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宇宙商社「Space BD」とは? 研究機関から市民グループまで、宇宙利用のチャンスを広げる

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Space BDによる宇宙飛行士の訓練方法を通した新たな教育事業。撮影:秋山文野

企業や大学、自治体やあるいは市民グループが「人工衛星を開発して打ち上げたい」「宇宙を利用したい」と思ったとき、まず何をするだろうか? 人工衛星というハードウェアを作る技術の一部を持っても、それだけでは宇宙で衛星が動くところまでたどり着けない。自分たちが持っていない技術はどう克服する? 海外の企業が製造しているコンポーネントはどこから買う? 動作試験はどこで? 電波利用の申請は、打ち上げロケットの購入はどこへ申し込めばいい? 運用のために利用できる地上局は?

「宇宙商社」というコンセプトの企業がこうした相談に乗ってくれる。2017年9月に総合商社出身の永崎将利社長が設立した宇宙ベンチャー企業のSpace BD社だ。

Space BD社 金澤誠事業開発部長(左)と永崎将利社長(右) 撮影:秋山文野
Space BD社 金澤誠事業開発部長(左)と永崎将利社長(右) 撮影:秋山文野

開設から間もない2018年5月、Space BD社は国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」から超小型衛星を放出する事業者としてJAXAに認定された。きぼうからは、エアロックを利用し、重量50キログラム以下の超小型衛星を軌道上に放出することができる。衛星はおよそ1年ほど軌道を周回する。衛星は専用の梱包材に入れてISSへ運ばれるため、ロケットに直接搭載する場合よりも振動などの影響が緩和され、かつ放出前に宇宙飛行士のチェックも受けることができる。新規参入者にも優しい方式で、初めて衛星を開発する新興国にも利用されている。とはいえ、これまで「きぼう」から200機以上放出された衛星の多くはアメリカ企業が開発した衛星放出機構を利用しており、日本の機構の利用は8分の1程度(2018年5月時点)というやや残念な実績となっている。

国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」のロボットアームから、小型衛星放出機構(J-SSOD)によって衛星を軌道上へ放出できる。Credit: JAXA/NASA
国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」のロボットアームから、小型衛星放出機構(J-SSOD)によって衛星を軌道上へ放出できる。Credit: JAXA/NASA

JAXAは「きぼう」放出を2020年度までに質・量ともに高めていく方向性で、Space BDは東京大学が開発した実証実験用衛星の打上げ受託などの経験を活かしてこの打ち上げ事業に参入した。そもそも「どのように衛星ミッションを行うか?」というミッション策定から、開発と安全審査、周波数の申請、運用支援など衛星開発の多段階にわたるコンサルティングやアウトソーシングを担っている。「きぼう」利用で100機以上の衛星放出の実績を持つ米NanoRacks社とも提携している。

人工衛星を開発したいプレーヤーといえば研究機関、大学、企業などが挙げられるが、宇宙に参入したいプレーヤーはそればかりではない。アメリカでは、シチズンサイエンティストと呼ばれるアマチュア科学者が参加して開発された宇宙航行技術“ソーラーセイル”の実証衛星「LightSail」シリーズ2号機がSpaceXのファルコンヘビーロケットで打ち上げられる計画や、2018年11月にニュージーランドから打ち上げられたカリフォルニア州アーバインの高校生による超小型衛星「IRVINE CUBESAT」などの試みがある。Space BDは日本で「市民衛星」と呼ばれる民間宇宙開発プロジェクトを支援しており、東京・日本橋を拠点にキューブサットを開発した「リーマンサット プロジェクト」の衛星は9月に国際宇宙ステーションから放出された。大阪を拠点にする市民衛星、「ドリームサテライトプロジェクト」も2019年の打ち上げに向けて開発を進めている。

こうした宇宙利用のワンストップサービスを目指して、2018年10月には宇宙利用に関する情報を提供するプラットフォームサイト「Space for Space」を開設。宇宙利用の敷居を下げる試みをスタートした。「衛星開発トータルソリューション」「部品・コンポーネント」「試験設備」「衛星打ち上げ」「宇宙空間利用」「その他事業開発支援」と6項目の情報を提供。一例で「衛星打ち上げ」では、ISSからの衛星放出だけでなく海外のロケットの打ち上げ枠の利用も可能だという。また、オランダの宇宙機製造企業InnovativeSolutionsInSpacen.v.(”ISIS”)と販売店契約を結んでいる。ラインナップはオンボードコンピューターや太陽センサーなどがある。九州工業大学の超小型衛星試験センターや、福井県工業技術センターで衛星の環境試験を行う紹介業務も行っている。

Space for Spacceウェブサイト
Space for Spacceウェブサイト

人工衛星を開発して打ち上げる、という誰もがイメージしやすい宇宙利用に加え、2018年11月、教育事業への参入を表明した。これは、「宇宙教育」という言葉で想起される宇宙科学や技術を通して自然科学へ関心を高める青少年向けの教育プログラムとはやや異なる。JAXAおよび宇宙飛行士の山崎直子氏が持つ宇宙飛行士の訓練に関する経験・知識を通して、新たな学力評価ツールを開発しようというものだ。従来、学力試験で測ることができる力(認知スキル)とは異なる、「急激で予測不能な変化に対応する力/新たな価値を創造する力」(非認知スキル)と呼ばれる能力を評価する手法だという。星槎大学大学院教育学研究科の北川達夫客員教授、通信教育や学習塾を展開するZ会グループと共に幼児~大学生向けの評価手法と教材・プログラムを開発。2019年4月にはテストマーケティングを開始し、2020年4月にはプログラムの本格販売を目指すという。

山崎直子氏によれば、宇宙飛行士は訓練を通してチームのコミュニケーションスキルを高めていくという。何らかの不具合に対処するための訓練も詰むといい、こうした訓練手法が「社会の急激で予測不能な変化に対応する力」に結びついていくと考えられる。すでに社会に出た成人にも求められる能力といえるもので、永崎将利社長は「児童や学生向けだけでなく、企業のリーダーシップ研修など社会人向けのプログラムにも展開できる」としている。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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