おかえり、モッチー! 望月惇志(阪神タイガース)がマウンドに帰ってきた
■実戦復帰はいきなりの連投
モッチー、おかえりなさい!!
昨年9月8日に右肩関節唇修復術を受け、リハビリを経てとうとう実戦に復帰できた阪神タイガース・望月惇志投手。7月22日の石川ミリオンスターズとの練習試合(鳴尾浜球場)で1回を無安打無失点。そしてなんと翌日の富山GRNサンダーバーズ戦にも登板し、1回を無安打1失点。いきなりの連投だった。
ではまずは、それぞれの登板を振り返ってみよう。
■石川ミリオンスターズ戦
六回表に名前がアナウンスされると、望月投手はスタンドからの温かい拍手に迎えられた。マウンドで少し目を瞑り、集中力を高めた。久々の感触を味わっているようでもあった。
先頭に四球を出したが、次打者を二ゴロ併殺打に仕留めて2アウト。6球ボールが続いたけれど、江草仁貴投手コーチは「想定内です」と意に介さず、「逆に2人目で修正できたのがすごいと思った。もうちょっとかかるなとは思ったから」と目を細めた。
3人目はこの日最速タイの146キロでファウルさせたあと、4球目の144キロでバットをへし折り、二ゴロでスコアボードに0を刻んだ。飛んできたバットの破片をうまく避ける軽い身のこなしも見せた望月投手は、ベンチでホッとした笑みを浮かべていた。
降板後、「肩の痛みなく投げられたのが一番です。すごく大きい階段を上った感じはします」と、まずは実戦までたどりつけたこと、痛みなく投げられたことに喜びをにじませた。
「試合の中で、ブルペンじゃつかめない感覚も出てきながらという感じでした。途中で修正まではいかないですけど、できたっていうのはよかった。あの感じ(3人目の二ゴロ)を初球から投げられるように」。
それは次の登板への課題としたが、なんといっても復帰1試合目だ。「予定もちょっと遅れながらっていう感じでしたけど、やっぱり試合で投げないと。試合で投げるのが仕事ですし、まずそれができたのはよかったかなと思います」。
本当に、ゲームに登板できたことがなによりだった。
■首脳陣評
和田豊監督は「しっかり腕は振れていたし、ガンもそこそこ出ていた(最速146キロ)。もっと速い球を投げるピッチャーだけど、それはこれから。マウンドに上がって1イニング投げられたことが収穫、一歩前進っていう事実」と話し、江草コーチも「ずーっと頑張っているのを見ているので、なんとか復活してもらいたいと思ってきた。やっと試合に投げられて第一歩を踏み出せたというのは、本人にとっても自信になる」とうなずいた。
そして、ともに「手順は踏んでいるし、もう連投しても大丈夫なところまではきている」(和田監督)、「数を投げてきているので大丈夫。状態を確認して、トレーナーもGOを出している」(江草コーチ)と翌日の連投を予告した。
■富山GRNサンダーバーズ戦
翌23日は2者連続四球に暴投も絡んで犠飛で1点を失うも、またもや二ゴロ併殺打で役目を終えた。
「ゲームで連投して、肩の痛みなく投げられたんで、フィジカル的なことで言ったら問題なく投げられたかなという感じです」。
前日からさらに前へ進んだ。福原忍コーチからも「一段ずつ階段を上れたんじゃないか」と声をかけられたという。
「昨日はちょっと力みすぎて力もだいぶ入っていたので、せっかく連投させてもらってるのに昨日と同じことをしても意味がない。僕の中で何か変わればいいなと、いろいろ意識しながら投げた」。
これで「故障者組」からは外れた。今後はゲーム展開での登板になる。「そこでいつでも結果が出せるように準備をしたいと思っています」と、表情を引き締めた。
■首脳陣評
試合後、首脳陣も「連投できるくらい、よくなっているってこと。昨日よりはだいぶ落ち着いてきているし、ここから投げるごとにコントロールも安定してくると思うよ」(和田監督)、「今日もちゃんと投げられたというのは、彼にとってプラス。昨日今日は無事に投げ終わることが最優先だったけど、ここからがスタート」(江草コーチ)と、これからの飛躍に期待を寄せていた。
■当初の予定より遅れた
術後からこの実戦マウンドまでは非常に長かった。年明けに投げはじめはしたが、一進一退を繰り返し、歯がゆい思いを重ねてきた。痛みや違和感がなかなか抜けず、当初の予定では春季キャンプ明けにはブルペンに入れるだろうということだったが、思うように進捗せず、やっとブルペンに入れたのは4月だった。
「もちろん焦ってましたし、どこに自分の目標を設定するかも…。それでまた焦ったりもしますし。なかなか右肩上がりに毎日っていう感じでもなかったんで」。
苦しい日々を振り返りつつ、言葉を絞り出す望月投手。痛いながら投げている時期が長かったこともあって、投げ方も試行錯誤した。
「負担のない投げ方、でも出力を落とさない投げ方、バッターを抑える投げ方、いろんなことを求めていくと、やっぱり肩にも負担がきたりっていうのもありますし…」。
もがきにもがいた。どんなにか苦しい日々だったことだろう…。
■シート打撃に登板
6月からは球数を50球ほどに制限しながらも、週2~3度のペースでコンスタントにブルペン入りした。そして、ようやくシート打撃に登板できたのが6月17日。大きく前進したことに、清々しい笑顔を見せていた。
「やっぱりバッターが立ったら力も入るし、術後の肩の感じを確かめながらブルペンで投げるピッチングとは違う。そこを一番感じました。力むことによって、練習してきた動きもできなくなる」。
あぁ、そうだな。そうだったよな―。そんな久しぶりすぎる、なつかしい感覚も思い出していた。
「痛い時期、肩をかばっている時期が長かったんで、正しいフォームというより、かばったフォームが体に染みついてしまった。マックスでバッターに向かっていけるような投げ方を無意識にできるようにって、やっているところです」。
肩の痛みを感じて以来、痛みがないところを探して自然と肩をかばうような投げ方になっていた。現在はもう、かばうということはないが、「もっと肩がスムーズに動いてくれるような体の使い方」を求めて投げている。あとはもう、どんどん打者に投げ込んでいくしかない。
「バッターの反応を見て、バッターが立ったときに自分がどうなるのかも知って。それを踏まえた上でのブルペンは違ってくる。もっと試合に向けた練習をどんどん入れていかないと」。
打者と対戦したことで見えたこと、気づけたことがいろいろある。その後のブルペン投球や練習は意識することも変わり、あらためて実戦復帰への意欲が高まっていった。
さらにシート登板を何度か行ったが、「やっぱり対バッターになってくると、少しでも肩に不安があったりすると100%で向かっていけない。そういう面ではしっかり向かっていけるようにブルペンでも意識しながらっていうのが、ちょっと続いたっていう感じ」と、やや足踏みもあった。
しかし、それでもやっと実戦のマウンドに立つことができた。
■さまざまなことにトライ
光を見失いそうになったこともあっただろう。けれど、望月投手は決してあきらめることはなかった。前を向けるもの、向上に役立つものをとアンテナを張って探し続けた。
毎日、治療のほかパーソナルトレーニングや目のトレーニング、ピラティスなどさまざまなところに通い、鳴尾浜での練習が終わったあとの約2時間を有効に使った。
「家でゆっくりするのが得意じゃないんで。でも、リハビリの時期にあちこち行ってなかったら家にいる時間が長くなって、メンタル的にもきつかったなと思います」。
何かに没頭していたいという思いもあった。余計なことを考えず、ただひたすらよくなるものをと模索し、人にも聞き、いいと思うものはすぐに取り入れた。
すべてが野球につながるようにと考えてのことだが、それがリフレッシュにもなり、そうすることによってあきらめずにいられたと振り返る。
■睡眠の質を向上
少しでも肩の回復が早くなるようにと考え、睡眠にもこだわってきた。時間だけでなく質の向上も求めている。
「夜9時半や10時前くらいにはもう寝ているんで。時間も8時間くらいとるようにしています。アップルウォッチで測ってるんですけど、途中で起きたり、寝つくまでの時間があったりとかで、実際は8時間眠れていないですけどね。あと、睡眠が深くなるウェアを着て寝たりもしています」。
さらに「遅延型アレルギー」の検査もした。「遅延型アレルギー」とは食べ物を摂取することによって起こるアレルギー反応だが、症状も多彩で出るのも遅く、自覚できていないことが多い。
「(アレルゲンの食物を)摂ると消化に時間がかかって睡眠の質が悪くなったり、疲労回復が遅れたりするって聞いたので」。望月投手の場合、アレルゲンは小麦だった。
一般人が普通に生活する分にはなんら問題ない程度だが、「小麦を摂る量を減らしたりしています」と、できることはなんでもやってきた。
■ここからは結果
「いろいろやっていることが生きたかどうかは、(試合で)結果が出れば生きただろうし、出なければ…という感じ。でも、僕が結果を出すことで、通っているところの人たちにも『来てもらってよかった』って思ってもらえるでしょうし、結果を出すことが一番」。
そう。ここからは結果を求められ、結果で判断される。それは重々承知している。これまで支えてくれたり関わってくれた人々に報いるためにも、結果を出すことに心血を注いでいく。
「少ないチャンスで結果もしっかり出していかないといけない立場。1試合1試合、1球1球、結果を出していくしかない」と、何度も何度も「結果」と口にし、誓いを新たにしていた。
■必ずや1軍に返り咲く
江草コーチも「ファームといえど、ここからは競争になってくる。技術的なところと試合展開で、出る出られないが決まってくる。そういう中で勝負していくところなので、これからが本当のスタート」と、お尻を叩く。
ただ、ここまでの姿を見てきた江草コーチは、自身もけがで離脱した経験を重ね合わせ、その気持ちも共有している。
「やっぱり復帰して投げるというのは特別な気持ちになるところ。今の嬉しい気持ちを忘れずに、ずっとやってほしい。ま、でもモッチーはいつも一生懸命やるんで、そこは変わらないでしょうけど」。
1試合目のマウンドで見せた修正力についても、こんな話をしていた。
「引っかけてる原因を自分でわかっている。それをいかに早く修正できるか。ブルペンでもそうなったときに『こうじゃない!』『これじゃない!』とか言いながら、いつもやってるんで。個別練習とかピッチングとか、それだけの数をずっとやってきている。最初から最後までずっと投げているヤツなんで、それはもう、本当に頑張っていると思います」。
流してきた汗は裏切らない。江草コーチはそう信じ、望月投手の1軍での復活を楽しみにしている。
やっとリスタートできた。2ケタの背番号を取り戻し、望月惇志は必ずや表舞台に返り咲いてみせる。
(撮影はすべて筆者)