「もったいない」から「おいしい」への架け橋を 全国初!食品卸企業がフードバンクを発足
飽食と欠食の中で
日本の食料廃棄量は、年間1900万トン。そのうち食べられるのに捨てられているもの、いわゆる「食品ロス」は621万トン。
約1360万人の年間食料消費量に相当する(注)。
他方、子どもの貧困率は13.9%で、人数にすると約280万人。
一方にありあまる食材があり、他方に満足に食べるに事欠く子どもたちがいる。
なんとかできないかと思う人は多い。
食品卸業者がフードバンクを発足
その人たちが全国でフードバンク事業を始めている。食べきれない食材を個人や企業から引き取って、生活に困る家庭などに贈る事業だ。
そこに、企業が参入した。しかも、食品卸企業。ど真ん中の本業だ。
どうして? どのように?
「フードバンク協和」を立ち上げた「協和商工株式会社」を、長崎県佐世保市にたずねた。
ありえない、まさかって
――フードバンクを設立しようと思った経緯は?
去年、新聞で「こども食堂」の記事を見ましてね。びっくりしました。
日本で? この時代に? 7人に1人の子どもが貧困? ありえない、まさかって。
自分の家庭、息子の家庭を見ていて、そんなのありえないと思いましたよ。
でも新聞に書いてある。それで新聞に書いてあったフォーラムに行ってみた。いろんな雑誌も読んでみた。そうなんだ、そんなことになってるんだ、と。
本業を最大限生かせる社会貢献
食品廃棄は、昔から悩みのタネでした。タダじゃない。相当の金をかけて捨てている。だから社員には「捨てなくていいように安く売ってこい」って。そういうビジネスの頭しかなかった。
でも、僕ら捨ててる、かたや食うに困る子がいる。アフリカじゃなくて、この日本で。
なんかできるんじゃないかって。なんかやれないかと考えるようになりました。
最初は、自分たちで「こども食堂」やろうかと考えたんです。
でもそのうち、食品卸としてやるべきはそれじゃないだろう、と。それでフードバンク。
本業と、福祉で地域貢献というのを表裏一体でできる。本業を最大限生かせる社会貢献。これじゃないか、と。
毎日、どこかでお会いしています
――食品卸というのは、一般の消費者には今ひとつピンとこないんですが、どんなお仕事なんですか?
ビジネスホテル泊まったら朝食でお惣菜が並んでるでしょ。あれですよ。
入院したら病院食たべるでしょ。学校給食、居酒屋、レストラン、施設…。そういうところに食材を届け、メニューを提案しているのがわれわれ。
佃煮とかサラダとか並んでいるでしょ。あれです。
見えないかもしれませんけど、毎日のように、どこかでお会いしていますよ。
食品サンプルを活用する
――そういう業務用食材の在庫分を提供するフードバンクということですか。
それもありますけど、一番は食品サンプル。
うちがお客さんを抱えているので、いろんな食材メーカーが食品サンプルを持ってきます。「これをどうぞ」「ぜひ試してみてください」って。
毎月500種類くらい。
うちでは、そのうちだいたい350種類くらいを新商品として登録します。登録すれば発注が生まれるけど、登録されない商品もある。
それを活用しようと思ってます。
――食品サンプルって、そんなに量なさそうですけど。
いやいや、結構あるんですよ、それが。
たとえば、うちには営業マンが80人くらいいる。営業先のお店10件に配ってくださいって。この居酒屋、この病院に配って、おいしいかどうか試してもらってくださいって。それでもう800個。
1つのサンプルで20キロ以上来るときもあります。
「場所とるよりは捨てるしかない」
それが月500種類。年間だと6000種類。
当然「今はいらない」って断られることもある。うちの倉庫に入る。でも、倉庫のスペースだって限られてる。特に冷凍食品なんかは。
そうすると「邪魔だ」となって捨てる。「場所とるよりは捨てるしかない」って。
おいしいんですよ。食べ物としてまったく問題ない。でも、商売として見れば、不要な物で倉庫を埋めとくわけにはいかない。
在庫分も合わせれば、年間500万円くらいかけて捨てている。これでも同業者の中では少ないほうです。
みんな、他と同じじゃイヤなんだから
――どうにかならないんですかね?
私たちだけじゃない。同業者の悩みのタネはそこですよ。
でも、考えてみてください。
お茶はお茶でも、病院用のお茶と、居酒屋のお茶と、ホテルの高級なお茶は全部違う。マヨネーズだって、いくつか会社があって、それぞれにいろんな「ハーフ」とかがあって、それだけで10種類以上ある。
病院は、患者さんの状態によっていくつも使い分けないといけないし、サービス業はみんな「特色出したい」って「お客さんに求められてる」って言う。
農水省は、食品ロスを減らすために「なるべく統一しましょう」って言ってるけど、そう簡単にはいかない。だってみんな、他と同じじゃイヤなんだから。
「賞味期限」は「消費期限」じゃない
――食品ロスの増大には「賞味期限」の問題も大きいようですね。
そうでしょうね。
賞味期限の表示は、1995年から導入されました。
――一方で「賞味期限がすぎたら廃棄」という慣行が定着していますが、弁当工場で働く人から聞いたところでは、賞味期限の起算点は「弁当の蓋を閉めた時刻」だから、何百個とつくりおきしておいて、日付が変わってから一斉に蓋をするとか。
私が小さいころは、不安だったら口に含んでみて「まだいける」とか「もうダメだ」とか自分で判断していましたが、それじゃダメなんでしょうか。
……ノーコメント(笑)。
消費者に責任をもたせるようなことは、私たちからは言えませんよ。
言えるのは、賞味期限は「おいしく食べられる期限」であって、「これを過ぎたら安全じゃありません」という消費期限じゃありませんよね、ということくらいですかね(農水省ホームページ参照)。
全員が「悪人」にならないために
――ですよね。話を戻しましょう。しかし、そのようにきわめて敏感な日本の消費者に対応せざるを得ない食品会社が、自らフードバンクを運営するというのは、リスクでもあるんじゃないですか。
そこですね。
たくさんもらった、冷蔵庫に入れておいた、日にちが経っちゃった、でも食べちゃった、下痢しちゃった、なんかおかしい、これのせいじゃないか……こうなってしまったら、関わっていた全員が飛んでしまう。全員が「悪人」になっちゃう。これは避けたい。
本業に影響してしまったら、元も子もないですから。
だから当面は登録制にして、ホームページに提供できる食材を載せて、信頼関係のある団体にログインしてもらう方式をとります。
うちだからできるやり方で
食材も取りに来てもらいます。
取りに来てもらえれば、手渡ししながら、調理法も説明できる。
この調味料はこういうスープに使えますよ、トンカツの枚数が足らなければこうやってサンドイッチにするという手もありますよ、このドレッシングはサラダにもいいけどワカメにかけてもおいしいですよ、と。
レシピとセットで渡せます。ふだんお客さんに調理法とセットで食材を提供しているうちだからできるやり方とも言えます。
どこでも使えるパッケージをつくる
――社員や同業他社の反応はどうですか?
率直に言って「仕事が増えるんじゃないか」と警戒する社員もいます。
それに対しては「新しいルールをつくるだけだから」と説得してます。
倉庫にある食材が、ある時点で「協和商工」のものから「フードバンク協和」のものになる。残すか捨てるかというこれまでの線引きに、フードバンクに譲渡という新しい仕分け方が入る。
どういうふうに決めて、どう表示してという社内ルールをカチッと確立する。
一度ルールができてしまえば、手間自体はそんなに変わらない。
同業他社への働きかけはそれからですね。
このプロセス全体、ホームページへのアップとかフードバンク協和の運営費とか、こうした問題を私たちが一つひとつクリアしてパッケージにします。そして自信をもって示せるパッケージができたら、それを同業他社に提供します。
私たちがつくっている業界団体には全国の31社が加盟しています。私たちだけで全国をカバーできない。
同業他社が動き始めれば、全国に広がる可能性がある。だからパッケージはどこでも使えるものをつくるつもりで考えたいですね。
「風は西から吹く」
――最初から全国に広めることを考えているんですね。
そう。うちのキャッチコピーは「風は西から吹く」ですから(笑)。
新しい風をこの佐世保から吹かしていきたいですね。
――食品ロスを減らし、食料支援にもなる。Win-Winの取組が広がるといいですね。
協和商工株式会社http://www.kyowakk.co.jp/
フードバンク協和http://foodbankkyowa.com/
- 注)6,210,000t÷455.6kg(国民一人あたり消費量、農水省平成27年度概算値)=13,630,378人