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【世界バレー】ベスト8進出を決めた日本代表、「自信」をつけた山田二千華が見せる進化

田中夕子スポーツライター、フリーライター
世界選手権でミドルブロッカーとして攻守に渡り成長を見せる山田二千華(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

荒木が「脅威」と感じた大型ミドルブロッカー

 自信とはこうも大きいものなのか。

 女子バレー世界選手権の山田二千華を見ていると、つくづくそう思う。

 184cmと日本選手の中では屈指の高さを誇り、ライトへ移動してのワイド攻撃だけでなく、セッターの前からのAクイック、Bクイックも打つ。ブロックも高さがあり、日本のミドルブロッカーをけん引する素質は十分備えている。

 事実、昨年引退した荒木絵里香さんが現役中、まだ山田がアンダーカテゴリー日本代表には呼ばれても、シニア代表に呼ばれなかった頃、何気なく口にしたことがあった。

「二千華ちゃん、すごいですよね。私、ちょっと脅威を感じているんですよ」

 女子バレーインドア選手として四度の五輪に出場し、しかもそのうち二度キャプテンを務めた女子バレー界のレジェンドに“脅威”と言わしめる。

 世界一になった19年のU20世界選手権や、シニア代表の韓国、タイに勝って優勝したアジア選手権にも出場し、昨夏の東京五輪にも選出された。

 何を今さら“急成長”と書くのか。そう思われる方に前置きとして伝えておきたい。確かに山田はオリンピアンで、所属するNECでもミドルブロッカーとしてレギュラーの座をつかんでいる。

 だが、いつももがいていた。

 特に昨夏の東京五輪を終えた後は、もがくどころか沈んでいた。Ⅴリーグが開幕して数か月が過ぎ、間もなく2021年も終わろうかという頃、取材の最中に突然泣き出したことがあった。

「東京オリンピックのことを思い出すと苦しいし、今でもちゃんと話せないんです。負けて悔しいとか、出られず悔しかったというよりも、自分って何なんだろう、ってとにかく追い込んでしまっていました」

 予選グループリーグの大一番となった韓国戦に、山田はスタメンで出場した。勝てば決勝トーナメントが決まる試合。初戦のケニア戦で負傷退場した古賀紗理那も復帰、セルビア、ブラジルに連敗を喫した空気を変えるべく、山田の起用も変化を求める姿勢が打ち出されていた。

 しかし、序盤から韓国に主導権を握られ、第1セット序盤に交代を命じられた。スパイクどころか、ブロックでも何度ボールに触ったか、という状況での交代。目まぐるしく変わる流れを引き寄せるための交代とはいえ、山田は完全に自信を失った。

「ミスをしたとか、うまくいかなかったというところにもたどり着けないまま、本当に何にもできないまま終わったんです。大げさかもしれないですけど、あの時は本当に、自分にできることなんて何もない気がして、バレーボールをするのが怖い時期もありました」

東京五輪は限られた出場機会に終わり、失意のまま終わった
東京五輪は限られた出場機会に終わり、失意のまま終わった写真:ロイター/アフロ

「間違いなくチームの中心となる選手」

 期待の高さゆえ、NECでも多くのことが求められ、時に厳しく叱咤されることもある。スタッフだけでなく、チームメイトで共にコートへ立つ古賀も、自身の取材時に幾度となく「周りを動かすため」の行動として、なぜそうしないのか。何を考えてその動きをしたのか。直接「どうして?」と問いかけ考えさせる、と明かすたび、「たとえば」と出す例の中に決まって上がるのが山田の名だった。

「二千華はこれから間違いなくチームの中心になる選手だし、なってもらわないと困る選手。だからチームの中で一番、二千華に対しては厳しく言います。絶対怖がられていると思いますけど(笑)、やってもらわないといけないし、二千華はやれば絶対できる力がありますから」

 このままでは変わらない。飛躍のために何が必要なのか。言われるばかりでなく、山田も周囲にアドバイスを求めた。日本代表の合宿が始まり、薩摩川内の合宿にロンドン五輪へ出場したOGが練習参加した際は、自ら積極的にたずねた。特に「いろんなことを聞いた」と言うのが、同じポジションの荒木さんだった。

「オフェンスのことも聞きたかったんですけど、何よりブロックのことが聞きたくて、空中戦で1対1になった時、相手を止めに行きたい、と思ったら絵里香さんはどういうことを見たり、考えたりして駆け引きをしていますか? と聞いたら『状況によって違うからコレ、と言うのは難しいけど、でもその状況まで行けているのであれば、相手の目やクセを事前に見ていくのも大事だよ』と言っていただいて。相手の情報をもっと入れ込まないと緻密なバレーはできない、と反省したし、もっと積極的にやっていかなきゃ、と思うようになりました」

 その成果と言うには早計かもしれないが、世界選手権では明らかにブロックポイントの数が増え、何より相手の攻撃に対するタッチの回数が増えた。せっかくの高さがあっても、意図を持たずに手を出すだけならばスパイク時にうまくブロックを使われてしまうだけだが、事前のデータと研究に基づき、出す位置、タイミングを考えて的確なタッチを取る。そこから日本の攻撃につながり、ラリー中も移動攻撃やBクイックで得点するシーンも目立つようになった。

 世界を相手にコートへ立ち続け、この攻撃なら決まる。こう跳べばブロックで効果が生じる。1つ1つ重ねた自信が、成長につながっているのは明らかだ。

同じNECでプレーする主将の古賀も「二千華にはやってもらわないと困る」と期待を寄せる
同じNECでプレーする主将の古賀も「二千華にはやってもらわないと困る」と期待を寄せる写真:YUTAKA/アフロスポーツ

完全アウェイのオランダ戦へ

 1次ラウンドではブラジルに勝利し、2次ラウンドもベルギー、プエルトリコに勝利し、最終戦を前にベスト8進出を決めた。

 とはいえ、ここが最終目的ではなく、目指すのはさらに先。そのために、2次ラウンド最終戦で対戦する、自国開催であるオランダはすでにベスト8進出の可能性が途絶えており、これが大会最終戦になる。

 地元の声援、地の利を活かし、有終の美を飾るべく総力を尽くす相手に、どんな戦いが見せられるか。そこで得られる自信は、きっとこの先、負けたら終わりのトーナメントに直結する大きな力になるはずだ。

 世界と戦う日本の“壁”となるべく、世界選手権で急成長を遂げる山田のプレー、表情に注目だ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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