ツイッター上のオリンピック反対派はどのような人たちか
毎日新聞のサイトに安倍前首相「反日的な人が五輪開催に強く反対」 月刊誌の対談にという記事が掲載され話題になりました.
そこで,オリンピックへの賛否を表明するツイートを拡散するアカウントはどのようなアカウントなのかということを調べてみましょう.
もちろん,世の中には「強く反対」する方法はツイッター以外にも色々あると思いますので,あくまでもツイッター空間上での話と思ってください.
ツイートの分類
さて,ツイッターで「オリンピック OR パラリンピック OR 五輪 OR 聖火」を含むツイートを6月1日~30日まで収集したところツイートリツイート合わせて11,716,350収集しました.
これらのツイートをトピックごとにクラスタリングするためにネットワークに基づくクラスタリング手法を適用して,トピックの抽出を行いました.
まず,できたツイートネットワークが下図です.ノードがツイートを,リツイートしたアカウントの類似性によって張られたリンクです.
この図の上の方にある塊がオリンピック賛成ツイート群で,下の方がオリンピック反対ツイート群です.
ここで,拡散数上位500ツイートを対象にクラスタリングを行ったところ8個のクラスタが得られましたが,そのうち拡散数が多い上位2つがオリンピック賛成と反対のツイートでした.
オリンピック賛成ツイート群には17ツイートが含まれており,合計48,785回拡散され,27,710アカウントが関わっていました.ここには主にオリンピックに反対するマスメディアへの批判と,なぜか表彰式の衣装がダサいというツイートが多数含まれていました.オリンピックには賛成するけど,衣装はダサい.
一方オリンピック反対ツイート群には331のツイートがあり,943,952回拡散されました.拡散には138,069アカウントが関わっていました.
規模的にはオリンピック反対ツイートがアカウントベースで5倍程度なことが分かりました.
しかし,賛成派の1アカウント当たりの平均ツイート数が1.7回なのに対して,反対派の平均ツイート数が6.8回なのは反対派頑張りすぎだろという気はします.
反対派,賛成派アカウントの分析
さて,問題は反日的な人達をどう解釈するかです.毎日新聞の記事によれば「歴史認識などで一部から反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対している」とあります.しかしながら,反日的と批判されているアカウントを抽出するのは困難です.そこで,オリンピック関連ハッシュタグ運動を行うアカウントには党派性が強いということが分かっていることを参考に,ハッシュタグ運動ではない通常のオリンピック関係ツイートにおいて党派性が出ていないかを確認してみます.その意味では,この分析は必ずしも「反日的」な人たちを分析しているわけではない点にご注意ください.
ここでは過去安倍前総理の時代に政権に肯定的なツイートを拡散していたか否定的なツイートを拡散していたかによってアカウントの分類を行い,それぞれを10回以上行ったアカウントを「政権支持派」「政権不支持派」として,オリンピックの賛否ツイートをどの程度拡散していたのかを確認します.
その結果,
・オリンピック反対クラスタに含まれるツイートを拡散したアカウントの41.6%が政権不支持派
・オリンピック賛成クラスタに含まれるツイートを拡散したアカウントの53.3%が政権支持派
となりました.グラフにまとめるとこんな感じ.
この結果から,確かに政権不支持アカウント群がオリンピック反対ツイートを拡散していたことが明らかとなりました.
安倍前総理の言う「一部から反日的ではないかと批判されている人たち」というのがどのような集団を意識しているのかはわかりませんが,共産党の志位和夫委員長がいうように,
結果だとすると,確かにオリンピックを「強く反対している人たち」の一部は「安倍前総理に反対するもの」といえるため,安倍前総理の指摘は必ずしも的外れではないと言えてしまいそうです.
ただし,半分以上のアカウントは党派性が確認できていないものであるため,そういったアカウントだけではないということは強調すべき点でしょう.
逆にオリンピック賛成ツイートの拡散を行ったアカウントの半分以上が政権支持派だったという結果も興味深い点です.オリンピックに対して賛否の姿勢を明確にしているアカウントは,賛否問わず党派性が強いものが多いということは言えそうです.
党派性の強いアカウントを除いた分析
次に,党派性の強いとみられるアカウントを除いたらどうなるのか分析してみましょう.党派性の強いとみられるアカウントを削除しクラスタリングをしてみるとどのようなトピックが存在するのかを分析してみました.
クラスタリングの結果32のクラスタが収集されましたので,そのトップ5についてみてみましょう.
クラスタ1:オリンピック反対クラスタ(130,958アカウント)
クラスタ2:野球オリンピック代表情報(36,681アカウント)
クラスタ3:オリンピックに関するネガティブな情報(32,076アカウント)
クラスタ4:サッカーオリンピック代表情報(30,134アカウント)
クラスタ5:オリンピック関連プレゼント企画(10,722アカウント)
各クラスタの拡散数とアカウント数は以下の通りです.
この結果から,党派性が強いアカウントの影響を排除してもオリンピック反対系のツイートは数多く存在し,多数のアカウントが拡散していることが分かりました.この結果から「オリンピック反対派は一部の偏った人たち」と考えていると全体像を見誤ることになる可能性が高そうです.
一方で,積極的にオリンピックに賛成する意見を拡散するクラスタはベスト5から姿を消してしまいました.つまり積極的な賛成意見は主に政権支持派が行っていたということになります.むしろ「政権に好意的な人が五輪開催に強く賛成」と言った方がツイッター上の現状とはあっていそうです.
じゃあ,オリンピック賛成派はいないのかというと難しいところです.サイレントマジョリティーという言葉で知られるように,大半の人は積極的に賛否については意見を表明しないでしょう.そのため,賛成派がどのくらいいるのかその実態は分かりづらいところがあります.
ただデータから見る限り,サッカーや野球の代表に関するツイートクラスタが存在していることから,わざわざ賛成だと声は上げないでオリンピックに強く反対はしていないという人もいるのでしょう.このままいけばオリンピックは開催される,ということであれば賛成派の人たちは無理に声を上げる必要はなく,オリンピックについて情報を集めたり拡散したりして楽しめばよいだけですから.このような人たちがどの程度いるかは別の手段で調べたほうがよさそうです.
まとめ
以上の結果をまとめると,ツイッターデータ分析からは,
・オリンピック反対ツイートは政権不支持派が多く拡散したが,半分以上は党派性が確認できないアカウントによる拡散である
・直接的なオリンピック賛成ツイートは政権支持派が半分以上拡散した
・党派性の強いアカウントの影響を排除しても反対ツイートは多数拡散されている
・党派性の強いアカウントの影響を排除すると,オリンピックを楽しもうとしているクラスタが上位に現れる
ということが分かりました.
もちろん,ツイッターが社会のすべてだというつもりは全くないので,是非別の角度からの分析を行ってくれる方が出てくることを期待しています.
また,「この分析はおかしい」と思われた方は,トレンド分析を行うWEBアプリであるホントレ?などでデータを直接集めて確認することができます.その上で本分析の間違いを発見されたらご指摘いただければ幸いです.