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リクナビ、リアル合説から撤退~採用氷河期で合説も激変

石渡嶺司大学ジャーナリスト
リクナビ2025の画面。リクナビのリアル合説・撤退について専門家が解説

◆リクナビ、リアル合説から撤退

3月1日は就活の広報解禁日です。

本来なら就活で話題になる日、筆者取材により、リクナビが合同企業説明会(合説)について、2026年卒向け(4月から3年生)の対面形式から撤退、オンライン合説に集約することが判明しました。

一部ではリクルートがリクナビなどの新卒採用事業から撤退する観測も出ています。

これに対して、リクルートは「(リアル合説について)撤退したという認識はない」「(新卒採用事業からの撤退について)そのような事実はない」との回答でした(詳細は後述)。

◆リクナビの撤退で同業他社に影響も

もっとも、リクナビのリアル合説撤退は、私のスクープ、というわけではありません。

メディアとして報じるのは本稿が初ですが、リクルートと取引している企業の採用担当者であればほぼ全員が知っている話です。

これはリクナビに限りませんが、就職情報会社各社は前年秋には次年度のインターンシップサイトや合説についての営業を始めます。

当然ながら、その中には3年生5月~秋までのインターンシップ合説についても案内します。例年であれば、リアル合説を展開するリクナビが2026年卒向けからリアル合説について撤退することが明記されていました。

正確には2026年卒向けだけでなく、2025年卒向け(本稿掲載時点で3年生)の3月合説以降もリアル合説からは撤退。オンライン合説のみの実施です。

このリクナビのリアル合説撤退は採用担当者の間ではちょっとした話題となりました。

ただし、その反応は驚きよりも「やっぱり」という醒めたものが多数です。

そして、リクナビが撤退した分、リアル合説を展開する就職情報会社の同業他社にとってはチャンスとなります。

営業トークでも、「リクナビさんが撤退した分はうちに来ます」との話が飛び交うようになったそうです。

◆盛り上がらない広報解禁日の理由

本日(3月1日)は、就活の広報解禁日であり、2010年代までは合説に学生が殺到する様子がメディアでもよく報じられていました。

しかし、今年は合説の盛り上がりは全くと言っていいほどありません。

就活生はすでに動いていて、すでに選考に参加しているか、遅れて4年生以降に始まるか、どちらか。つまり、3年生3月の合説に参加するメリットを就活生は全く感じていないからです。

リクルート就職みらい研究所「就職白書2023」「同2020」の採用活動プロセスの開始時期について見ていくと、就活の早期化が明らかです。

2017年卒では2月までに面接を開始した企業は2.9%しかありませんでした。それが2023年卒は27.3%、2024年卒は36.6%と大きく増えています。

内定・内々定出しについても同様で、2017年卒1.5%→2023年卒12.3%→2024年卒19.7%と、こちらも早期化が明らかです。

付言しますと、3月に面接を開始する企業は2017年卒18.9%→2023年卒32.4%→2024年卒31.1%でした。

2017年卒に比べると増加していますが、2024年卒は2023年卒に比べて微減しています。

これは、それだけ2月以前に面接を開始している企業が増加したからです。

3月に内定・内々定出しをする企業は2017年卒6.2%→2023年卒20.1%→2024年卒20.8%でした。

まとめますと、3月広報解禁より前に、面接を開始した企業が2010年代に比べて大幅に増加しています。

企業からすれば、すでに選考が始まっている以上、3月合説に参加する価値が全くないのです。

学生も同様であり、3月合説が盛り上がらないのも無理はありません。

◆参加者特典「4000円」でも空回り

この合説の過疎化は2月合説でも同じです。

私は今年2月、複数の合説を取材しました。

実施場所や運営企業などはそれぞれ異なりますが、どこも学生の数はまばらだったのです。

合説と言えば、大企業が特別ブースにて講演形式で実施するのが定番です。

私が取材した合説でも、名立たる大企業が参加していました。が、その入りは8割程度、ひどければ半分程度でした。

2010年代であればまずあり得なかった状況です。何しろ、予約者だけですぐ満席となり、わずかなキャンセル待ちを巡って行列ができていたくらいです。

しかも、驚いたのが参加者特典です。

ある大手就職情報会社の合説は、参加者特典が事前予約や12時までの入場など、条件付きとは言え、3000円相当のギフトカードに1000円相当のランチチケットを全員にプレゼントしていました。

理系ブースではこれとは別に、ブース参加数に応じての抽選会を実施。1等は1万円相当のギフトカードプレゼントでした。

2000年代の就職氷河期だと、参加者特典はランチチケットで、それもせいぜい、先着の数百人程度。動員数を考えれば、数%程度にすぎません。

2010年代後半でも、ギフトカードプレゼントは500円か、いいところ1000円程度。

それが今では4000円程度まで上がっています。

そこまでやっても合説の参加者数としては年比に比べて落ち込むところが多数でした。

◆企業側は「心が折れた」

企業側に取材すると、2・3月の合説参加には否定的な意見が多数です。

「3月はもう選考が始まっている以上、合説参加は意味がない。確か、2018年ごろから止めた」(商社)

「3月合説よりは2月合説に学生が来る、と就職情報担当者に口説かれて出展。しかし、ブース来場者が目標の半分程度。しかも欲しい、と思える学生はほぼ皆無。これでブース出展料100万円、と言われても。来年は止める」(機械)

「2月の東京の合説に出展。関西では知名度があるので東京でも、と、人事部長が意気込んで来たが、ブースへの着座は合説開始してから1時間後。周囲もガラガラで、人事部長は心が折れて帰ってしまった」(小売)

合説会場ではさすがに見かけませんでしたが、合説終了後には就職情報会社に怒る参加企業もあったようです。

「営業と違い、採用ははっきりした結果と言えば、エントリー社数や内定状況など。合説であればブース参加者数しかない。高い出展料を払って、社員が数人動いて、それでブース参加者数が10人程度。『今年は学生が来ますから』との就職情報会社の営業トークは何だったか。クレームを入れないと気が済まない」(IT)

この状況が2023年から続いており、そうなると合説に参加する企業は減少。学生は学生で早くから動いていることもあり、こちらも減少、という悪循環に。

2月合説も3月合説も今のところ、明るい材料はありません。

◆リクルート、信頼を落としてしまう

2・3月合説の過疎化はどの就職情報会社も同じですが、リクルートはそれ以外の事件が大きく影響しています。

2019年、同社は学生の同意を得ないまま、内定辞退率を予測、このデータを企業に販売していることが判明しました。

この個人情報流出事件は、リクナビを運営していたリクルートキャリア(現在はリクルート)が謝罪。厚生労働省からは職業安定法違反による指導が入りました。

この事件に対する大学側の怒りは強く、それまで大学の就職ガイダンスなどで呼んでいたところも、軒並みリクルートを拒否するようになったのです。

これは1年間だけでなく、現在も同様の措置を取る大学は一定数あります。その分、学生のアクセス数は減少し、企業側もリクナビ利用を取りやめていきました。

『日経業界地図』(日本経済新聞出版)の2018年版・2024年版によりますと、2017年時点・2023年時点で会員数(学生)は約75万人→約74万人と微減にとどまっています。

しかし、掲載企業数は約2万7千社→1万8707社と激減しています。

2024年現在、マイナビがトップに(約80万人・約2万社→約82万人・2万8192社)。

キャリタス(約41万6000人・約1万5千社→36万6681人・1万6539社)、ワンキャリア(記載なし)、オファーボックス(約4万8千人・約2400社→22万1896人・1万4683社)、あさがくナビ(約32万2千人・約2500社→約40万人・約1万3000社)がリクナビと合わせて2~5位を争っている状況です。

「オファーボックスは学生の自己PRを企業側が読んでオファーを出す、いわゆる逆求人型のパイオニア。今や就職情報サイトの大手と言えるまでに成長している」(自動車)

「肌感覚としてはマイナビが独走し、2番手はキャリタス。3番手をオファーボックスで4番手にワンキャリア。リクナビはこのワンキャリアにも負けそうなほど勢いがない」(商社)

2010年代まではリクルートが就職市場の最大手として君臨していました。

その知名度から、今もリクナビ利用の企業はあります。ただし、それはリクナビのサービスがいい、というよりも惰性によるものが大きいようです。

「うちは採用担当役員の『就職と言えばリクナビでしょ』の思い込みでリクナビを使い続けている。学生の反応が段々、悪くなっているのでどこかではマイナビなどに変えたい」(流通)

一部の採用担当者やキャリア関係者の間では、リクルートがリクナビを含む新卒採用事業から撤退するのでは、との観測も出ています。

「リクルートが今、流しているCMは転職のインディードが中心。それは要するに、転職の方が儲かるからだ。リアル合説からの撤退は『終わりの始まり』で、いずれは新卒採用事業から撤退、または事業売却をするのではないか」(首都圏難関大キャリアセンター職員)

◆リクルートは「撤退ではない」

リクルート社広報に、リアル合説の撤退と新卒採用事業からの撤退観測について取材をしました。

前者については、「撤退という認識ではない」の回答です。

(リアル合説について)撤退をしたという認識はなく、学生会員様、企業様双方のメリットが高いと考え、リクナビ2025の『リクナビ就活直前WEBライブ』(24年2月開催)及び

『リクナビ就活WEBライブ』(24年3月開催)からオンラインのみでの合同企業説明会の開催とさせて頂いております。

具体的には、

●学生会員様側のメリット:

参加する場所や環境にもとらわれない為、興味ある企業様の説明を多く聞くことができる。

参加した説明会の企業様にチャットでより気軽に質問もできる。

地方在住の学生の方でも気軽に都市部の企業様の話を聞ける。逆に都市部にいても地元の企業様の話を聞くことができる。

●企業様側のメリット:

企業の担当者の方の拘束時間も少なく、単位時間あたりに出会える学生数が対面式の説明会よりもはるかに多い。

学生会員様・企業様とも対面式とそん色ないくらい、その後の就職活動コミュニケーションを進められています。

後者(新卒採用事業からの撤退観測)については「そのような事実はありません」との回答でした。

◆「1万円プレゼントの方が話は早い」説も

合説のメリットは、合説会場に行けば様々な企業の話を聞けることです。

それが現在では大きく変わってしまいました。

学生に話を聞くと、

「志望業界の企業の話は聞きたいが、他はどうでもいい」(法政大)

「色々な企業が多すぎて、どこに行けばいいかわからない」(早稲田大)

などの意見も。

さらに、合説不参加の学生に話を聞くと、

「すでに面接やESで忙しいので行く気になれない」(埼玉大)

「就活を始めたばかり。だけど、そもそも合説で何をどうすればいいのかわからなくて」(関西大)

などの意見もありました。

採用担当者に意見を聞くと、こんなアイデアも。

「この合説の参加者特典が3000円。これも、ブース出展料を上げている一因。それで、人が入らないなら、いっそ、企業が同業界でも別でもいいので10社くらい集まる。で、学生には10社の話、全部聞いたら1万円。5社なら5千円。これで学生が100人集まって全員が10社回れば企業からすれば、1日で100人の学生と接することができる。参加者特典に貸会議室のレンタル料などを考えても、1社あたりの負担は20万円程度。就職情報会社よりもはるかに安くて、100人、いや半分の50人でも話を聞いてくれればコスパがいいのではないか」(IT)

◆まさかの「2年生」合説も

2月の合説取材で感じたのは、過疎化と合わせて2年生の参加です。

「東京・大阪の2会場とも2年生の割合は3割程度。うちの選考は早くても3年生2月なので1年先だが、いい学生が多かった。率直に言って3年生よりも欲しい人材だ」(商社)

どの合説でも、2024年現在は3年生だけでなく1・2年生の参加も認めています。

それから、3年生5月~7月の合説は昨年も活況でしたし、今年も同様の参加者数が見込まれます。

これは就活時期が早期化しているだけでなく、分割化していることを示しています。

つまり、早く動く学生は早いし、遅い学生は遅く動きます。

そのため、どこがピークと言うよりも、小さなピークが4~6回程度に分かれるようになりました。

ディスコ「新卒採用に関する企業調査(2023年10月調査)」によりますと、採用選考の終了状況について、10月で終了とした企業は2019年卒56.3%から2024年卒は45.6%でした。

本来なら10月は内定解禁であり、採用活動は終了している時期です。それが半数以上は終了していない、と回答しているわけで、これは採用時期の分割化をよく示しています。

そして、選考の小さなピークのうち、最初のピークが3年生5月~7月なのです。この時期であれば、合説を実施する意味はまだある、と言えます。

それどころか、2月~3月の合説も、いっそのこと、1・2年生限定にしてしまえば、むしろそちらの方が集客できるのではないでしょうか。

現在は学生の売り手市場であり、これは採用側が苦労する採用氷河期です。

そんな中で、合説の果たす役割も今後、大きく変わっていくに違いありません。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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