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初回KOで敗れた、WBOヨーロピアン・スーパーウエルター級チャンプ

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Mikey Williams/Top Rank

 第1ラウンド開始早々、相手のワンツーをバックステップで躱したホルへ・ガルシア・ペレスの右アッパーが、イリアス・エッサウディのボディを抉る。エッサウディの動きが止まり、崩れ落ちていく中、ペレスは右フック、ダブルの左フックと追撃した。

 キャンバスに右膝をついたエッサウディがマウスピースをゆっくりと吐き出し、首を振ったところで、レフェリーが試合を止めた。

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 ドンピシャのカウンターを放ったペレスは、僅か46秒で勝者となり、自身の戦績を31勝(26KO)4敗とした。1997年1月8日生まれのペレスは、メキシコ、ロスモチス出身の27歳。183cmの長身が売りである。

 敗者の戦績は、この日の黒星を含めて22勝(15KO)3敗。ペレスとの戦いのためにドイツから、米国・アリゾナ州にやってきたエッサウディは、咬ませ犬ではなさそうだった。今年1月にWBOヨーロピアン、スーパーウエルター級タイトルを獲得しており、アメリカ進出を真剣に望んでいたのではなかったか。

 ただ、エッサウディが喫した3敗は、全てKOであり、打たれ脆さを覗かせている。ファーストラウンドで屠られるのも、初めてではない。アメリカのリングに上がることばかりか、祖国を離れて試合をした経験はプロになってからこの一戦まで無かった。果たして調整を失敗したのか、時差ボケが治らないままゴングを聞いたのかーーと感じざるを得なかった。

Mikey Williams/Top Rank
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 ひとつ確実に言えるのは、今後、エッサウディが本場のリングに上がる可能性が限りなくゼロに近いという事実である。多民族国家であるアメリカだが、通常、同じ国籍の選手に声援を送る。とはいえ、米国籍を持っていても、己がメキシコにルーツがある人間ならば、メキシコ人ファイターを応援する。自身と同じ肌の色の選手に肩入れする傾向も見られる。

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 エッサウディは、千載一遇のチャンスをモノにできなかった。現在米国に生きる、およそ4千100万人のドイツ系アメリカ人の心を揺さぶる戦いは見せられなかった。35歳のドイツ人ファイターには、何が待ち受けるのか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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