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フランチャイズ・レコードを塗り替える投手たち。M'sの奪三振記録はビッグ・ユニットからキングへ

宇根夏樹ベースボール・ライター
ノーヒッター達成の岩隈を抱擁するヘルナンデス(熊)AUG. 12, 2015(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

フランチャイズ・レコード(球団記録)は球団ごとの差が大きい。例えば、ミネソタ・ツインズの最多勝利(ワシントン・セネタース時代を含む)がウォルター・ジョンソンの417勝であるのに対し、コロラド・ロッキーズはホルヘ・デラロサの78勝に過ぎない。

また、ほとんどのフランチャイズ・レコードが1人の投手に占められていることもある。ランディ・ジョンソンがアリゾナ・ダイヤモンドバックスで記録した232先発、38完投、14完封、1630.1イニング、118勝、62敗、2077奪三振、1325被安打、163被本塁打、74与死球などは、いずれもフランチャイズ・レコードだ(62敗はブランドン・ウェッブとタイ)。ランディはシアトル・マリナーズでも、2162奪三振、19完封、884与四球、89与死球などのフランチャイズ・レコードを保持している。「ビッグ・ユニット」のニックネームは伊達ではない。

まったく時代の違う投手が、時代を超えて肩を並べる例もある。ボストン・レッドソックスでは、サイ・ヤングロジャー・クレメンスが192勝と38完封のフランチャイズ・レコードを分け合っている。ニューヨーク・ヤンキースで最多の438試合に先発登板したのは、ホワイティ・フォードアンディ・ペティットだ。ヤングはクレメンスが生まれる7年前にこの世を去っており、フォードとペティットも40歳以上離れている。

そういったなかで、今シーズンは4人の投手がフランチャイズ・レコードを塗り替えそうだ。

●フェリックス・ヘルナンデス(シアトル・マリナーズ)

「キング」のニックネームどおり、フェリックスはマリナーズのエースとしてマウンドに君臨してきた。すでに、334先発、2262.1イニング、101敗、126暴投はマリナーズで最も多い。これらのうち、昨シーズンは暴投を除く3部門でトップに立った。今シーズンはそこに、勝利、奪三振、被安打が加わるはずだ。ジェイミー・モイヤーの145勝と2100被安打を超えるまでは、あと3勝と82被安打。21三振を奪えば、ランディの2162奪三振を追い越す。

フェリックスの契約は2019年まで残っており、満了までの4シーズンをマリナーズで投げれば、ほとんどのフランチャイズ・レコードを塗り替える可能性もある。フェリックスがまず届かないのは、マイク・ムーアの56完投と佐々木主浩の129セーブくらいだ。フェリックスの完投は現時点で25試合。2005年のメジャーデビュー以来、リリーフ登板は一度もしておらず、すべて先発として投げてきた。なお、佐々木に迫っている投手はいないものの、4シーズンのトータルであることからもわかるように、アンタッチャブルな記録ではない。129セーブのフランチャイズ・レコードは、30球団中6番目に少ない。

●ホルヘ・デラロサ(コロラド・ロッキーズ)

フェリックスのような生え抜きではないが、2008年からロッキーズで投げているデラロサも、いくつかのフランチャイズ・レコードを持っている。78勝、877奪三振、63暴投がそうだ。今シーズン、ジェイソン・ジェニングスの425与四球を抜くのは確実だろう。あと8四球を与えると、新たなフランチャイズ・レコードとなる。加えて、アーロン・クックの206先発も追い越すかもしれない。記録更新までは31先発だ。可能性は低いものの、17敗、34被本塁打なら、クックの68敗とペドロ・アスタシオの139被本塁打も上回る。フェリックスとはスケールが違うとはいえ、打者天国のクアーズ・フィールドを本拠として投げ続けてきたことは称賛に値する。ロッキーズの投手として500イニング以上を投げた13人中、デラロサの防御率4.20は3位に位置する。

●マイク・ダン(マイアミ・マーリンズ)

2010年のオフにマーリンズへ移籍してから、ダンは5年続けて60試合以上に投げてきた。あと15登板を積み重ね、ブレイデン・ルーパーの368登板を追い抜く日は近い。例年以上にフル回転すれば、ルーパーが2002年に記録した78登板のシーズン・フランチャイズ・レコードを塗り替えてもおかしくない。昨シーズンのダンは72試合に投げ、2013年と2014年は75登板ずつしている。ちなみに、ルーパーはマーリンズにいた5シーズンとも70登板以上。マーリンズからニューヨーク・メッツへ移った2004年も71試合に登板した。6年連続70登板以上はメジャーリーグ史上2位の長さ。バディ・グルームが1996~2002年に記録した7年連続に次ぐ。

●ケンリー・ジャンセン(ロサンゼルス・ドジャース)

ドジャースのように長い歴史を持つ球団で、フランチャイズ・レコードが更新されることは滅多にない。ただし、投手成績のなかでセーブは例外だ。それは、現役投手のジョナサン・パペルボン(ワシントン・ナショナルズ)がボストン・レッドソックス(219セーブ)とフィラデルフィア・フィリーズ(123セーブ)のフランチャイズ・レコードを保持していることからも窺える。ヤンキース(マリアーノ・リベラ/652セーブ)とサンディエゴ・パドレス(トレバー・ホフマン/552セーブ)を除く28球団のフランチャイズ・レコードは320セーブ以下で、半数以上の16球団は200セーブにも届かない。

ジャンセンはあと20セーブを稼げば、エリック・ガニエの161セーブを超える。ここ4年とも少なくとも25セーブを記録していることからすると、長期にわたって欠場しない限り、更新は間違いないだろう。ダイヤモンドバックスのブラッド・ジーグラーも、ホゼ・バルバーディの98セーブを追い抜く可能性は皆無ではないが、1シーズンに55セーブはかなりハードルが高い。これまでにシーズン55セーブ以上を挙げたクローザーは4人しかおらず、ジーグラーがバルバーディと並ぶのに必要な54セーブですら、その4人の他には達していない。ジーグラーは昨シーズンの30セーブがキャリアハイだ。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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