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キャンプがボイコットになっても大谷翔平は問題なくキャンプインできる!?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
まだMLB選手会の“管轄外”である大谷翔平選手(写真:ロイター/アフロ)

 2018年を迎えても大きな進展が見られないMLBのFA市場。過去に類を見ない低調ぶりに、遂に選手会や大物エージェントが声を挙げ始めた。

 すでに日本の複数メディアが報じているように、選手会の専務理事を務めるトニー・クラーク氏が現地2日に以下のような声明を発表し、打開を目指し戦う姿勢を示している。

 「数十年間にわたり、FAシステムはMLBの経済システムの根幹となり、選手や試合に利益をもたらしてきた。そしてFAシステムが脅かされる度に選手、その代理人、選手会はそれを克服するために団結してきた。その姿勢は決して変わることはない」

 この声明と時を同じくするように、世界最大のスポーツ専門のエージェント企業『CAAスポーツ』で野球部門の共同代表を務めるブロディ・バンワゲネン氏が声明を発表し、現状について「選手たちは取り乱している。いやそれ以上に憤慨している。まだ契約が決まっていない選手だけでなく、長期契約中の選手さえもフラストレーションを抱えている。彼らの声は徐々に大きくなり、1994年(MLB最後のストライキがあったシーズン)以来なかったまとまりを見せ始めている」とし、球団側に変化がなければスプリングトレーニングのボイコットを呼びかけている。

 バンワゲネン氏が所属するCAAスポーツは昨年大谷翔平選手が契約した企業で、大谷選手を担当しているネズ・バレロ氏も野球部門の共同代表を務めている。バンワゲネン氏は大谷選手に直接関わる人物ではないが、ロビンソン・カノ選手やヨエニス・セスペデス選手、ライアン・ジマーマン選手らの大物選手の代理人を務めている大物の1人だ。

 バンワゲネン氏のみならず、その後もMLB最大のエージェントであるスコット・ボラス氏や他のエージェントたちが球団側の姿勢に疑問を呈する声を挙げている。しかし現役選手たちは現時点で、選手会やエージェントに呼応するような反応を見せておらず、果たしてスプリングトレーニングのボイコットにまで発展するかは現時点で微妙な状況だといえる。

 そもそも今回のFA市場の低調を招いたのは、一昨年12月にMLBと選手会が合意した統一労働協約が原因だとされており(詳細は有料記事で解説済み)、年明け辺りから選手たちの間で、同協約の交渉に当たった選手会のクラーク専務理事への不信感が募り始めているとの報道がなされていたほどだ。

 1994年にシーズン途中でストライキになった際はまだ新しい統一労働協約が合意できていない状況だったこともあり選手会は一枚岩だったが、今回は現協約の有効期間内にあり、それが2021年まで有効なのだ。今更選手会の希望で何かを変更できるものではなく、選手会が本当に一つにまとまれるのか疑問が残るところだ。

 ただこのまま低調ぶりが続き、本当に選手会がスプリングトレーニングをボイコットするような団結力をみせることになったなら、エンゼルスに移籍したばかりの大谷選手はどうなるのだろうか。実は彼は普通にスプリングトレーニングに参加し、マイナーだが通常通りシーズンを迎えられるのだ。

 もう有名な話だが、現統一労働協約に新たに設けられた「25歳ルール」のため、大谷選手は今回エンゼルスとマイナー契約で合意するしかなかった。なので現在の身分はあくまで“マイナー選手”であり、招待選手としてメジャーのスプリングトレーニングに参加することになっている。つまり大谷選手はメジャー契約をしているわけでもなく、メジャー登録の最低条件である「40人枠」に入っているわけではないので、まだ選手会に所属しておらず選手会が指導するボイコットの対象外選手になるので、規則を破ることなくスプリングトレーニングに参加できるのだ。

 というのも、スプリングトレーニングがボイコットされればメジャーのスプリングトレーニングはキャンセルとなるが、マイナーリーグはまったく影響を受けない。通常通りスプリングトレーニングは実施されるし、シーズンも通常通り開幕する。ただし一度でもメジャーに登録されたことのある選手は選手会に所属することになるので、現在マイナー契約を結んでいたとしても選手会の指示に従うことになるだろう。あくまで大谷選手はメジャー未経験の他のマイナー選手たちと同じ扱いになるわけだ。

 逆にダイヤモンドバックス入りした平野佳寿投手やパドレス入りした牧田和久投手は、すでにメジャー契約で40人枠入りしているので、選手会管轄の選手になっている。スプリングトレーニングがボイコットされた場合はキャンプ施設で練習することも許されなくなってしまう。そうなれば当然、彼らにとって最悪のスタートになってしまうだろう。

 いずれにせよ状況は今も流動的であり、今後もMLB全体の動きに注目していかねばならない。ただこれまで大谷選手にとってもネガティブに捉えられていた現統一労働協約だったが、そのお陰で最悪の事態を迎えたとしても大谷選手のリスクが最小限に抑えられることは間違いなさそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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