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台湾民進党圧勝を中国はどう見ているか?――中国政府公式見解と高官の単独取材

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
台湾総統選で圧勝した蔡英文氏(写真:ロイター/アフロ)

16日の総統選挙で民進党の蔡英文氏が690万票(得票率56%)で圧勝し、同時に行われた立法院(国会。定数113)の選挙においても民進党が68議席を得て、初めて過半数を占めた。5月には台湾史上初の女性総統が誕生する。8年ぶりの政権交代だ。議会にもねじれ現象が無く、蔡英文氏の意向が通りやすい形で台湾政治は運営されていくだろう。

1月15日付の本コラム「台湾、初の女性総統が誕生するか?――そして中国は?」では、台湾国民の心情や中国人民解放軍の元高官の発言などに関して書いた。今回は、中国政府がどう考えているのか、今後どのような行動を起こし得るのかに関して中国政府高官を単独取材した。中国政府公式見解とともに、ご紹介したい。

◆中国政府公式見解

16日夜10時、中共中央台湾弁公室(中台弁)および国務院台湾弁公室(国台弁)の責任者は中央テレビ局CCTVおよび人民日報のウェブサイトを通して、「台湾地区における選挙結果移管する談話」を発表した。

談話内容の概略を示す(両岸とは中台を指す中国大陸側の呼称)。

――この8年来、両岸双方は「九二共識(コンセンサス)」を固く守り台独(台湾独立)に反対するという大前提のもとに両岸関係の平和にして良好な交流関係を維持してきた。この方針は一貫しており、台湾地区の選挙結果に左右されることは絶対にない。いかなる形式の台独分裂活動に対しても断固反対する。われわれは、両岸が一つの中国に属すると考えている全ての政党、団体との交流を強化し、両岸の政治の基礎を守り、両岸関係の平和的発展と台湾海峡の平和安定を守り、中華民族の偉大なる復興をともに創っていく。

筆者注:「九二コンセンサス」とは、中国大陸が言うところの「一つの中国」を原則とするが、「中国とは何か」という定義に関する解釈は台湾側が言うところの「それぞれの解釈による」とする考え方を、中国も暫定的に受け容れて中台が交流を深めること。中台双方が「共通認識」を持ったと位置づけている。

◆中国政府高官単独取材のQ&A

日本からの推測で書くのは正確さを欠くので、蔡英文氏の当選が確定したあと、中国政府公式見解が発表される前の時間帯に、思い切って中国政府高官を単独インタビューした。 

その回答を以下に記す。なお、中国では「~さん」のような敬称を付けずに人名を呼ぶので、回答をそのママ記し、敬称はつけない。筆者の説明は( )内に書く。

Q1:蔡英文氏の当選をどう思っているか?

A1:民進党は党規約に台独(台湾独立)を書いているので、蔡英文がどんなに「現状維持」と言っても、中国は信じていない。ただし、5月までは馬英九が総統なので、決定権を持っていないため、何もできないだろう。しかし陳水扁(2000年から2008年まで総統に就任)より、蔡英文の方が台独に関しては強固な意志を持っている。能力も高い。だから中国は決して安心してはいない。

Q2:「九二コンセンサス」に関しては?

A2:蔡英文は「九二コンセンサス」を受け容れてないので、両岸交流はスムーズに進むはずがない。「九二コンセンサス」を認めなければ、蔡英文は必ず窮地に追い込まれる。台湾経済は破綻し、すぐに下野せざるを得なくなる。なぜなら台湾経済は大陸への投資と市場によって成り立っており、これなしに台湾経済は存続しえないからだ。中国はこの日のために、早くから中国大陸における台商(台湾商人)に便宜を図り、「九二コンセンサス」を認めれば優遇し、認めなければひどい目に遭うことを(思い)知らせてある。

Q3:「九二コンセンサス」を認めない場合は、中国は具体的にはどういう行動に出るのか?

A3:数え上げればキリがない。

・たとえば福建省にある両岸自由貿易区は、国共(国民党と共産党)両党の協議の下で行なわれているものだが、民進党が国民党の意思と政策を引き継がなければ、大陸は台湾地区に便宜を図らないだろう。

・航空や旅行に関しても、大陸は同じように台湾地区に制限を設けることになる。それにより、台湾経済がどれだけ困窮するかは、一瞬でわかるはずだ。

・さらに亜投行(アジアインフラ投資銀行、AIIB)への参加に関しても不可能になるだろう。台湾は中国の一地方政府なので、「創始国」の仲間入りをすることは許されなかったが、正式に成立した後なら、「国」としてではなく、一地方として加盟申請をすることができる。しかし「九二コンセンサス」を認めなければ加盟申請を受け付けない。台湾も馬英九のときとは違い、申請してこない可能性もある。TPPに入れば、これで決裂だろう。

・サービス貿易協定に関しても、大陸は台湾に開放しているが、台湾は大陸に開放していないという、いびつな「一方向性」でしかない。台湾の若者の抗議により台湾立法院で批准されないままになっているが、これぞまさに民進党が進める非協力的姿勢に若者が乗っかったもので、こういう事態があらゆる分野で起きるということだ。

(筆者注:この因果関係は逆で、大陸に呑み込まれるのを嫌った若者が自主的に行動し立法院を占拠して「ひまわり運動」を展開した。民進党も声援を送っただけで、民進党が組織したものではない。その若者の「本土意識(台湾人アイデンティティ)」こそが、今般の民進党の圧勝を招いている。)

Q4:民進党は密使を北京に派遣したように聞いているが…。

A4:もちろんだ。昨年の早い時期に台湾弁公室に民進党の人物を派遣して相談にやってきた。だから大陸は絶対に「九二コンセンサス」を堅固しなければならないと言ってやった。そのことは民進党も分かっているはずだ。昨年シンガポールで習馬会談(習近平国家主席と馬英九総統の会談)を行なったが、あれが何のためだったと思っているのか! あれはあくまでも蔡英文に対して与えた授業だ。彼女に授業に出させて、天下を取った時にはどうすればいいかを思い知らせてやるためだった。

大陸は早くから台湾の民進党が優位になるだろうことは分かっていた。だからこそ、去年の9月3日に、あえて軍事パレードを行って、台湾に「教訓」を与えたのだ。それでも島民(台湾の国民)は目覚めなかった。愚かなことだ。

Q5:では、もし台湾が独立に向けて動いた場合は?

A5:反国家分裂法は、なんのためにあると思っているんだい?中国人民解放軍がたちどころに台湾海峡を封鎖して台湾を「孤島」いや、「死島」にしてしまうだろう。両岸問題は中国にとって最優先課題であることは、知っているはずだよね?

(筆者注:反国家分裂法は「もし台湾が独立に向けて動いたら、中国は武力を行使してそれを阻止する」という趣旨の法律で2005年に制定された。中国語では「反分裂国家法」と称する。)

Q6:もちろん承知している。しかし紛争が起きたらアメリカが台湾関係法を行使するのでは?

A6:アメリカは台湾の独立も大陸による統一も願っていない。アメリカもなかなかずるくて、現状維持が一番アメリカに有利だと思っている。だから蔡英文をしっかり教育しているはずだ。アメリカは大陸とも水面下では交渉に来ており、中米関係を重んじている。中国との間に争いが起きることをアメリカは望んでいない。

(筆者注:「台湾関係法」とは1979年1月1日に米中国交正常化が正式に樹立されたときに、中華民国との国交を断絶に伴い、「米華相互防衛条約」の内実を維持するために同年4月に制定された国内法。アメリカはダブルスタンダードを取っており、同法により台湾防衛のための台湾への武器輸出を容認するとともに、「台湾の安全を脅かすいかなる武力行使あるいは他の強制的な方法に対抗し得る防衛力を維持し、(アメリカは)適切な行動を取らなければならない」となっている。)

政府高官との問答はおおむね以上だ。この高官の話は、「中国政府側としての個人の意見」ではあるものの、明らかに習近平政権の意向と一致していると、みなすことができる。なぜなら、政府側の者は、絶対に中共中央の指針と異なる意見表明はしないし、してはならないからだ。

ところで、Q&Aのうち、最後のアメリカとの関係に関して補足する。

つまり、馬英九路線などにより中台が平和統一されたときには、アメリカの台湾関係法は行使できない。台湾が大陸に吸収されるのを黙って見ているしかないのである。

しかし、民進党政権において、万一にも台独の気配が生じて台湾海峡武力封鎖のような事態が起きれば、アメリカは台湾関係法により台湾を防衛する手段に出る。そのときには日米同盟により、日本も動かないわけにはいかなくなる。

中国だけでなく、日米もまた「台湾有事」のような事態が生じることは望んでいないし、好ましくない。

そういう事態を招かずに、きたるべき「蔡英文総統」が、どのような舵取りをしていくかが、今後の注目点となろう。

長くなり過ぎたので、台商や台湾の若者の新しい情報あるいは中国ネットユーザーの声などに関しては、また追って考察することとする。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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