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ファン激怒に選手が抗議の騒動も起きた波乱のW杯予選。韓国で何があったのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

昨日9月5日、ソウルワールドカップ競技場で行われた北中米W杯アジア最終予選の初戦でパレスチナ代表と0-0で引き分けた韓国代表。

「無慈悲なゴールラッシュ」と韓国でも報じられた日本代表の7-0大勝劇とは対照的な結果となったわけだが、会場では試合直後、選手がファンに“自制”を求める状況が発生した。

(参考記事:「中国相手に無慈悲なゴールラッシュ」日本代表のW杯最終予選“大勝”スタートに韓国紙も驚き隠せず

というのも、主力センターバックのDFキム・ミンジェ(バイエルン・ミュンヘン)が韓国代表サポーター「レッドデビルズ」のいる観客席に向かった後、「試合中のブーイングを自制してほしい」というジェスチャーをしたのだ。

自国民のブーイングに包まれたソウル

試合後のインタビューで当時の状況を問われたキム・ミンジェは、「我々が最初からできなかったわけではないではないか。(試合後のジェスチャーの意味を)歪曲して、自分のSNSにまで(批判するコメントが)来ていた。できないことを願って応援する方が残念だったので申し上げた」とコメント。

また、「(観客席に)向かったことを良くないと思う方はそのように考えても良いが、攻撃的な意図はなかった。試合開始前から(ブーイングが)聞こえて、それが残念だったためそうした」と率直な心情を明かしている。

この試合は筆者も取材で現地に訪れていたが、場内ではレッドデビルズを中心とした観客の多くが、直近1年間でさまざまな騒動を起こしてきた韓国サッカー協会(KFA)、さらにはそのトップであるチョン・モンギュ会長に対する批判の横断幕を掲げた。

さらに、試合前後はもちろん試合中も「チョン・モンギュ、ナガ(出て行け)!」と大声でブーイング。それだけでなく、今年2月のユルゲン・クリンスマン前監督解任以降、約5カ月間の空白を経て7月に新指揮官に就任したホン・ミョンボ(洪明甫)監督にも激しい野次が飛ぶ異例の光景が広がっていた。

韓国サッカー協会やチョン・モンギュ会長を批判する横断幕(筆者撮影)
韓国サッカー協会やチョン・モンギュ会長を批判する横断幕(筆者撮影)

選手が応援求めるコメントも

もちろん、決定機などでは大きな歓声が上がる場面もあった。ただ、韓国の選手は自国であるにもかかわらず、観客6万人の“ブーイング”のなかで試合を戦わざるを得なかったのだ。

そのため、前出のキム・ミンジェをはじめ、チームの主力を担う欧州組の選手たちが、このような雰囲気に”疲労感”を訴える。

例えば、MFイ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)は「大韓民国を代表する選手として非常に残念だ。(ホン・ミョンボ)監督と一緒に戦う最初の試合だったが、応援ではなくブーイングで始まった」とし、「選手は監督を100%信じて従わなければならない。監督が勝つサッカーを作ってくれると信じている。サッカーファンの皆さんも残念で腹が立つと思うが、たくさんの応援を送ってほしい」と伝えた。

キャプテンのFWソン・フンミン(32、トッテナム)も「厳しい環境の中で最善を尽くした」としつつ、「自分たちで自分たちの敵を作ってはいけないと思う。(ファンの後押しが)相手を崩すために助けになることを、ファンの立場からも考えてほしい。応援をお願いしたい」と切実な思いを明かしていた。

ファンの野次に指揮官「耐えなければならない」

では、ホン・ミョンボ監督はファンのブーイングを受けて何を語ったのか。試合後会見での指揮官との一問一答は以下の通り。

―試合の感想は。

「3次予選の初戦で勝利を収めることができず、申し訳ない。最初のボタンをしっかり留めなければならなかったが、そうできなかった。試合を振り返ると、選手たちは最後まで最善を尽くした。全体的に、前半と後半が違う様相だった。前半は我々が思っていた以上に良くなかった。後半は改善した。何度か得点チャンスがあったが、活かせなかったのが残念な点だ。前半はトランジションやボールのスピードがもっと速くなければならなかった。相手が下がったところを攻略して得点するには、(トランジションの速さを)克服しなければならなかった部分が足りなかった」

―次戦のオマーン遠征については。

「今日の選手のフィジカルパート(コンディション管理)で計画があったが、得点できなかった。4日間でしっかり準備しなければならないようだ。アウェイゲームなので、戦術的にどのよう戦うかまた準備しなければならない。まずは選手のコンディションが重要だ。特に、欧州組は(所属チームの)試合から帰国してすぐに試合をしたため、体力的に難しい点がある。選手を見て、次の試合の先発(メンバー)を決めなければならないと思う」

―代表の指揮を執って初戦を迎えたが、観客席から否定的な反応が出た。

「やはり、あのような場面は容易ではなかった。しかし、今の状況ではファンの気持ちも十分理解できる。これから耐えていかなければならないと思う」

―イ・ガンインが攻撃で多くの役割を果たしたが。

「前半と後半、最後の部分で戦術的に変化を与えた。(イ・ガンインの)創意的なパスが何度か出た。短い時間だったが、準備した部分だ。全体的に選手を活用することが重要だ。イ・ガンインやソン・フンミン、ファン・ヒチャンを活用するのは今もそうだが、今後も重要だ。どのようにさらに活用するかがコーチ陣の課題だと思う。方法を探す準備をしなければならない」

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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