北朝鮮で大規模爆発…「労働者の命を軽視」住民から批判
北朝鮮・平安南道(ピョンアンナムド)安州(アンジュ)にある肥料工場、南興(ナムン)青年科学連合企業所で今月18日、大規模な爆発事故が発生し、8人が死亡、12人が重傷を負ったと現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
国から肥料の生産量を増やせと矢継ぎ早の催促を受け、ないないづくしの状態で研究を続けた末の事故だった。
(参考記事:1500人死傷に8千棟が吹き飛ぶ…北朝鮮「謎の大爆発」事故)
事故の起こった南興青年科学連合企業所は、国内有数の窒素肥料生産工場で、かつては年間75万トンの生産量を誇っていたが、原材料不足、施設の老朽化で1993年から18年もの間稼働がストップしていた。
その後、稼働は再開し、この10年は、チュチェ(主体)肥料と呼ばれる石炭を原料にした肥料の生産を進めていると、北朝鮮の国営メディアで取り上げられることが多くなっているが、実際の生産量は1年に必要とする150万トンから200万トンにはるかに及ばない。肥料を受け取るには、何ヶ月も前から工場の前で寝泊まりして、順番を待つ有様だ。
世界で唯一計画経済体制を維持している北朝鮮は、国の国家計画委員会が定めた生産量に基づき、南興青年科学連合企業所に対してノルマを課しているが、未達成の状態が続いている。
そのせいか、工場所属の科学者、技術者のみならず、中央党(朝鮮労働党中央委員会)や内閣化学工業省のイルクン(幹部)も加わり生産量増大のための研究が進められるなど、テコ入れが行われていた。また、今年6月には朴奉珠(パク・ポンジュ)党副委員長、金才龍(キム・ジェリョン)内閣総理(当時)が相次いで視察を行うほどの熱の入れようだった。
現場にかかるプレッシャーは相当なもので、焦りもあったのだろうか。新技術の試験工場を立ち上げ、試験に成功。現場への技術導入も実現したが、結局は事故が起きてしまった。
中央党、内閣、国家保衛省(秘密警察)の事故調査班14人に加え、技術者、行政担当者、さらには検察関係者まで派遣され、原因究明を行っているが、急激に圧力が高まったために爆発が起きたとの推論を示すにとどまっている。
多くが工場関係者である住民の間からは、初期段階の試験が成功したからと、充分な実験を行わないままに本格導入に踏み切ろうとして事故が起きた、労働者の命を軽視しているなどと批判の声を上がっている。
工場では事故が頻発しているが、他ではなかなかもらえない配給が行われていることもあり、命と引換えに働かざるを得ない状況だ。
当局は自力更生の名の下に、各国営企業に新しい技術を開発を求めているが、充分な原材料や設備も予算もなく、結果ばかりを急かされるため、事故が多発していると伝えられている。
事故の犠牲者について、国は一切の補償を行っていない。重傷を負って入院中の人々は、退院しても働ける状況ではなく、障害者になると嘆いている。北朝鮮で障害者は社会的地位が低く、充分な福祉を受けられているとは言い難い状況だ。