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3年ぶりの優勝に届かず3位タイ。今、秘かに感じる松山英樹に足りない「何か」とは、何か。

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
淡々とプレーする松山はグレートプレーヤーだが、かつてと比べておとなしすぎる!?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 米ツアーのプレーオフ第2戦、BMW選手権最終日は、松山英樹の2017年8月以来の優勝が期待されていた。だが、残念ながら松山は3位タイに終わり、優勝争いはダスティン・ジョンソンとジョン・ラームとのサドンデス・プレーオフにもつれこみ、1ホール目で20メートルのスネークラインを見事に沈めたラームが通算5勝目を挙げた。

 スペインの闘牛士の熱いスピリッツを心に宿しているのだろう。ラームはデビュー当時から、きわめて感情的なプレーぶりが目立ち、小さなミスにもかっとなって心を乱し、自滅したケースは過去には幾度もあった。

 だが、今年のラームはエモーショナルでは決してない。ミスにもハプニングにも動じず、冷静沈着だ。

 7月のメモリアル・トーナメントで通算4勝目を挙げたときは、16番で「ボールが動いたのにそのまま打った」ことを優勝インタビューで突然告げられ、ぎょっとした表情を見せた。だが、優勝した事実が変わることはなかったせいもあったのだろう。ラームは冷静さを保ったままインタビューに応じ続けた。それは、かつてのラームを思えば、驚くほどの変化だった。

 今大会では3日目の5番ホールのグリーンで、うっかりマークをし忘れたままボールをピックアップしてしまい、1罰打を科せられてボギーを喫した。

「でも、あの5番で沈めた2メートルのボギーパットは最も重要な1打だった」

 6番以降も落ち着いてプレーすることができた。「それを僕は誇らしく思った」とラームは明かした。

 最終日も「何が起こるかわからない。最後まで諦めない」と自分に言い聞かせながら淡々とプレーを続け、6つスコアを伸ばす猛追をかけ、単独首位でホールアウト。そしてプレーオフを制して通算5勝目を達成した。

 かつては感情的すぎて心が技術を大きく乱していたラームだが、度肝を抜かれるような経験をあれこれ潜り抜けてきた中で、感情をコントロールする術を身に付け、今では静かな心が技術を活かし、さらには技術を伸ばしてさえいる。それが今季のラームの成長だ。

【松山には「何か」が足りない?】

 そんなラームとは対照的に、松山はそもそも寡黙で淡々とプレーするタイプの選手だ。そのスタイルは昔も今も変わらない。もちろん、熱い想いを抱いていることは言うまでもないが、その想いは胸の中に秘め、少なくとも試合中は、感情を露わにすることなく黙々と戦う選手だ。

 かつてのラームのように、ミスや出来事にいきなりカッとなって心が技術を大きく乱して崩れていったという松山の姿を、この目で見た記憶はほとんどない。

 今大会の最終日も、まさにそうだった。折り返し後の11番。左ラフからの第2打はグリーンに乗らず、手前のバンカーへ。

「これは、ビッグ・ミステイクだ」

 米TV中継の解説者は思わず声を張り上げ、その通り、松山はこのホールでボギーを喫し、4位タイへ後退。だが、松山はこのミス、このボギーに動じた様子はまったく見せず、その後も淡々とプレーを続け、執拗にパーを拾い続けた。粘りに粘って15番(パー5)で1つスコアを戻し、通算2アンダー、3位タイで終了。

「なかなか思うようにショットがコントロールできない中で、ここまで粘れたのは収穫」

 そう、かつてのラームとは正反対に、松山の場合は粘り強い心が技術の不調を補ってさえいた。彼自身、そう感じている。3年ぶりの勝利と通算6勝目は逃したが、フェデックスカップ・ランクは18位から10位へ上昇し、7年連続で最終戦のツアー選手権へ進出。

 すべてが見事だ。非の打ちどころはない。しかし、今の松山には何かが足りないのではないか。その「何か」とは、何のだろうと考えた。

【新鮮で強烈な「らしさ」が薄れた】

 面白いように次々に勝利していた2016年から2017年ごろの松山と比べて、今、漠然と彼に感じる足りない「何か」とは、おそらくは「松山らしさ」だと私は思う。

 米ツアーにデビューしてからの最初の数年間は、松山もいろいろな出来事に遭遇した。スロープレーヤーだと言われたり、マークの仕方にケチをつけられたり、心をかき乱される「事件」に次々に直面した。

 しかし、そうしたものに動じることなく、「自分は自分で頑張るのみ」と考え、苦境や逆境を跳ね返す強さが当時の松山からは溢れ出していた。

 2016年フェニックス・オープンでリッキー・ファウラーと優勝を争ったときは、何万人もの大観衆がファウラーを応援する中、「その中で自分が勝ってやる」と逆に闘志を燃やし、四面楚歌や孤軍奮闘を楽しみながら勝利した。

 たとえプレー中に笑顔を輝かせなくても、「勝ちます」「楽しい」などとリップサービスをしなくても、松山には松山らしい戦い方がはっきりと見て取れた。彼自身、そこに楽しさやモチベーションを感じていることが伝わってきて、そこに活力が感じられ、勢いがあった。

 しかし最近は「トップでポーズを取る独特のスイングも、ほぼノーマルになった」と米国のゴルフ解説者たちは口を揃え、パットの際にセットアップに時間をかけてモジモジする独特のルーティーンも、ほぼノーマルになっている。

 それがいいのか悪いのかはさておき、個性的な面が少なくなったことは事実だ。正式メンバーになって7年が経ち、すっかり米ツアー選手らしくなり、プレー中に思わず口を付く英語の掛け声もすっかり板に付いている。だが、そのぶん、新鮮で強烈な「松山らしさ」が薄れつつあるのではないだろうか。

 それでも立派な成績を維持し、今大会では3位タイに入り、ツアー選手権進出も決めたのだから、これと言って悪いところや直すべきところは何も見当たらない。「ヒデキ・マツヤマはグレート・プレーヤー」であることには誰もが頷く。

 しかし、次々に勝利を重ねていたころの松山がしっかりと抱いていた「松山らしさ」と彼の心身から溢れ出していた活力を、私は今、恋しく思っている。表には見せずとも、彼は心の中で笑顔を輝かせていた。

 そういう戦士の笑顔が再び戻り、松山らしさが戻ってくれば、再び彼は勝ち始めるのではないか。私は秘かに、そう思っている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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