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群雄割拠時代に突入した感があるWTAで大坂なおみは立ち直ることができるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
周囲の予想を裏切りドバイ選手権で初戦敗退を喫した大坂なおみ選手(写真:アフロ)

 昨年の全米オープン、先月の全豪オープンと四大大会に連覇し、男女ともに日本人選手として史上初のランキング1位に躍り出た大坂なおみ選手が、全豪後初めて出場したドバイ選手権で周囲の予想を覆し初戦敗退を喫した。すでに多くのメディアが報じているように、試合後の会見ではメディアの前で涙を流す姿を見せるなど、その精神状態は全米オープンの時のは明らかに違っていた。

 残念ながら動画サイトをチェックしても記者会見の様子を確認することはできなかったが、大会前会見を含め会見場での大坂選手の質疑応答内容はすべて確認させてもらった。元々精神的な脆さからその類い稀な潜在能力を発揮しきれなかった大坂選手だったのだから、会見場で涙を流すほど精神的な安定を失っていた状態では普通にテニスができるような状態ではなかったといっていいだろう。

 ランキング1位になり世界中のメディアから注目を集めるような存在になったばかりで、大坂選手を引き上げてくれたサーシャ・バイン・コーチの解任(日本では軟らかい表現で「関係解消」としているが、コーチ契約を解除しているのだから「解任」でも問題ないだろう)を決めたのは、あまりにタイミングが悪すぎた。

 ドバイ選手権で行われた2回の記者会見でも、メディアから次々にコーチ解任に関する質問が続き、両会見ともに司会進行役が「この辺でコーチ会見の質問は最後にしましょう」と制止に入るほどだった。その中で今回の解任劇について大坂にとって不本意な憶測報道もなされたことで、大坂選手が平常心を失ってしまったのは仕方がない部分があるだろう。

 「皆さんを責めるつもりはありません。時が経てば皆さんもその話をしなくなるでしょう。でも今はテニス界のビッグニュースになっているのだと思います。

 (自分にとっては)ちょっとハードな状況です。皆が自分を見続け、しかもそれが自分には本意ではないかたちで…」

 残念ではあるが、今回の騒ぎが簡単に沈静化することはないだろう。大坂選手が新コーチと契約できたとしても、しばらくは渦中の人になるしかない。新コーチの指導の下で結果を残せなければ、やはりバイン・コーチの解任が懐疑的に受け取られるだろうし、結局は元の強さを取り戻すまではずっとメディアの関心事であり続けることになる。

 まずは大阪選手が希望している通り、ディフェンディング・チャンピオンとして臨む次回出場予定のインディアンウェルズまでに新コーチと契約するのが先決になってくる。同大会は“準グランドスラム”として扱われる高ポイントが得られる大会なので、次回も初戦敗退するようならば状況次第で1位陥落の可能性もあるくらいだ。とにかく今は少しでも戦える態勢を整えるしかない。

 現在のWTAは、絶対的王者が不在の群雄割拠の時代に突入したといっていい。2010年以降のランキングを見ても現在の大坂選手まで、のべ17選手が1位の座についており、そのうち1位在位期間が100週を超えるような絶対的王者はセリーナ・ウィリアムス選手1人しか存在していない。今回の大阪選手のように、急成長した若手選手が一気に1位まで躍り出てしまうこともある混戦模様なのだ。

 そんな混戦の中で四大大会連覇を達成した大坂選手に、人々は久々の絶対的王者になれる可能性を見出したからこそ、どうしても彼女に対する関心が高まってしまうのだ。逆に言えば、新コーチの下で精神的安定を取り戻し、再び快進撃を続けるようなことになれば、その時こそ間違いなくWTAに“大坂なおみ”時代が到来することになるだろう。

 いずれにせよ次回のインディアンウェルズも、大坂選手にとって決して居心地のいい大会にはならないだろう。「勝った試合よりも負けた試合の方が学ぶことが多い」と言い切る21歳の彼女は、今回の敗戦から何を学び取ることができたのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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