることを嫌ったからだろう。ところがこういった日本独特の商習慣は国際競争力を弱めると私は思った。装置メーカーは金払いの良い外国企業を第一に売り込むようになるからだ。書いた記事に対して半導体メーカーからクレームは全く来なかった。事実だからである。しかし、記事が公になった後でさえ、半導体メーカーの支払い遅延は続いた。
私は、このままでは日本企業が入手できる装置は後回しにされるという危機感を持ったから書いた。現実にその通りになった。国内半導体メーカーの競争力は見事に落ちて行った。いま半導体産業は、世界では成長し続けているのに、日本だけが成長していないのである。
(2013/04/01)