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薄毛対策の最前線:濃縮成長因子療法の効果と安全性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【AGAとは?薄毛に悩む人々の希望の光】

男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)は、多くの人々を悩ませる問題です。見た目だけでなく、精神的な健康にも影響を与えることがあり、世界中の皮膚科医や形成外科医が取り組んでいる課題です。

AGAの治療法としては、これまで毛髪移植や薬物療法が主流でした。毛髪移植は手術が必要で、フィナステリドやミノキシジルなどの薬物療法は効果にばらつきがあります。そんな中、新たな治療法として注目を集めているのが、濃縮成長因子(CGF:Concentrated Growth Factors)療法です。

【CGF療法とは?PRPの進化版治療法】

CGF療法は、多血小板血漿(PRP:Platelet-Rich Plasma)療法の進化版と言えます。PRP療法は、患者さん自身の血液から血小板を濃縮し、成長因子を豊富に含む血漿を作成して注入する治療法です。CGF療法はこれをさらに発展させ、より高濃度の成長因子を含む血漿を使用します。

CGFは、これまで傷の治癒促進などで効果を示してきましたが、AGA治療への応用はまだ研究段階でした。そこで、最近の研究では、CGF注射療法のAGA患者に対する安全性と有効性が調査されました。

【最新研究結果:CGF療法の効果と安全性】

2021年10月から2023年4月にかけて行われた研究では、15名のAGA患者(女性2名、男性13名)を対象に、CGF療法の効果が検証されました。患者の平均年齢は31歳で、脱毛の経過期間は1年から8年でした。

治療方法は、患者から採取した血液を特殊な遠心分離機にかけてCGFを抽出し、3〜4週間おきに計3回注射するというものです。効果の測定は、治療開始前、3ヶ月後(最後の注射から約1ヶ月後)、6ヶ月後に行われました。

研究結果は驚くべきものでした。治療開始から12週間後には、毛髪密度が1平方センチメートルあたり約40本増加し、6ヶ月後も効果が持続していました。患者の満足度も時間とともに向上し、6ヶ月後には著しい改善が見られました。

副作用に関しては、20%の患者が1〜2週間以内に軽度の脂っぽさや痒み、灼熱感を感じましたが、重大な副作用は報告されませんでした。

この研究結果は非常に興味深いものです。CGF療法は、既存の治療法と比べて低侵襲で、自己由来の成分を使用するため安全性が高いと考えられます。また、効果の持続性も期待できることから、AGA治療の新たな選択肢として有望だと言えるでしょう。

ただし、この研究にはいくつかの限界があります。サンプル数が少なく、長期的な効果や安全性についてはさらなる研究が必要です。また、日本人を対象とした研究ではないため、日本人への適用にあたっては慎重な検討が求められます。

CGF療法は、AGAに悩む多くの方々に希望をもたらす可能性がありますが、個々の状態に応じた適切な治療法の選択が重要です。皮膚科専門医との十分な相談のもと、最適な治療法を選択することをおすすめします。

参考文献:

1. Cao S, Zhu M, Bi Y. Evaluation of the safety and efficacy of concentrated growth factors for hair growth promotion in androgenetic alopecia patients: A retrospective single-centre, single-arm study. J Cosmet Dermatol. 2024; 00: 1-6. doi:10.1111/jocd.16519

2. Hussein RS, Dayel SB, Abahussein O. Botulinum toxin A for hair loss treatment: A systematic review of efficacy, safety, and future directions. JPRAS Open. 2023;38296-304. Published 2023 Sep 21. doi:10.1016/j.jpra.2023.09.006

3. Ntshingila S, Oputu O, Arowolo AT, et al. Androgenetic alopecia: An update. JAAD Int. 2023;13150-158. Published 2023 Jul 22. doi:10.1016/j.jdin.2023.07.005

4. Dicle Ö, Bilgic Temel A, Gülkesen KH. Platelet-rich plasma injections in the treatment of male androgenetic alopecia: A randomized placebo-controlled crossover study. J Cosmet Dermatol. 2020;19(5):1071-1077. doi:10.1111/jocd.13146

5. Qiao J, An N, Ouyang X. Quantification of growth factors in different platelet concentrates. Platelets. 2017;28(8):774-778. doi:10.1080/09537104.2016.1267338

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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