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テネリフェ移籍の柴崎岳、J王者から2部リーグを選択する理由とは。

小宮良之スポーツライター・小説家
スペイン、テネリフェへの移籍が決まった柴崎岳(写真:アフロスポーツ)

「クラブワールドカップ決勝で欧州王者レアル・マドリーに2得点」

その豪華な肩書きによって、柴崎岳はスペイン2部リーグのテネリフェで歓迎されている。地元の期待度は高い。チームはリーグ22チーム中6位(23節終了現在)。昇格圏(1,2位が自動昇格、3~6位でプレーオフを戦う)にいるだけに、日本人MFには救世主的な活躍が求められる。

では、柴崎は島の救世主となれるのか?

そもそも、Jリーグ王者鹿島アントラーズの背番号10が、スペイン2部リーグに新天地を求めた理由とは――。

スペインフットボールの熱

「なぜ柴崎は2部を選んだの?」

そんな疑問を抱く人も少なくないだろう。

スペイン、リーガエスパニョーラは世界最高峰のサッカーリーグである。現在行われているチャンピオンズリーグでは決勝トーナメントに残った16チーム中、4チームがスペイン勢。過去3シーズン、レアル・マドリーが2度、FCバルセロナが1度と優勝を独占している。さらにアトレティコ・マドリーは2度決勝に進出し、同国対決を戦った。そしてヨーロッパリーグではセビージャが3年連続の優勝を果たしている。

リーガはプレミアリーグ、セリエA、ブンデスリーガと並んで欧州4大リーグと言われるが、突出している状況だろう。

その2部リーグも、言わずもがなレベルは高い。ベルギー、ギリシャ、スコットランドなど中堅国のトップリーグと同等。リーガでの挑戦権に直結することを考えたら、それ以上の舞台だろう。

今回、柴崎が入団したテネリフェも猛者が揃っている。

GKはベネズエラ代表ダニ・フェルナンデス、トップにホンジュラス代表ロサーノを擁する。また、バルサ下部組織時代に「シャビの後継者」と目されたMFエドゥ・オリオル、アトレティコ・マドリー下部組織から期限付き移籍している20歳のセネガル人FWアマト・ヌディアエなど英才を鍛え直し、強固なチームにしている。この冬にはアルジェリア五輪代表の攻撃的MF、ラシドも加入した。

このポジション争いを制し、外国人選手として主力を張れるJリーガーが何人いるだろうか?2部リーグと侮ることはできない。

チームのエース格は右サイドを主戦場にするスソだろう。突破からの得点力も高いアタッカーで、頑丈かつしたたか。地元グランカナリア諸島出身者として人気も高い。グランカナリア特有だが、南米的な技術を持った選手が多く、即興的だ。テネリフェはCBホルヘ、ボランチのアルベルト、ビトーロ、攻撃的MFのオマール、FWのクリストなどスタメンの約半数がグランカナリア人選手で、「同じレベルだったら優遇される」のは暗黙の了解である。

柴崎がこのポジション争いを勝ち抜くのは決して簡単ではない。客観的に見て、今の柴崎では定位置をつかむのは難しいだろう。語学面のハンデも大きい。さらに言えば、年俸も大きく下げたはずだ。

しかし厳しい挑戦だからこそ、フットボールの浪漫がある。いつか、メッシやロナウドといった世界最高の選手たちと渡り合う。それは痺れる感覚だろう。

スペインフットボールの熱は肌に伝わってくる。現地で触れる機会があったら、どうしようもない衝動に駆られるだろう。そのフットボールの感動を知らない人間に、柴崎の行動は理解できない。

これからは日々の練習からして生き残りだ。一度つかみ取っても、熾烈な競争の中で失う。しかし、もしそこで生き残ることができたら――。柴崎は心が震えるような風景を目にするだろう。その躍動を通し、日本に激情を伝えてくれるはずだ。

日本人選手の両足での高いボール技術は、スペイン人も目を丸くする。勤勉で、献身性も高い。おそらく監督はそこに着目し、使ってみたい、という気になるのではないか。トップ下で持ち上がれたときの柴崎はパスも、シュートも非凡なものがある。

もっとも、過去のリーガでも日本人選手のスタートは申し分ない。大久保嘉人、中村俊輔、家長昭博、ハーフナー・マイク、清武弘嗣といずれも、最初は先発をつかんでいる。しかし、長くは続かなかった。

柴崎にはタフな戦いの連続が問われるだろう。

「フットボールはエモーションだ」

そう語ったのは、バルサの監督を務めたフランク・ライカールトだった。自らの感情をさらけ出し、プレーによってスタジアムで人々に熱を伝播し、うねらせ、さらに自分へと戻す。エモーションを操れる者たちしか、一流の域には辿り着けない。スペインフットボールが世界最高峰なのは、まさに情熱を味方にできるからなのだ。

柴崎がそれをやり遂げることができるなら――。フットボールにおいて、それ以上の感動は存在しない。 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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