物価高への懸念強まる…2023年9月景気ウォッチャー調査は現状下落・先行き下落
現状は下落、先行きも下落
内閣府は2023年10月10日付で2023年9月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。
2023年9月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス3.7ポイントの49.9。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」が減少。原数値DIは50.4。
→詳細項目は「飲食関連」以外の項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス1.9ポイントの49.5。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは49.7。
→詳細項目は「飲食関連」以外の全項目が下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年9月では人流増加によるプラスの影響はあるものの、物価高で消費意欲が抑えられるなど多方面でのマイナスの影響が生じており、前月比で下落することとなった。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2023年9月では秋の行楽シーズンを間近にひかえて人流増加のプラス影響への期待があるものの、物価高への懸念が非常に大きく、不安が高まりを見せていることから、前月比で下落することとなった。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の増加からの高止まり感が景況感の足を引っ張ってはいるが、人流増加のプラス影響は力強く、プラスを示していた。しかし今回月では物価高の影響が非常に強く、全体ではマイナス。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」「雇用関連」。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外すべて。人流増加によるプラス影響もあるが、物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を大きく引っ張っている。
多方面で物価高の影響が
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・今月は2回の連休ともに、インバウンドを含めた観光客がかなり増加している。また、それに伴い飲食を中心にかなり売上も増加している。物販についても、新型コロナウイルス感染症発生前の状況に戻ってきている(商店街)。
・順調に推移している教育旅行団体に加えて、組織や団体のニーズも出てきている。日帰り旅行客がいまだ多いが、インバウンドの来訪も徐々に増えている(旅行代理店)。
・物価高騰が収まらないなか、おにぎりや弁当などの主食商品について、客が価格を気にしながら購入している。また、キャンペーン商品や値引き商品に対する客の反応が以前よりも良くなっていることも、客が価格に対して敏感に反応している現れである。客単価も下がりつつある(コンビニ)。
・宿泊客に関しては、新型コロナウイルス明けの特需から少し落ち着いたような感じで、客足が思ったよりも伸びていない。6月と比べて県外客が2%ほど落ちている。新型コロナウイルス明けの反動やガソリン代の高騰の影響があったかもしれない(都市型ホテル)。
■先行き
・秋の行楽シーズンを迎え、国内の団体日帰り旅行などの予約が目立って入っている(高級レストラン)。
・秋のトップシーズンを迎え、宿泊を中心に予約が順調に入っており、イベント関連の復活に伴い、先々まで埋まり始めている。また、忘年会の動きも例年どおりで、新型コロナウイルス感染症発生前の水準まで戻りつつある。感染再拡大による自粛の動きが出なければ、景気は良い方向に向かう(都市型ホテル)。
・度重なる値上げにより、生活防衛意識が強まっている(百貨店)。
・暖冬になり、季節商材の売行きが悪くなると考える(家電量販店)。
秋の行楽シーズンを間近にひかえ、人流増加による期待は大きい。一方で物価高によるコスト高と需要減少・節約志向の高まりの2局面からの厳しさを指摘する声も多い。また気象庁から暖冬予想が出たことで、それに関連するマイナス影響への懸念もある。
企業動向でも物価高への影響が見受けられる。
■現状
・イベントによる集客、団体ツアー、インバウンドなどにより、飲食店はお盆帰省後もにぎわっている。実店舗へ足を運んでの購買に移行しているため、通販は減っている。スタッフの確保と育成が急務であり、経費対策も見直しが必要となっている(食料品製造業)。
・取引先工場の稼働低迷の状況が思いのほか、長引いている。燃料、原料資材の値上がりもあり、苦しい状態が続いている(その他サービス業[廃棄物処理])。
■先行き
・業界の見本市なども再開し始めたため、景気は上向く(輸送用機械器具製造業)。
・年末に向けた動きで、資材価格の高騰が影響し、カレンダー等の案件で中止や部数削減などの見直しが多く出ている(出版・印刷・同関連産業)。
観光地などで人流増加によるプラスの影響が生じているとの声がある一方で、物価高などによる業績低迷とコスト高の話も出ている。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・建設関係の求人数が連続して減少している。資材価格の高騰が影響しているのではないかと推測している。今まで求人数は増加していたが、9月は横ばい傾向となっている(職業安定所)。
■先行き
・秋のイベントから年末商戦に向けた求人数は増加傾向にあるが、若年層の減少は続くため、紹介が困難になる。そのため、シニア人材の活用を強く推奨している(人材派遣会社)。
「建設関係の求人数が連続して減少」、つまり建築関連の企業で先の見通しに関して成長方向にはないとの認識がされた可能性がある。また若年層が減少するからシニアの人材をとの意見が目にとまるが、若年層への待遇をしっかりとよくした上での話なのだろうかと疑問を感じてしまう。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。今回精査分ではまだあまり声は上がっていないものの、昨今では再び感染者数の増加の動きがあり、これが景況感にいかなる影響を与えるのかが気になるところ。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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