「アプリで健康になる」時代が到来 医師の視点
スマートフォンの普及により、健康のためのアプリが医師などによって開発されているのをご存知でしょうか。今ではすでに使われているアプリもいくつかあります。
この記事ではすでに現在使える実際のアプリを紹介し、健康のためのアプリの現状と未来についてまとめました。
まずアプリの実例を2つご紹介しましょう。
ドライアイや集中力測定アプリ
1、ドライアイリズム
これは、日本に2200万人いると推測されているドライアイの人のためのアプリです。順天堂大学の医師らが開発しました。
まばたきの回数などを測定することで、ドライアイの自覚症状と生活習慣の関係を研究しています。こんな風に自撮りのようにして30秒で何回まばたきをするか測定します。
この研究の結果、喫煙がドライアイを重症にさせ、運動が改善させるという結果が明らかになったそうです。
2、ロコモニター
このアプリは、使う人の「ロコモ度」を測定するアプリです。「ロコモ」という単語に馴染みのある方は少ないでしょうが、これはロコモーティブ症候群の略で「運動器の障害により移動機能が低下した状態」を意味します。骨粗しょう症などでロコモーティブ症候群になってしまうことがあり、ロコモは健康寿命を縮めてしまうもの。アプリではこんな風にして実際に動くことで、ロコモ度を測定します。
こんなアプリをご紹介しました。もし病院に行かずとも普段使っているスマートフォンだけで健康によい影響があるのであれば、こんなに便利なことはありませんね。
健康アプリのもつ2つの顔
ここからはやや専門的な話になります。
今ご紹介したような健康に関連したアプリには、アプリを使う人の「実用性」と開発した研究者の「研究」の2つの側面があります。2015年にApple社が「ResearchKit」という研究者向けのサービスを開始しました。これは、Apple社のスマートフォンであるiPhoneで取れるデータを集め、それを研究にいかすというもの。iPhoneで取れるデータには身長・体重・睡眠時間などの他に、歩行テストや聴力テストの結果など多数あります。
アプリで研究するメリット・デメリット
これを普通の研究で取ろうと思うとかなりのコストがかかりますが、アプリであれば比較的低コストで開発できます。
さらにアプリであれば普通の研究より遥かに多い被験者数を得ることができます。上で紹介したドライアイリズムではリリース後半年で9,000ダウンロードを超え、現在では1万8000件ダウンロードを超えたそうです。これほどの被験者を集めるのは、通常の研究では極めて困難です。これらは強力なメリットでしょう。
一方、デメリットとしては「選択バイアス」が挙げられます。アプリを使う人は必ず「アプリに興味がある人」ですから、一般集団とは言えません。そしてそれから考えられるデメリットは、「先行研究と比較がしづらい」点が挙げられます。アプリを用いたデータ収集での研究ですから、従来の方法による研究結果と同列にしづらいのです。
健康アプリ、今後の展望
ここからは完全な私見になり、研究者の視点でお話しします。
このような健康アプリは今後増えていくと私は考えています。理由は以下の2点です。
・低コストで圧倒的な被験者数の多さ
・デバイスの進歩
被験者の多さは、既存研究を遥かに凌駕しますし、従来研究と比べれば圧倒的な低コストでデータが集められるでしょう。
二つ目のデバイスの進歩は、すでにアップルウォッチでは「心拍数」や「立っている時間」などを測定することができますし、今後さらに進歩していくことが予想されます。
以上、健康のためのアプリについてまとめました。
※記事中の「健康のためのアプリ」や「健康アプリ」という用語は、「医薬品医療機器等法(薬機法)」において医療機器として認められたものではなく、健康に関するアプリという意味で用いています。これらのアプリに治療効果はありません。
※筆者とIoMT学会および開発母体の全てに利益相反関係はありません。学会から許可を得て記事を作成しています。。
※情報源の多くは、筆者が参加した第2回日本IoMT学会総会によります。「IoMT」とは、今流行のIoT(Internet of Things)に'M'、つまりMedical(医学の・医療の)という単語をつけた言葉で、「医療分野に特化した、インターネットに繋がっているスマホなどの機器による情報収集とフィードバック」というような意味です。