パドレス入りしたエリック・ホスマーが教えてくれたグラウンド外の“Unwritten Rule”
MLBには“Unwritten Rule”という暗黙の了解が存在することが幅広く知られている。
例えば本塁打を放った際に相手投手に敬意を払うためバットを投げるなどの派手なパフォーマンスをしてはいけないとか、すでに勝敗が決まっているような試合展開で盗塁を狙ってはいけない──等々、MLBの長い歴史の中選手間で脈々と引き継がれている。もちろんそれを破るような行為を行えば、それ相当の報復措置を覚悟しなければならない。
長年MLBの取材を続けてきておおよその暗黙の了解は理解していたつもりだったが、今回初めてグラウンド外で適用される暗黙の了解があることを知った。それを教えてくれたのが、このオフに大物FA選手として去就が注目され、ようやく2月18日にパドレスと契約合意することができたエリック・ホスマー選手だ。
ホスマー選手は昨年まで所属していたロイヤルズでは「35」番をつけていたのだが、パドレスでは同番号が永久欠番になっているため、ロイヤルズのチームメイトで昨年1月に交通事故死したヨルダノ・ベンチュラ選手への敬意を表すため、彼が使用していた「30」番をつける決心をした。しかしパドレスではすでにグレン・ホフマン三塁コーチが30番を使用していたため、ホスマー選手から同コーチにお願いして譲り受けることになったのだが、ここでホスマー選手が果たすべき暗黙の了解があったのだ。
『ESPN』が報じたところでは、ホスマー選手はホフマン三塁コーチに高級腕時計の『Rolex』をプレゼントし、以下のように説明している。
「(30番をつけることは)自分にとって本当に意味のあることだった。だから彼(ホフマン三塁コーチ)に対し謝意を示したかった。これはリーグに存在する“Unwritten Rule”だ。ベテラン選手が新たらしいチームに来て誰から使用していた番号を譲り受ける時は、相手に何かをしてあげることになっているんだ」
今回ホスマー選手から聞くまで、こうした事情を聞いた記憶がない。たぶんチーム内で密かに実施さていたのだろうが、それでも高級腕時計を惜しまずプレゼントするような行為はかなり珍しいことではないかと思う。MLB屈指のナイスガイといわれるホスマー選手だからこその破格の対応なのだろう。すでに地元メディアもホスマー選手の性格が新チームに計り知れないプラス効果をもたらすだろうと指摘しているほどだ。
ここまで書き進めているうちに、そういえば他にもグラウンド外での暗黙の了解があることを思い出した。
故障者リストに入っているMLB選手がマイナーリーグでリハビリ出場する際は、自分のために選手が1人プレーできなくなるお詫びとお礼を兼ねて、試合後に用意されるクラブハウスの食事を自腹で用意しなければならないのだ。もちろんマイナー選手たちが普段食しているようなメニューではなく、かなり豪華なものを揃えなければならない。そうした豪華な食事を食べさせてもらうことで、マイナー選手たちはより強くメジャー昇格に意欲を示すようになるのだ。
グラウンド内の暗黙の了解は多少ギスギスしたイメージが強いが、こうしたグラウンド外のものは実に心温まるものだ。毎年各チームで実施されている新人選手歓迎の儀式などもそうだし、これらも素晴らしいMLBの魅力ではないだろうか。