「もう6割の学生が内定」は本当か?就職情報会社の「内定率」との付き合い方
毎年、誤解を呼ぶデータについて警鐘を乱打しておこう。「内定率」なる指標のことだ。新卒一括採用という慣行のもとでは、毎年、就活生が入れ替わる。ゆえに、知識が必ずしも伝承されないので気をつけなくては、皆、騙されてしまうのだ。
新卒の「内定率」がメディアで話題になっており、今年も昨年同様「売り手市場」であることが記事となり、拡散している。本来の就活スタート時期であるはずの3年生の3月にすでに内定を持っている学生が多いことが話題となる。たとえば4月10日にリクルート就職みらい研究所が発表した「就職プロセス調査(2025年卒)」によると2025年卒学生の4月1日時点の内定率は、58.1%で昨年よりも9.7ポイント高かった。「内定率」という指標は、売り手市場か否かだけでなく、就活の早期化がどれだけ進んでいるかも表す指標である。売り手市場であり、早期化が進んでいることがわかる。
ただ、このデータを読み解く上で、気をつけなくてはならないことがある。いや、より率直(やや乱暴に)に言うならば、このデータは学生のキャリア形成支援・就職支援に関わる大学教職員からは、「評判が悪い」データなのだ。実際、大学関係者と就職情報会社の懇談会などでは、大学から改善の要望が出る。「実態よりも高く、早いのではないか」「ゆえに、内定を持っていない学生が焦ったり、萎縮したり、諦めてしまうのではないか」というのが大学側からのクレームだ。
もちろん、リクルートをはじめ就職情報会社がデータを捏造、誇張しているわけではない。リクルートの「就職プロセス調査」は現在確認できるものだけでも、2012年から続いており、就職活動を定点観測して捉えたデータではある。
なぜ大学での実感、いや実績との乖離が顕著となるのか?その理由は調査方法にある。これはモニター調査なのだ。より具体的には、今回発表されたデータは「2025年卒業予定の大学生および大学院生に対して、『リクナビ2025』にて調査モニターを募集し、モニターに登録した学生3,941人」を対象に行ったものであり、「大学生 1,065人/大学院生 407人」が回答したものだ。やや意地悪な見方をすると、わざわざアンケートに回答するような、前のめりな学生のデータという見方ができなくもない。
なお、世の中で公表されている「内定率」のデータはこれだけではない。文部科学省と厚生労働省による「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」なども「内定率」としてメディアに紹介されている。
ただ、この調査も、私立大学の教職員からすると、「実感値よりも高い」データになりがちである。全国に約800校ある大学のうち62校を対象として実施したものだ。具体的には、国立大学 21校 公立大学 3校 私立大学 38校を対象としたものだ。日本の学生の約8割は私立大学に通っている。私立大学は約620校ある。明らかにこの調査はもともとの国公立大学と私立大学の比率から考えると、国公立大学の比率が実態よりも高い。ゆえにこれもまた「実感より高い」データとなりがちである。
オープンカンパニーやインターンシップから早期選考に進み、内定を「おさえ」「保険」として獲得し「キープ」した上で、就活を継続するのが今の学生たちである。「内定率」だけを見ていても実態を捉えることはできない。むしろ、前述したリクルートの調査でいうと「進路確定率」という指標も合わせて確認すると実態がよく見える。4月1日時点で35.5%であり、昨年度よりも7.0ポイント高い。これもまた繰り返しになるが、あくまで「モニター調査」であることを留意する必要がある。
気をつけなくてはならないのは、この数字をみて未内定の学生やその保護者が過剰に萎縮してしまったり、焦ってしまうことだ。「まだ決まらないのか」と子供にプレッシャーをかける就活毒親が現れてしまう。また、このデータをもとに、新卒のエージェントは学生にプレッシャーをかけることもある。私の教え子も以前、その犠牲となってしまった。
データの特性を知り、冷静に判断したい。就活は、まだまだこれから。