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イタリアに連勝できなかったジャパンの本当の「敗因」は、アタックの無策?

永田洋光スポーツライター
終了直前に松島幸太朗が挙げた“意地のトライ”も、勝敗は覆せなかった。(写真:アフロ)

リベンジを期したイタリアと、後半勝負を意図したジャパン

 ロシアでサッカーW杯が開幕し、毎日続く好ゲームにスポーツファンが熱狂するなか、ラグビーもまた存在感をアピールすべく、16日、ジャパンが神戸市でイタリアとのテストマッチ第2戦に臨んだ。

 この試合でイタリアを破れば、ヨーロッパのシックスネーションズ参加国から史上初めてテストマッチ連勝という記念すべき勝利になるはずだった。

 しかし、物事はそう簡単には運ばなかった。

 

 イタリアは、第1戦の先発15人から2人を入れ替えた。

 特に工夫を凝らしたのがバックスの布陣だった。

 第1戦で、シックスネーションズ4トライの実力を発揮するかと期待されながら、福岡堅樹の引き立て役に終わった快足ランナー、マッテーオ・ミノッツィをFBからWTBに移動。FBには、堅実な守備とキックに長けたジェイデン・ヘイワードを起用した。

 ジャパンが前戦同様に立ち上がりから長いキックを蹴り込んでくることを予想して、ヘイワードをカウンターアタックの起点に置き、ミノッツィから守備の負担を減らすと同時に、機を見て縦横に走らせるプランがメンバー表から読み取れた。

 ジャパンにリベンジを! という思いが、イタリアには充満していたのだ。

 対するジャパンも、ジェイミー・ジョセフHCはメンバーを大きく替えなかった。

 先発15人で変更があったのは、第1戦で活躍したNO8アマナキ・レレイ・マフィを控えに回し、控えだった徳永祥尭を6番に起用。NO8には、成長著しい姫野和樹を配した。

 試合が僅差で推移することを想定し、後半の勝負所でマフィを起用。高温多湿の環境下で疲れが出始めるイタリアに、破壊力満点のマフィをフレッシュな状態でぶつけるプランが想定された。

 しかし、ゲームは想定通りに行かなかった。

 ジョセフHCは、前半4分にLOアニセ・サムエラが危険なプレーでシンビンとなり、10分間の一時的退場になったことを「代償は大きかった」と振り返ったが、想定通りに行かなかった原因は、それだけではない。

 アニセ不在の10分間、ジャパンはディフェンスで健闘し、イタリアに得点を許さなかった。14人で緊密な防御を続けたことで、スタミナを奪われた点は確かにその通りだが、それよりもアニセが戻ってからのアタックが無策だった。

アタックの無策が想定を狂わせた!?

 たとえば、前半15分。

 ジャパンは、ハーフウェイライン上スクラムでWTBの福岡をSH役にしてボールを投入。そのまま右のスペースに走るプレーを仕掛けた。

 今年のサンウルブズで何度も試したプレーだ。

 しかし、何度見ても、いつも福岡が単純にボールを持って走るだけで、それ以外の工夫が見られない。

 このときも、イタリアSHマルチェッロ・ヴィオリが予測したようにタックルに入り、すぐにNO8アブラハム・ステインが福岡に働きかけてボールをもぎ取った。

 結果、一転して防御に回ったジャパンは、PR稲垣啓太がハイタックルの反則をとられてイタリアに攻め込まれた。

 日本には8→9(ハチキュウ)という伝統的なムーブがあって、それこそ昭和の時代からさまざまなバリエーションをつけて効果的なアタックを仕掛けてきた。

 なぜ、それを福岡に仕込まないのか。

 たとえば、9番のポジションに福岡を立たせたときに、マフィのような突破役にボールを持たせてハチキュウを仕掛ければ、相手は2人をマークしなければならず、特にタッチライン際の狭いスペースを攻めれば大きなゲインが見込める。

 このプレーの肝(きも)は、NO8に、ボールを拾って走り出しながらスッと横にパスを出すスキルが備わっているかどうか。

 このとき実際にNO8に入っていた姫野にはその力があるし、パスセンスに秀でたマフィにも十分にこなす力がある。

 あるいは、福岡がボールを持たずに右に走り、NO8が逆の左サイドに走る、というムーブだって考えられる。

 それなのに、福岡は、いつも単純に走るだけ。

 いくら俊足でも、それで防御を破れるほど、テストマッチは甘くない。

パスが遅ければ、スペースは生まれない!

 このピンチは、イタリアのノックオンに救われたが、続く自陣のスクラムからジャパンは左へ展開。

 もう一度、福岡にボールを持たせた。

 左サイドに、SO田村優、ラファエレ・ティモシーとウィリアム・トゥポウの両CTB、FB松島幸太朗、福岡と5人を並べ、トゥポウを囮(おとり)にしてラファエレ→福岡とパスを通したのだが、囮役のトゥポウにイタリアの防御ラインはまったく反応せず、ラファエレも漫然とパスを放ったために、福岡がボールを持ったときには、イタリアのCTBミケーレ・カンパニァーロとWTBトンマーゾ・ベンヴェヌーティが迫っていた。

 サインプレーを仕掛けたアタック側が1人、仕掛けられたディフェンス側が2人という、防御側有利の状況が生じてしまったのだ。

 これでは福岡もどうすることもできず、キックを使って局面を打開しようとしたが、このキックがヘイワードにしっかり読まれてカウンターアタックを食らい、そのままつながれて、ベンヴェヌーティのトライに結びつけられた。

 現象的に見ればキックの質が今イチで、その後の防御も甘かったためにトライを奪われたように見えるが、実は、アタックに工夫が見られなかった時点で、ピンチは進行していたのである。

 イタリアにさらにトライを追加された直後の29分には、こんな場面もあった。

 ハーフウェイライン付近のラインアウトからジャパンは左に展開。SH田中史朗から姫野がパスを受けてラファエレへ。ラファエレがすぐに田村にボールを戻し、トゥポウから逆サイドのWTBレメキ・ロマノ・ラヴァを入れ、さらに松島→福岡とボールを回そうとした。

 ところが、パスが遅く、かつあまりにも人数をかけたために逆にスペースがなくなり、レメキがタックルされて松島へのパスが通らなかった。後方にこぼれたボールを拾った福岡が横に走って何とか前進を図ったが、最後は相手ボールのスクラムで終わっている。

 第1戦でマフィのトライに至ったパス攻撃は、スキルの高い選手が遂行。しかも、前に出ながら冷静に状況を見極められたために絶大な効果を発揮した。しかし、セットプレーの停止した状態からでは、名手・立川理道を欠くラインではパスが遅く、イタリア防御にギャップが生じない。

 フィジカルな強さや高い防御力を誇るラファエレもトゥポウも、パスはあまり上手くない。特にジャパンで要求される、相手にギリギリまで接近しながら素早くパスを放るという、難度の高い技を苦手としている。

 それなのに、第1戦で馬脚を現わさなかったことを根拠にこのコンビを起用した結果、仕掛けがことごとく不発に終わったのだ。

リザーブ投入のタイミングはこれで正しかったのか?

 ジョセフHCはすぐに手を打った。

 後半開始からSHに流大を、NO8にマフィを入れて、姫野をFLに戻した。

 けれども、立ち上がりに、気負ったマフィが突進したあげくペナルティをとられ、その後のラインアウトを起点にトライを奪われた。

 この時点でスコアは3―19。

 9分にはミノッツィがラックのこぼれ球を拾ってインゴールへと駆け抜けた。

 これは、TMOでオフサイドと判定されて得点にならなかったが、流れは完全にイタリアに傾いていた。

 それでもジョセフHCは動かなかった。

 リザーブに控えた松田力也と中村亮土がピッチに入ったのは、後半も半ばにさしかかろうとするタイミング。

 皮肉なことに、ラファエレと田村が下がり、松田がSOに、中村がCTBに入ったとたんにトゥポウのトライが生まれ、さらにマフィのトライが続いて、スコアは17―19と一気に縮まった。

 流、松田、中村の起用が当たったのだ。

 けれども、そこからイタリアに2PGを追加され、ジャパンは敗れた。

 終了直前に松島が、最後は個人技で意地のトライを挙げたが、これは英語で言う「コンソレーション・トライ(consolation try)」。意味は、勝利につながらない“慰めのトライ”だ。

 この結果を「惜敗」と総括するのは簡単だが、それでは来年のW杯につながらない。

 20分間で3トライが生まれたのだから、もし“仕掛け”ができる松田、中村を後半10分の時点で投入していれば、十分に逆転ができたのではないか。

 あるいは、前半から防御に走り続けたFW前3人をもっと早く入れ替えれば、失点につながる反則を減らせたのではないか。

 結果論を承知で言えば、テストマッチ3連勝を“公約した”HCの采配には、そんな疑問が残ったのである。

 サッカーW杯を見れば、W杯が、高いレベルで行なわれる本物の真剣勝負であることがよくわかる。

 ラグビーW杯だって同じこと。

 世界最高のラグビーチームを決める大会には、すべての参加国が誇りと意地をかけて、最高の状態で乗り込んでくる。そのW杯に向けた強化で、ジャパンは“本気モード”になったイタリアに競り負けた。

 この意味を、ラグビー界は、真剣に考える必要がある。

 

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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