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<ガンバ大阪・定期便100>ガンバに生まれた『もう1つの柱』、中谷進之介。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
在籍1年目ながら副キャプテンとしてチームを牽引する。写真提供/ガンバ大阪

 J1リーグ戦では10試合ぶりとなる第21節・FC町田ゼルビア戦での黒星に中谷進之介は試合後、自分にも、チームにも厳しい言葉を向けた。

「退場者が出るまでは僕らの展開というか、久しぶりにいいサッカーができたし、チームとしてもすごく気持ちが乗った試合ができた。退場者が出ても守り切りたかったし、そのために自分がもっとリーダーシップのところでできたことがあったんじゃないか、という後悔もあります。久しぶりの敗戦で、しかも首位の町田に負けたということも含めて悔しいという思いは強い。開幕戦では、町田に退場者が出ていながらも引き分けだったと考えても、今日は最低でも僕らがそれをしなくちゃいけなかった」

 序盤から攻守に町田を圧倒し、9分にはウェルトンのゴールで幸先よく先制点を奪ったガンバだったが、前半33分に半田陸がこの日2枚目のイエローカードを受けて退場に。今シーズン、初めて10人での戦いを強いられた。判定が出た直後には多くの選手がレフェリーのもとに集まっていた中で、中谷だけはすぐさまベンチに駆け寄り、コーチングスタッフと布陣の確認をしてチームを落ち着かせる姿も。だが、前半終了間際の失点や後半の戦い方を含めて課題が残ったと口にした。

「(退場者が出た)あのタイミングでは、どういうフォーメーションでやるのかを確認をした上で、前半はとにかく0で進めようという共通認識はありました。ただ前半終了間際の失点はイージーだったし、時間帯を含めて今年のガンバにはあまりないような失点だったので反省しなくちゃいけないと思っています。後半も、もう少し町田のサイドにクロスを上げさせても良かったというか。2失点目を食らったところも、ドレシェヴィッチ選手からミッチェル・デューク選手にボールが入ったあとの寄せというか、僕が対応したところも中が空いちゃっている状況でプレスバックがかかっていなかったので。少しサイドを捨てて中に人数を、ということにしても良かったのかもしれない。とはいえ、リーグ戦はこの先も続くので。最後まで戦い抜いた姿勢は次に繋げたいし、最終節が終わった時には、僕らがしっかり上に立てるようにしていきたいという思いは改めて強くなったので、反省すべきところは反省して、また切り替えてやっていきたいです」

フィールド選手ではチームで唯一のJ1リーグフル出場。守備の柱として存在感を示す。写真提供/ガンバ大阪
フィールド選手ではチームで唯一のJ1リーグフル出場。守備の柱として存在感を示す。写真提供/ガンバ大阪

■「失点を減らすのが仕事」。自らに向けたプレッシャーを力に変えて。

 加入から約半年。中谷はシーズンが進むにつれてグイグイと音を立てるが如く存在感を増してきた。開幕前には、昨年リーグワーストタイの61を数えた失点数を踏まえて「それを減らすのが僕の仕事」だと明言していた通りに、だ。

「昨年、明らかに多かった失点数を減らすのが僕の仕事。対戦相手としてのガンバは間延びしている感じがしたからこそ、コンパクトな陣形を作れるようにならなくちゃいけないし、そのためには全員の意思統一が大事になる。『前の選手は攻撃に行きたいけど、中盤の選手は真ん中のスペースが気になって行けない』ではなく、行くならDFラインを含めて全員で思い切ってラインを上げて戦う、行かないなら全員で下がってリトリートする。そこをもう少しはっきりできれば失点は減らしていけると思っています」

 その決意が実るかのようにここまでの21試合で喫した失点は、昨年同時期の35失点を半分以下にとどめた、リーグで2番目に少ない17失点。町田戦では、今シーズン初の3失点を喫したものの、1試合における平均失点数は1失点以下という理想的な数字だ。

「僕自身はガンバにきたからといって特にプレーを変えたということはないです。ただ、これまで在籍してきたチームではメディアの前で自分が失点数を減らす、というような大口を叩いたことがなかったので(苦笑)。シーズンによっては残留させます、みたいに言ったことはあるんですけど。でも、だからこそのプレッシャーを自分自身に課していたところはあったかも知れない。もちろん、チーム全体の守備があってこそで、自分がきたから減らせたとは思っていないですが、少なからずガンバのセンターバックを預かる責任は、どの試合もしっかり自分に向けてやってきました」

 チームの空気を感じ、選手個々の性格や特徴への理解を深める中で、心掛けてきたのは『もう一本の柱』になること。この約半年間、年齢や国籍の垣根なく、ピッチ内外でいろんな選手と言葉を交わしている姿を見掛けたのも、その責任感ゆえかも知れない。本人に尋ねると「正直あまり深く考えて行動しているわけじゃないから、素のままかも」と笑っていたが。

「僕、『待つ』のが好きじゃないんですよ。たとえば昼ごはんも、練習後、着替えたら、自分のタイミングですぐに食べにいきたい。となると必然的に誰かを待って、というより同じタイミングでいけそうな選手を捕まえて、って感じになるから、結果的にいろんな選手とごはんを食べている、みたいに映るのかも(笑)。ただ、ガンバは間違いなく貴史くん(宇佐美)のチームですから。貴史くんの活躍次第でチームの雰囲気も、結果も決まると言っても過言ではない。でも、だからと言って貴史くんに頼りっぱなしでいいのかといえば、そうじゃないというか。長いシーズン、1年を通した結果を求めるためにも、です。だからこそ、僕は貴史くんとはまた違う、もう1本の柱としてチームを支えられるようになっていけばいいな、と。それはスタートから意識していたことの1つでした」

ガンバの大黒柱、キャプテンの宇佐美貴史からの信頼も厚い。写真提供/ガンバ大阪
ガンバの大黒柱、キャプテンの宇佐美貴史からの信頼も厚い。写真提供/ガンバ大阪

■仲間を信じ、仲間に信じられて。『もう1つの柱に』。

 とはいえだ。チームづくりの難しさはそのキャリアにおいて体感してきたからこそ「本音を言えば、残留争いも覚悟していた」という。シーズンが始まる時には昨年の成績を踏まえ、クラブとしても『7位以上』という現実的な目標を定めていた中で彼自身も「まずは勝ち点40を取れればいいなと思っていた」そうだ。だからこそ、前半戦を終えて11勝4分4敗、勝ち点37という結果には、想像以上だったと振り返った。

「守備についてはある程度安定して戦えたと思っていますし、全員で守り切るとか、みんなが走る、戦うというところをベースとして備えられるようになってきたのもポジティブな要素です。昨年のガンバに感じていたような間延びした印象もなくなりつつある。そこは大きく変わったところかもしれない」

 そして、その『堅守』の中心で、心身両面でのチームの『もう1つの柱』になったのが、中谷だ。本人は「まだまだ」と謙遜したものの、プレーはもちろんのこと、苦しい展開の試合で、あるいはチームとして締めるべき局面では必ずと言っていいほど仲間に声を掛け、心身両面でチームに力を与える姿が目を惹いた。前半戦の戦いについて振り返ったチームメイトの言葉もそれを証明している。

「シンは心身両面ですごくバランスのいい選手。たとえば、練習中にしても、僕が動いた方がいいかな、声を掛けた方がいいかなと思った局面では必ずと言っていいほど、シンや純(一森)が先に動いて声を掛けてくれている。試合中は僕の声がチーム全体に行き届くとは限らない中で、そうやって後ろにも同じ絵を描きながら、先を見て行動できる選手がいてくれるのはすごく心強い(宇佐美)」

「シンに頼り切ってプレーしているわけではないですが、シンが隣で僕の足りない部分を補ってくれたり、的確な声で助けてくれる分、僕は自分のプレーに集中できています。前半に苦しい展開を強いられても後半でひっくり返せたり、押し込まれても耐え切って1点に繋げられるようになったり、チームとしてのビルドアップやスライドがうまくいくようになったのも、前線には貴史くん(宇佐美)、後ろはシン、真ん中は徳真(鈴木)という軸ができたからだと思っています(福岡将太)」

「前半戦はリーグ最少失点だったとはいえ、僕自身は正直もっと減らせたし、もっと点も取れたと思っています。みんなが全力を出し切った上での結果なのは間違いないですが、工夫できたところはまだまだあったんじゃないか、と。ただ、一方でそこまで大崩れしない守備ができたのは、シンの存在も大きいと思っていて。ケガをするまでは弦太(三浦)もすごくチームを支えてくれましたけど、その弦太が長期離脱になってしまった今はよりシンの存在が際立っている気がします。彼は経験値も高く、すごく頭のいい選手。試合中に変化を求める際も、それを即座にチームにアナウンスして、落とし込んでくれる。また、チームとして習慣化すべきなのに、まだまだそうはなっていない守備もある中で、シンは必ずどの試合も愚直にそれを遂行しているし、しんどい時にしんどいことを率先してやってくれる。それってあまり目立たないとはいえチームが結果を求める上ではすごく大事なこと。だから他の選手が『俺も!』と続いてくれるし、いうまでもなく僕自身もすごく助けてもらっています(一森純)」

■細部を疎かにしない。最後まで諦めず、足を止めずに、体を張る。

 一森のいう「習慣化すべき守備」というのは、例えば試合中、相手にチャンスを作られ、シュートを打たれた時に、足を止めないということも1つだろう。ゴールキーパーがシュートを弾いたあとの溢れ球や、二次攻撃に備えるためにも、だ。

「もちろん、GKの責任として全力で止めに行くし、絶対にこぼさないという気持ちでセービングはしていますが、100%ということは絶対にない。だからこそ、フィールドの選手にはいつもその瞬間に必ず足を動かしてくれと伝えていますが、シンはそういう細部をいつも疎かにせず、やり続けてくれている。ここまでの試合でも、相手がシュートを打った瞬間にシンだけがゴールに向かって走り出してくれていた、ということも何度もありました。実は、守備というのはそういう細部が勝負を分けるからこそ本当に心強い(一森)」

 直近で言えば20節・鹿島アントラーズ戦における前半25分のシーンがわかりやすい事象だろう。ペナルティエリア内で福岡が相手の鈴木優磨にプレッシャーをかけられてボールを奪われ、濃野公人にシュートを打たれたシーンだ。一森はニアサイドをケアしていた中で濃野にフリーで足を振り抜かれてしまったが、この日一番と言っても過言ではないほどの鹿島の決定機は、『足を止めることなく』カバーに入った中谷が身を張って弾き出した。

 中谷自身がそのシーンを振り返る。

「僕自身は意識して足を動かしている感覚はないんですけど、言われてみれば動いていますね(笑)。確かにあのシーンも足が止まっていたら絶対に間に合わなかったと思う。ただ、僕の感覚的には、基本的に足を動かしているというより、ああいうエリア内で決定機を作られた時は『自分がやりたいプレーではなくて、やられたら一番嫌だなってプレー』を予測して選択した結果というか。あのシーンもまさに、そうでした。あとは単純に諦めたくない、決めさせたくない、というわかりやすい感情? そして、それが今年はよく当たっている気もします。濃野選手のシーンも、瞬間的に彼が僕の動きを見ていないのがわかったのであそこしかないと信じて飛び込んだんですけど、もし、あの瞬間に少しでも濃野選手の目線が僕を捉えていたら、きっとファーサイドを狙われて、止められなかったと思います。試合の中では僕自身も、純くん(一森)をはじめ周りの選手に助けられていることもたくさんあるので、チームとしての執念がああいうプレーにつながっていると思っています」

 もちろん、それは局面での話で、彼の言葉にもある通り、今シーズンの失点数の減少はあくまで、チーム全体の守備意識の高まりがあってこそ。前線からの守備が目を惹く宇佐美貴史は「こういう言い方がいいのかわからないけどここ最近、守備が面白くなってきた感じもする」とさえ話していたが、その宇佐美を筆頭に、今のガンバには明らかに球際やボールを奪い切ることへの意識が生まれている。

「全員で走り切るとか、みんなが走って戦うとか、それがベースとして備わってきたのはすごくいいこと。昨年、僕が感じていたような間延びした印象も…試合によっては反省するところもありますが、かなり小さくなってきたことにも手応えを感じています。ただ、これも結果がついてきたからこそというか。仮に開幕戦の町田戦と、ホーム開幕戦のアルビレックス新潟戦で2連敗でもしていたら、全く違った方向に進んでいた可能性はあるし、ダニ(ポヤトス監督)が求めるラインを高くしてコンパクトに保つという戦い方もできていなかったかもしれない。けど、あの2試合で勝ち点を積み上げられたことでチームとしての道筋が見えた気がした。あとは単純に点を取られない試合が増えるにつれ『チームとして失点しちゃダメだよね』って意識がより強くなっているという相乗効果もある気がします」

 そして、それをより大きなものにしていくことを目指すのが、ここからより厳しい戦いを強いられる後半戦だ。実際、冒頭に書いた町田戦での失点を含め、課題は山積みで「まだまだ勝つべくして勝っているわけじゃない」と中谷。後半戦の2試合で白星を掴めていない事実も踏まえ、気を引き締める。

「これまでの戦いを振り返っても、(相手選手に)自陣のペナルティエリア内まで侵入されてしまっている回数はまだまだ多いと思っています。実際、昨年の王者で、現時点で最少失点を数える神戸はその回数がすごく少ない。そこと比べても、まだまだ強いチームというか、上位を争うことが必然となっているチームの戦い方はできていないと思っています。そこでもっと確信を持てる戦いとか、安定と自信を備えた守備ができるようになれば俺らは強いと、胸を張れるようになるのかな、と。そのためにも、後半戦はもっとボールを持てるようにならなきゃダメだと感じています。貴史くんとか一彩(坂本)が後ろまで戻ってこなくて済むような守備ができるようにならなければ、この先はますます攻撃にパワーを使えなくなっていってしまうはずですしね。そこはまだまだみんなで突き詰めていきたいです」

 開幕前から繰り返し口にしてきた『満員のパナスタ』に力をもらいたいとも言葉を続けた。

「パナソニックスタジアム吹田は本当に申し分のない、素晴らしいスタジアム。サポーターの皆さんもめちゃくちゃ熱くて最高だし、毎試合、いつもたくさんの力をもらっています。ただ、なかなか満員にはならないんですよね(苦笑)。満員の大阪ダービーはそれこそ圧巻の雰囲気だったし、中には3万人を超えた試合もあったけど、毎回というわけではない。でも、やっぱりパナスタは3万人を超えると他を寄せ付けないほどの、すごい熱を放ちますから。それを体感している僕としては、やっぱりスタジアム全体がぎっしり埋まっている中でプレーしたいなと。特に、ホームゴール裏と同じくらい、対面の一階席(カテゴリー6)がたくさんのガンバファンの皆さんで埋まれば、よりホーム感が出るのかなと。この先の戦いではそんな雰囲気をみんなで作り上げていきたいし、そのためにも僕たちはホームで勝つ姿を見せ続けられるようにしなきゃいけないと思っています」

真っ直ぐに表現される溢れんばかりの感情はいつも、観ている者を惹きつける。写真提供/ガンバ大阪
真っ直ぐに表現される溢れんばかりの感情はいつも、観ている者を惹きつける。写真提供/ガンバ大阪

 嬉しい時は嬉しい。悔しい時は悔しい。いつも心のままに真っ直ぐで、熱い。

「サッカーに対して真面目で、勝ちたい欲に溢れている、ガンバのチームメイトの雰囲気が大好き!」

 歯に衣着せぬ素直な物言いも、周りの心を惹きつけるのかもしれない。そんなチームに備わった『もう1つの柱』に支えられ、ガンバは残りの試合に向かう。

 1つの負けで屈したりはしない。悔しさは必ず、ピッチで取り返す。その決意を全員で束にして、ガンバは次節・ホームでの横浜F・マリノス戦に臨む。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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