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インフルエンザワクチンを毎年接種すると効果が減弱する?それでも毎年接種した方が良い理由

忽那賢志感染症専門医
(写真:アフロ)

今シーズンもインフルエンザワクチンの接種が開始されています。

今年は昨年よりもワクチンの供給量が少なくなることから、接種を希望してもすぐには接種できないという方もいらっしゃるかもしれません。

ワクチンを接種できるに越したことはありませんが、できなかった人も去年ワクチンを接種していれば多少は効果が残っているかもしれません。

近年のインフルエンザワクチンの有効性についての知見をご紹介します。

前シーズンのインフルエンザワクチン接種が与える影響は?

インフルエンザウイルスは抗原性を変化させるため毎年流行するウイルスが異なります。

このため、毎年流行するインフルエンザウイルスに合わせたインフルエンザワクチンを接種することが推奨されています。

インフルエンザワクチンを毎年接種するもう一つの理由として、効果が長期間持続しないことが挙げられますが、過去のインフルエンザワクチン接種歴は今シーズンのインフルエンザには全く効果はないのでしょうか?

近年、過去のインフルエンザワクチン接種による影響を解析した研究が増えてきています。

例えば、アメリカで3万人を対象にしたインフルエンザワクチンの感染予防効果についての検討では、

・今シーズンのみ接種した人:42%

・今シーズンと前シーズンを接種した人:37%

・前シーズンのみ接種した人:26%

前シーズン/今シーズンにインフルエンザワクチンを接種していない人と比較した感染予防効果

という結果でした。

このように、前シーズンのインフルエンザワクチン接種は今シーズンのインフルエンザの予防にも多少は効果があると考えられます(ただしこの研究ではインフルエンザAのうちH3N2には前シーズンのワクチン接種は効果がなかったという結果になっています)。

ただし、毎年の流行するインフルエンザウイルスとその年のインフルエンザワクチンの効果にはバラつきがありますので、あくまで傾向として、ということになります。

毎年インフルエンザワクチンを接種すると効果が減弱する?

さて、先程のアメリカの報告を見て何か気づかれましたでしょうか。

そうです、前シーズンにワクチン接種をしておらず、今シーズンのみにワクチン接種した人の感染予防効果42%と比べて、前シーズン/今シーズンともにワクチン接種をした人は37%と若干効果が落ちています。

これは、インフルエンザワクチンを繰り返し接種すると、ワクチンに対する免疫反応、特にH3N2ワクチン成分に対する免疫反応が弱くなるという知見と一致します。

過去のインフルエンザワクチン接種歴と今シーズンのワクチン接種による感染予防効果(Euro Surveill. 2020 Jan;25(1):1900245.より)
過去のインフルエンザワクチン接種歴と今シーズンのワクチン接種による感染予防効果(Euro Surveill. 2020 Jan;25(1):1900245.より)

この数年の間に、過去のインフルエンザワクチン接種と今シーズンの感染予防効果に関する知見が集まってきています。

例えば、過去10年のワクチン接種歴と今シーズンのワクチン接種による感染予防効果の有効性について検討した研究では、過去のワクチン接種が多いほど今シーズンのインフルエンザワクチン接種による有効性が落ちるという結果でした。

こうしたことから、毎年の接種でも効果が減弱しないような、より良いインフルエンザワクチンの開発が望まれています。

「えっ・・・毎年インフルエンザワクチン接種してるけど、効果落ちるなら打つのやめようかな」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、前述のデータにもあったように、インフルエンザワクチン接種による感染予防効果は、

①今シーズンのみ接種

②前シーズン/今シーズンともに接種

③前シーズンのみ接種

④前シーズン/今シーズンともに接種せず

です。

今シーズンも接種可能な方は、前シーズンの接種歴にかかわらず今シーズンもインフルエンザワクチンを接種すべきです。

今シーズンどれくらいの規模で流行するのか現時点では予測できません。今シーズンのインフルエンザの感染を防ぐための最善の選択はやはりインフルエンザワクチンの接種ということになります。

また、これまでの議論は主に感染予防効果についての検討ですが、ワクチンの効果は感染を防ぐためだけでなく、感染した場合に重症化を防ぐ効果も重要です。

など、インフルエンザワクチンには重症化を防ぐ効果もあります。

特にインフルエンザに感染した際に重症化リスクの高い、

・2歳未満の小児(ワクチン接種は6ヶ月以上から)

・65歳以上の高齢者

・呼吸器・心血管・腎・肝・血液・代謝内分泌(糖尿病含む)・神経筋疾患などの慢性疾患のある人

・免疫不全者(免疫抑制剤使用、HIV等を含む)

・妊娠中・出産2週間以内の女性

・19歳未満でアスピリン長期使用者

・肥満

・介護施設や慢性期病棟の入所者

MMWR Recomm Rep 2021;70(No. RR-5):1–28.より

に該当する方は、毎年のインフルエンザワクチンを接種するようにしましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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