伸びる雑誌と落ち込む雑誌と…ゲーム・エンタメ系雑誌部数動向(2023年7~9月)
部数公開誌は4誌のみ継続中…部数現状
インターネットのインフラ化に伴い速報性が重要視され、ゲーム関連をはじめとしたエンタメ情報の提供媒体として、紙媒体の専門誌の立ち位置が危ぶまれる昨今。ゲームやエンタメ専門誌の部数動向を、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)から確認する。
まずは最新値にあたる2023年7~9月期分と、そしてその直前期にあたる2023年4~6月期における印刷証明付き部数をグラフ化し、現状を確認する。
ゲーム・エンタメ系雑誌の中で最大部数を示しているのは「Vジャンプ」で14.0万部。このポジションは前期から変わりなし。
現在印刷証明付き部数を公表しているゲーム・エンタメ系雑誌は、今期でも今グラフに表示されている4誌にとどまっている。すでに公開サイトにおけるジャンル区分で「パソコン・コンピュータ誌」は皆無(ジャンル区分そのものは今なお存在している)。
精査対象を足そうにも、類似の趣旨を持つ雑誌が(印刷証明付き部数の公開誌では)存在しないのが悩みの種。類似・同一ジャンルの雑誌としては例えば「週刊ファミ通」「電撃Nintendo」「Nintendo DREAM」「MC☆あくしず」などが挙げられるが、印刷証明付き部数は非公開なのが実情ではある。
前四半期からの変化を確認
次に四半期、つまり直近3か月間で生じた印刷数の変化を求め、状況の確認を行う。季節による変化が考慮されないため、季節変動の影響を受けるが、短期間における部数変化を見極めるには一番の値となる。
ゲーム・エンタメ系雑誌において前期比でプラスを示したのは「アニメージュ」「声優グランプリ」「PASH!」の3誌で、誤差領域(プラスマイナス5%)を超えたプラス幅なのは「アニメージュ」「声優グランプリ」の2誌。一方マイナスを示したのは「Vジャンプ」で、誤差領域を超えたマイナス幅。
ゲーム・エンタメ系雑誌では最大の部数を誇る「Vジャンプ」は特集や付録で大きく上下感を見せるものの、長期的には部数減少の傾向にあった。話題性のある付録で一時的な部数の引き上げを果たしても、それが継続するには至らないパターンが続いていた。
ゲームそのもののプレイヤーが一定数存在することが前提となるが、ゲームと密接な関係にある付録を常につけることで雑誌の集客力を高めさせるのも、雑誌販売の一スタイルとして認識すべき方法論であり、「Vジャンプ」の必勝方程式として定着している。
しかし長期的な部数動向を見るに、その方程式が必勝とは言い難い状況だった。昨今では15万部が底のような部数動向となっていたが、3年ほど前からはその底すら抜けてしまった。今は15万部をはさんでのもみ合いの流れと解釈できる動きをしている。
なお「Vジャンプ」では電子雑誌方式に関しては、紙媒体誌を購入した人限定で閲覧できる仕組み「購入者特典」の形での提供のため、電子書籍版のセールスが伸びたので今件値(紙媒体として印刷された部数)が減少しているとの解釈は難しい。販売スタイルは今でも原則として紙媒体の雑誌のみである。
今期におけるゲーム・エンタメ系雑誌の前期比で最大のプラス幅を示したのが「アニメージュ」。
2016年1~3月期に生じた「おそ松さん」特需による大きな盛り上がりを除けば、特集記事などで小さな部数回復があるものの部数減少傾向が続いていた「アニメージュ」だが、2019年あたりからの一時的な小休止を経て、2022年初頭あたりから再び下落傾向の中にあった。今期ではその動きに反するかのような部数の跳ね上がりを示している。該当期に発売された中では、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」が表紙を飾り特集が組まれ、ポスターの付録もついた、2023年8月号が部数を底上げしたものと思われる。この部数の盛り上がりが、今後も続くとよいのだが。
プラスは1誌の前年同期比
続いて前年同期比を算出し、状況確認を行う。年単位の動きのため前四半期推移と比べれば長期間の動きの精査となるが、季節変動を気にせず、より正確な雑誌のすう勢を確認できる。
前年同期比ではプラス誌は1誌「アニメージュ」のみで誤差領域内のプラス幅。プラスマイナスゼロが1誌。残り2誌はマイナスで、双方とも誤差領域を超えたマイナス幅を示している。
前年同期比で「声優グランプリ」に次いで大きなマイナス幅となった「PASH!」の部数動向は次の通り。
「PASH!」は特集記事や付録による部数への影響が大きく、部数変動が他誌と比べると大きくなる傾向がある。例えば2016年1~3月期は「おそ松さん」特需、2016年10~12月期は「ユーリ!!! on ICE」特需によるもの。2018年ぐらいからは2万部を底とする部数動向を示しているが、今期ではその底値を大きく下回る結果となった。グラフを見ても、2期前において底値と推測できた2万部から急に落ち込み、今期でもほぼそのままの低迷状態を示しているのが分かる。あまりよい状況とはいえない。
日本国内の家庭用ゲーム機業界の市場は縮小を続けている。少なくとも利用者人口は堅調な動向にあるスマートフォンアプリ向けの紙媒体専門誌のアプローチも、情報の公知特性を考慮するとビジネス的には難しい。新しい付加価値の創生、アイディアの想起など、あらゆる手立てを講じて有効策を見出さない限り、今後も当ジャンルの低迷は続くことだろう。
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※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
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