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「私たちの家アマゾンが燃えている」G7生き残りのカギを握る3人の男とは

木村正人在英国際ジャーナリスト
G7のカギを握る3人の男(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]日米欧の先進7カ国首脳会議(G7サミット)が24日夜、フランス南西部ビアリッツで始まります。貿易・気候変動・イラン問題を巡り米国と他のG6の対立が鮮明になる中、議長国フランスは首脳宣言の取りまとめを諦めました。

ポステルヴィネー研究教授(本人提供)
ポステルヴィネー研究教授(本人提供)

G7は生き残れるのでしょうか――フランスの名門大学であるパリ政治学院国際研究センターのカロリーヌ・ポステルヴィネー研究教授にスカイプで緊急インタビューしました。ポステルヴィネー研究教授は日本と欧州の問題に詳しい研究者です。

――エマニュエル・マクロン仏大統領はこのG7で何を達成したいと考えていると思いますか

ポステルヴィネー研究教授「今回のG7サミットはおそらく最も興味深いG7サミットの1つです。G7にとってまさに真価が問われる瞬間です。2つの選択肢があります。最小のオプションはダメージ・コントロール。ドナルド・トランプ米大統領、新顔のボリス・ジョンソン英首相、そして首相が辞任し危機にあるイタリア。議論を最小限に抑えるオプションです」

「次がより楽観的で野心的なオプションです。G7とグローバルガバナンスを再定義することです。G7が機能しない主な理由の一つはやはり米国が多国間主義から遠ざかっているからです。米国は来年G7を開催します。トランプ大統領も全く興味がないわけではありません。マクロン大統領がやろうとしているのは首脳宣言の代わりにいくつかの問題に焦点を当て、署名文書を作成することです」

「そして大きな民主主義国家を含めることです。インド、オーストラリア、スペイン、チリ、南アフリカが今回のG7に招待されています。その基準が経済規模であれば中国を招待すべきです。しかし中国は民主主義国家とは言えません。一方、中国やロシアはG20のメンバーです。G20には民主主義国家も、そうでない国も属するグローバルなフォーラムです」

「アマゾンの熱帯雨林が燃えています。今の世界の状態にとてもよく似ています。世界には非常に多くの問題があり、非常に多くの意見の相違があります。フランスとマクロン大統領にとっては大きすぎる課題ですが、試してみる価値はあり、間違いなく新しいメッセージになるでしょう」

(注1)マクロン大統領は「私たちの家が燃えている。文字通りに。アマゾンの熱帯雨林、私たちの惑星の酸素の20%を生み出す肺が燃えている。これは国際的な危機です。G7サミットの皆さん、この緊急課題について話し合おう!」とツイート。

――G7はアマゾンの火災を止めることで一致できると思いますか

「たとえば国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で設立が決定された緑の気候基金を支援することを決めることができます。環境を守るすべてのイニシアチブをサポートする別の方法を決めることができます。問題はブラジル政府に圧力をかけることです」

「なぜなら環境に対するブラジル政府の立場と、現在森林で起こっていることの間には関連があるからです。G7と他の民主主義国家で何らかの合意ができればブラジルに国際的な圧力をかけることができます。マクロン大統領もアンゲラ・メルケル独首相もアマゾンの問題は緊急事態だと言っています」

――トランプ大統領とマクロン大統領の間の「ブロマンス(男同士の友情以上の絆)」と呼ばれた関係は消え去りましたか

「まだ完全にはなくなっていません。マクロン大統領はまだ希望を持っています。彼の立場は関与することです。マクロン大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領やイランのモハンマドジャバド・ザリフ外相と会談しました。トランプ大統領とも良好な関係を維持しようとしています」

「しかしマクロン大統領とトランプ大統領の間にはGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのような米国の巨大テクノロジー企業の総称)や税金戦争をはじめ非常に多くの問題があります。従って良い関係を維持することは非常に困難ですが、ホスト役としてマクロン大統領は可能な限りオープンになろうとしています」

――フランスが導入するデジタル課税についてトランプ大統領は「大規模な報復措置」をとると警告しましたが、どうなると思われますか

「非常に困難で長い議論になると思います。しかし欧州が遠慮することはないと思います。これは権力と特定の活動の独占の問題です。そして結局のところ世論の問題でもあります。GAFAには力がありすぎます。欧州の政治指導者もそれを考慮に入れなければなりません」

(注2)世界での売上高が7億5000万ユーロ以上で、かつフランス国内での売上高が2500万ユーロ以上のIT(情報技術)企業に国内市場の年間総売上高の3%を課税。この「デジタル・サービスへの課税創設」法について米国通商代表部(USTR)は1974年通商法301条に基づく調査を開始。

――フェイスブックの仮想通貨リブラについてはどうですか

「欧州の見方はそれほど温かくありません。これはG7で議論できることです。新しい議論ではありません。つまり通貨や脱税に関する議論です。G7に続いてG20でも改めて議論できます」

――フランスはG7のホスト国で、日本はG20のホスト国です。両国の協力はどのように発展していますか

「日本とフランスは過去15年間、非常に良好な関係でした。安倍晋三首相とフランソワ・オランド仏大統領(当時)は日仏の特別な関係を宣言しました。日本は多くの欧州連合(EU)諸国と緊密な関係を持つことに興味を持っていると思います。米国に全面的に依存しないためと、中央アジアから欧州に向かって発展している中国に対処するためです。EUとアジアの対話の中で日本は非常に重要な役割を持っています」

――国際社会においてマクロン大統領と安倍首相にどんなリーダーシップを期待していますか

「米国が現在やっていることとやっていないことに関連しています。たとえばイラン問題では安倍首相は調停者としてイランを訪れました。日本が米国の信頼できる同盟国であることを示しました。日本は明らかに中東に独自の利益を持ち、米国とは少し違う立場にあります」

「これはイランとの対話を望むEUにとっても興味深いものです。そして今、イランを取り巻く状況は非常に危険です。イラン、気候変動、環境問題、グローバリゼーション規制など日本とフランス、ひいてはEUの間には協力する基盤があります。日本とフランスの役割は近いと思います」

――米国が呼びかけているホルムズ海峡などでの有志連合「センチネル(見張り兵)作戦」についてはどう対応しますか

「これは国際協力の再定義の一部だと思います。国際安全保障の大きな変化があります。語られていない、不明瞭なことがたくさんあります。2つのゲームチェンジャー、米国はもはや多国間のリーダーではありません。そして中国の台頭。中国がアフリカ、中央アジアのどこまで深く浸透しているのか分かりません。信頼できる同盟国との協力を再考するのは理にかなっています」

――香港の大規模デモについてG7は何か発言すると思いますか

「香港について何らかの懸念が表明されれば素晴らしいと思いますが、G7の議題として気候変動があり、イランがあり、シリアがあり、税金があり、英国のEU離脱問題があります。香港で起こっていることは民主主義にとって重要です。G7が民主主義国家の集まる場所であるなら香港について語るべきです。しかし、地政学がG7で非常に重要な位置を占めているため、議論されるかどうか明らかではありません」

――近い将来、G7が役目を終える可能性はあると思いますか

「G7は死んだ、G20のみが必要だと皆が言います。何年もの間言われてきましたが、決してG7の役目は終わっていません。来年、米国がG7を開催します。トランプ大統領がG7のホスト役を務めるなら、G7には未来があることを意味します。米国の外交がG7というフォーラムを信じていることを意味します。G7がすぐに終了することはありません」

――ドイツでは反難民・ユーロの極右政党「ドイツのための選択肢」がさらに勢いを増しています。9月1日にある2つの州議会選の世論調査では首位をうかがっています

「ドイツで極右政党が勝つとしたら、それはEUにとって非常に悪いことです。ドイツは欧州最大の力です。メルケル首相の後継はすでに大きな問題になっています。彼女は欧州の偉大なリーダーだったので、彼女がいなくなることは大きな問題です。しかし私が理解している限り、極右政党がドイツで勝つというのは本当の可能性ではありません」

――最後の質問は英国のジョンソン新首相とブレグジットについてです。ジョンソン首相はエリゼ宮(大統領府)のテーブルに足を置く仕草を見せましたね

「しかし完全に動画をみると、マクロン大統領が『このテーブルをさまざまな方法で使用できます。たとえば足置きに』と言っています。ジョンソン首相はほんの一瞬、冗談で足を置いただけです」

「彼はブレグジット(英国のEU離脱)を支持しており、何があっても前に進むでしょう。そして彼は常に反EUでした。最初は彼にとってブレグジットは必要ではありませんでした。しかし彼は首相になりたかったのです。彼は『合意なき離脱』を恐れていません。彼は米国とスーパー合意をするという考えを弄(もてあそ)んでいます」

「おそらくトランプ大統領はある程度のディールを与えるかもしれません。しかし真の問題は、英国が米国に対して非常に弱い立場にあるということです。なぜなら英国はEUとの合意がなければ、米国と何らかの合意をすることに必死になるからです」

「日本は憲法上の制約があるため米国に安全保障を依存しなければなりません。ジョンソン首相の立場はさらに悪いと思います。英国は日本ほどの大国ではないため、完全に米国に依存するようになります」

「英国が国民投票でEU離脱を決めた時、欧州大陸の他の政党、フランスの国民連合(旧国民戦線)のマリーヌ・ルペン党首はフレグジット(フランスのEU離脱)を言っていました。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相も同じようなことを言っていましたが、口を閉ざしました」

「今は大陸では誰もEUから離脱すべきだとは言っていません。誰もが、それが混乱であり、間違いだったことを理解しています。しかしイタリア、ハンガリー、ポーランドでも非常に多くの欧州懐疑主義が存在します」

「結局のところ英国が欧州から離脱するのはとても不自然だと思うので、ある時点で英国はEUと新しい協定を結ぶ必要があります。スイスでさえEUと協定を結んでいます。ノルウェーもそうです。実際、英国で議論されているのは英国がノルウェーのようになる可能性があるということです。私たちはドーバー海峡を挟んでわずか30分の距離です。英国と欧州は非常に近いということです」

(注3)非EU加盟国のノルウェーは欧州自由貿易連合(EFTA)と欧州経済領域(EEA)に参加。しかしジョンソン首相は経済より主権に重きを置き、市民生活と企業活動を大混乱に陥れる「合意なき離脱」に突き進んでいる。

(おわり)

取材協力:西川彩奈(にしかわ・あやな)日仏プレス協会副会長。1988年大阪生まれ。2014年よりパリを拠点に、欧州社会やインタビュー記事の執筆活動に携わる。ドバイ、ローマに在住したことがあり、中東、欧州の各都市を旅して現地社会への知見を深めている。現在は、パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、欧州の難民問題に関する取材プロジェクトも行っている。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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