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日本人初のナックルボーラーが見据えるもの──大家友和インタビューその1──

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
3年ぶりに米国のキャンプに参戦する日本初のナックルボーラー・大家友和投手

かつてはメジャー球界で通算51勝を記録した大家投手が右肩の負傷もあり、ナックルボーラーへの転身を決めたのが2012年のこと。あれから5年の月日が経過し、日本人初のナックルボーラーは何を感じ取っているのか?率直な思いを聞いてみた。

これほど執着しなければいけないボールは他にない

─オリオールズとマイナー契約できた。ナックルボーラーとして5年間の積み重ねが結実したと思うか?

「もちろんこの結果は積み重ねてきたからこそです。それ以外にないですね。これほどこの1球というものに執着しなければいけないボールは他にはないと思う。コツコツ続けていってやり続けてこそのボールなので、(今日から始めて)明日、明後日で結果なんて絶対に出ないし、自分が上手くなったと感じる部分もあれば、凄く自信がついた日があるのに、なぜか上手くいかなくなって、自分自身が投げるボールによって昨日の自信が打ち砕かれてしまう。まったく(投げる)環境も一緒で、相手がいることでもないのに、そういう日があるくらいですですから、これほど精神的にも、練習量的にもコンスタントに続けていかなければいけないものはないんじゃないですかね」

─なかなか100%になれるボールではないということか?

「それでも100%は目指していかなきゃいけないし、(キャンプインまで)もちろん上積みを狙っています」

─現在の自主トレは調整というより更なる進化を目指しているのか?

「そうですね。ナックルボールを投げ始めてから調整だと思ったことはほとんどないです。例えば日米の独立リーグで投げていても、たとえ(登板の)前日でもいいパフォーマンスができると納得できなければ練習しなきゃいけなかった。それが微調整で済む日もあれば、なかなか(上手くいかない日)だなという日もある。肉体的に明日はしんどくなると思っても、技術が伴ってさえいれば狂った感覚さえ正常に戻せるようになるというか、ナックルボーラーとして歩んでいくことができるのならば、何を差し置いてもそれをしていかないと。実際に調子が上がらずに、前日に一生懸命投げた日もありました。これで食っていこうと決めた以上、投げていかないとダメなんですよ」

─自主トレのみならずキャンプが始まってもがむしゃらにやらなければいけない?

「改めてというか、僕にとってキャンプはいつもそうなんですけどね。今までもいいキャンプを過ごそうと準備をしてきました。ただ今回は余裕がないですよ。開幕にどうこうという話ではないですから。開幕に残るためにどうすべきなのかという話ですから。それは一生懸命毎日集中してやる日々がまた始まるという感じですね」

─今年BCリーグの審判の1人が大家投手のナックルボールを絶賛していた。自分自身の中で何か覚醒した部分はあったのか?

「去年の秋ぐらいから兆しが出てきていて、オフの間の練習も少しいい感じでも出てきていました。自分で何か捉えられたというか、成長できたと感じられたので、僕は続けてきたんです。その果てが2016年シーズンの結果だったということだと思います。手応えがあるとかないとかいうのは、僕にあってもバッターからすればこちらの手応えなんてどうにも意味がないことでしたからね。要は僕以外の人間に評価してもらわないといけないので、そう評価してくれる人がいてくれるなら、それは良かったんじゃないですかね」

投げてみたいイメージには近づいてきた

─ナックルボールを5年間投げ続けた中で、最近の手応えは良くなっていた?

「そうでうね。こういう風に投げてみたいというイメージには近づきましたね。明らかに1年前と今の状態は違いますし、もし1年前にトライアウトを実施してスカウトに見てもらったとしても、去年の状態だったら今年のようには興味をもってもらえなかったと思うんですよ。今回興味をもってもらえたのは、今年は去年の秋より良くなったかなという点があったり、今年のシーズン中も“こうかな”と思う部分があったり、またシーズンが終わってからも練習している中で良くなった部分もあったので…」

─それはまだまだナックルボールが良くなるということか?

「ナックルボールというものだけにこだわれば、そうですね。ただ野球をしているわけですから。野球の部分の中で(自分の投球を)どうするかをやらなきゃいけないですから。野球の中で結果を残せること。そこは必要ですよね。そこは別物です」

─去年の秋から掴みかけているものは具体的に明確になっているのか?

「う~ん…。それも日々変化しているものですからね。こうだなと思いながらも、そうじゃないなという日もあったり。非常に掴み所がないといえばないんですけど。ただ少し“これは違う”ということだけがわかってきた部分はあると思います」

─逆にやってはいけないものが増えてきたということか?

「そうでうね。このやり方じゃ、いいボールが投げられても安定感は出てこないとか、捨てる部分はちょっと見えてきたりしましたね」

進歩していなかったらとっくに辞めていた

─基本はここまでずっと独学でやってきた。闇雲の中で5年間続けてこられたのは、少しずつでも前に進んでいたからなのか?

「それはありますね。進歩していなかったらとっくに辞めていますね。僕自身の中でも手応えを感じていたし、練習を手伝ってもらっている人たちにも感想を聞いて、そこでも“良くなっている”とか言ってもらえた。コーチがいない中でやっているので、常に自分の目で確かめつつも、受け手からのフィードバックというのがないとなかなかやっていけない。いつも受けてくれる人でなくても、初めて受けてくれた人でも、その時受けてくれた人から必ずフィードバックをもらうようにしていました」

─ただナックルボールを投げ続ける中で成長具合は徐々に上がってきている?

「そうですね。技術は衰えないので、年齢がいっていたとしてもやればやるほど技術自体は伸びていきますよね。もちろん技術と体力というのは切り離せないですが、年齢を重ねてもできるスポーツは存在します。そういうスポーツの中ではどんどん経験を積めば積むほど、技術が伸びるアスリートはいると思います。でも野球はそれほどうまくはいかないようですね」

(続く)

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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