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多部未華子主演『これは経費で落ちません!』再放送を楽しむための「必見ポイント」とは?

碓井広義メディア文化評論家
オフィスドラマの秀作『これは経費で落ちません!』(番組サイトより)

多部未華子主演『これは経費で落ちません!』全10話(NHK)が、10日(木)深夜から3夜に分けて「再放送」されます。

台風報道の関係で放送日時が動き、今夜のスタートとなりました。

この作品が最初に放送されたのは、コロナ禍前の2019年。

ちょっと変わったタイトルですが、予想を超えるオフィスドラマの秀作でした。

請求書や領収書に隠された「真実」

ヒロインである森若沙名子(多部さん)は、中堅せっけん会社「天天(てんてん)コーポレーション」の経理部員。

経理部自体が、会社では「縁の下の力持ち」的な役割を担っているように、沙名子もまた、本来は目立つような存在ではありません。

ごく普通の、真面目で、しっかりした、仕事のよくできる経理部員さんです。

そんな、一見ドラマのヒロインからは遠そうな人物が、ずっと見続けていたいような物語をけん引していく。

会社というもの、そこで働く人たちの生態というものが、一種普遍的な(どこの会社にもありそうな)エピソードとして、良質なユーモアで描かれている。

このドラマの面白さは、そこにあります。

毎回、沙名子が何らかの不正や疑惑に気づくことで、物語が動き出します。

経費で購入した高級ブランド品や撮影機材の「私的流用」。

取引先との契約更新を利用した「不正」。

沙名子は、請求書や領収書に隠された「真実」を見抜く力が抜群なのです。

とはいえ、同じ会社の人間がしたことであり、時には深く追及しないほうがいい場合もあります。

沙名子は「うさぎを追うな!(些細な事にとらわれるな)」と自分に言い聞かせたりするのですが、やはり不正を放ってはおけません。

なぜなら、それこそが、沙名子が先輩たちから学んできた「経理部の仕事」だからです。

また、そんな沙名子のおかげで、当事者が決定的なダメージを受けずに済むこともあるんですね。

このあたりの“機微”の描き方も、このドラマの見どころのひとつです。

「森若さん」というハマり役

このドラマでは、仕事の面だけでなく、沙名子のプライベート部分からも目が離せません。

30歳になる沙名子ですが、これまで恋愛方面については奥手というか、マイペースでした。

自分の生活や精神状態を、自分自身でコントロールしている感覚が心地よかったからです。

つまり、沙名子にとって、「元カレ」なるものは存在しません。

そこへ現れたのが、同じ会社の営業部で働く、山田太陽(ジャニーズWESTの重岡大毅さん)で……。

沙名子が持つ生真面目さ、情に流されない正義感、そして本当の意味の優しさ。

そんな「森若さん」のキャラクターが、あまりに多部未華子さんにピッタリで、まさにハマり役といえます。

以前、このドラマを見た皆さんも、新たな「面白ポイント」が発見できるはずです。

そして初めて見る皆さんは、ひたすら無心で「森若ワールド」を楽しんでみてください。

<NHK総合テレビでの再放送予定>

2023年8月11日(金)<木曜深夜>

午前0:45~1:34(1)

午前1:36~2:25(2)

2023年8月16日(水)<火曜深夜>

午前1:17~2:06(3)

午前2:06~2:55(4)

午前2:55~3:44(5)

2023年8月17日(木)<水曜深夜>

午前0:00~0:49(6)

午前0:49~1:38(7)

午前1:38~2:27(8)

午前2:27~3:16(9)

午前3:16~4:05(10)

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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