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もしあなたが口から食事を摂れなくなったら? 誤解の多い胃ろうや点滴という大切な手法

山本健人消化器外科専門医
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

あなたがもし、口から水分が摂れなくなったり、食事が摂れなくなったりしたらどうしますか?

病気で意識がなくなったり、ものが飲み込めなくなったり、口やのどの手術をしたり、胃や腸の病気になったり・・・。

病院には、そんな患者さんがたくさんいます。

医療が発達していなかった頃は、水や食べ物が口から摂れなくなると(経口摂取できなくなると)生きることはできませんでした。

しかし、今では口が使えなくても、ものが飲み込めなくなっても、長期的に生き続けることができます。

口以外から体に栄養を与える方法があるからです。

その方法は、大きく分けて2つあります。

1. 血管に直接栄養剤を注入する(点滴)

2. 胃や腸に直接栄養剤を注入する(経管栄養や胃ろう)

患者さんが病気を治療し、再び経口摂取できるようになるまでの間、体が生きながらえるためには栄養の投与は必須です。

そこで、上記の2つの方法をうまく使い分けることになります。

わかりやすく解説してみます。

血管に直接栄養剤を注入する方法

点滴には大きく分けて2種類あります。

一つ目は、腕や手の甲などの細い血管に針を刺し、製剤を注入する方法です。

これを「末梢静脈栄養(末梢輸液)」と呼びます。

みなさんが「点滴」と聞いてイメージするのはこちらでしょう

経験したことのある方も多いと思います。

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(著者作成:Instagramより)

経口摂取が全くできなくなっても、この方法を使えば命をつなぐことができます。

しかし、これだけで長期間生き続けるのは困難です。

たとえば体重50キロの人に必要な水は1日あたり約1500ml、エネルギーは約1500キロカロリーですが、この方法では水分はまかなえてもエネルギーを全てまかなうことは難しいからです

カロリーの高い製剤を細い血管から投与すると静脈に炎症を起こしてしまうため、投与できる製剤の濃度に上限があるのです。

そこで、短期間をしのげば再び経口摂取ができるようになると予想できる時に、その「つなぎ」としてこの方法を用いるのが一般的です。

さて、点滴にはもう一つのタイプがあります。

首や鎖骨の下、足の付け根などを走る太い静脈にカテーテルを挿入し、その先端を心臓付近まで進め、そこに必要な製剤を注入する方法です。

これを「中心静脈栄養」と呼びます(腕の細い血管から長いカテーテルを心臓付近まで進める方法もあります)。

体内を走る血管を木にたとえれば、「末梢=枝」「中心=幹」のイメージです。

こちらは一つ目の方法と違って太い血管を使うため、1日に必要なカロリーを全て投与することができます

これで、長い期間経口摂取ができない患者さんでも、その間の命をつなぐことができるのです。

ところが、この方法にも大きな欠点があります。

胃や腸を全く使わないことです。

体を構成する臓器というのは、使わないとあっという間に機能が衰えてしまいます。

宇宙飛行士が無重力の空間から地上に帰還したら、歩くだけでも苦労するのと同じです。

胃や腸の機能を維持しながら栄養を投与する方が、体にとっては有利なのです

では、どんな方法があるでしょうか?

胃や腸に直接栄養剤を注入する方法

私たち医療者がよく使う格言に、

「If the gut works, use it(腸が使える場合は腸を使え)」

というものがあります。

胃や腸の病気などのやむを得ない事情がある場合以外は、「腸を使えるなら使った方がいい」ということです。

これにも二つの方法があります。

一つ目は、鼻(または口)から細い管を入れ、この先端を胃(または十二指腸)に置き、栄養剤を注入する方法です。

著者作成
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この方法のいいところは、胃や小腸、大腸からしてみれば「口から食べているのとほぼ同じ」であることです。

胃の手前(口から食道)をショートカットしているだけであり、もっと簡単に言えば、"そしゃく"と"飲み込み"という作業を「外注」しているのです。

ただ、経口摂取が再開できるまで長期間を要する場合、鼻から管が入ったままでは患者さんは苦痛です。

体が元気になっても、経口摂取ができない限り鼻から管を入れたままでは日常生活が送れません(副鼻腔炎などの合併症リスクもある)。

そこで、長期的に腸を使いながら、かつ患者さんの不快感を軽くしつつ栄養を投与できるのが「胃ろう」を使った方法です。

胃の壁に穴を開け、お腹の外から胃に直接栄養剤を注入するのです。

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(著者作成:Instagramより)

「胃に穴を開けて栄養剤を注入する」と聞くと、「何と乱暴な」と思う方もいるかもしれませんが、現代医療において、なくてはならない画期的な手法です。

今は胃カメラ(内視鏡)を使って作るのが一般的で、全身麻酔手術などは不要です(もちろん例外はあり)。

胃ろうといえば、意識のない高齢者などが使用するイメージだけが強調されることも多いのですが、もちろん他のシーンで有効に使うこともあります。

頭頸部(のどの周囲)のがんの術後や、脳梗塞など脳神経疾患、頭部外傷などの後遺症で口から食べることができなくなった方にとって、胃ろうはとても重要な「命綱」です

こういうケースでは若い方でも胃ろうを使うことがありますし、一時的に胃ろうで栄養管理をし、落ち着いた時点で胃ろうを閉鎖する、というケースもあります。

栄養療法の一つの手段なのですね。

今回は、経口摂取ができなくなった時の栄養の投与方法について解説しました。

病院では当たり前のように使われるこれらの治療。もしかしたら、みなさんやご家族が受けることがあるかもしれません。

ぜひ、知識を頭の片隅に入れておいていただけるとありがたいと思います。

消化器外科専門医

2010年京都大学医学部卒業。医師・医学博士。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、内視鏡外科技術認定医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、1200万PV超を記録。時事メディカルなどのウェブメディアで連載。一般向け講演なども精力的に行っている。著書にシリーズ累計21万部超の「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)、「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)など多数。

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