大谷翔平の「飛び恥」、マスコミ各社が沈黙
ここ最近、民放のニュース番組やネットニュースでは、現在開催中のWBC(ワールドベースボールクラシック)関連のニュースであふれかえっている。だが、そうした中で、どこの報道機関も触れていないのが、大谷翔平選手やダルビッシュ有選手の「飛び恥」問題だ。交通分野の中でも輸送量あたりCO2排出が多い飛行機を安易に使うことに対し、欧米等では「飛び恥」として控える動きがある。なかでも、大谷選手やダルビッシュ選手が帰国の際に使ったプライベートジェット(個人チャーターの飛行機)は、輸送量あたりのCO2排出が交通分野の中でも段違いに多く、国際的な批判の的となっているのだ。
〇プライベートジェットは最悪の「飛び恥」
プライベートジェット利用について、日本での報道、特に大谷選手に関してはその豪勢さを肯定的に取り上げるニュースが多い。だが、海外メディアでは、人気歌手やテレビスター、スポーツ選手等がプライベートジェットを頻繁に使っていることへ批判的に報じることが多々ある。それは、プライベートジェットが一人当たりのCO2排出では、最悪の部類に入るからだ。国際環境団体「グリーンピース・インターナショナル」が「トランスポート&エンバイロンメント」の調査報告を引用しつつアピールしたところによると、プライベートジェットは乗客1人あたりで、民間航空機の5~14倍、列車の50倍のCO2を排出するのだという。2018年には、全航空排出量の50%が、世界人口のわずか1%によって引き起こされたとのことだ(関連情報)。
特に欧州では、プライベートジェットに対する抗議行動も行われ、例えば、環境団体「絶滅への反逆」は、2019年にスイス・ジュネーブ空港のプライベートジェット専用ターミナルの封鎖を行うなどの抗議を行っている。2021年11月にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では当時のボリス・ジョンソン首相がプライベートジェットを使ったことを、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが批判。また、今年1月には、各国の政財界のリーダー達が世界的な課題を協議する世界経済フォーラムでは、温暖化対策も重要テーマとされていたにもかかわらず、参加した政治家や企業トップらがプライベートジェットを使ったことが、メディアや環境団体等から批判された。
〇航空機からのCO2排出削減のために
こうした中で、プライベートジェットを規制しようという動きもある。フランスでは、プライベートジェットに対する課税が検討され、EU内でもプライベートジェット利用の抑制が議論されている。なお、筆者が国土交通省に問い合わせたところ、日本では今のところ、プライベートジェットに特化した取り組みは検討されていないとのことである。
飛行機によるCO2排出に関しては、日本も含む各国で、バイオ燃料や水素等、CO2排出を相殺、あるいは排出量が限りなく少ない燃料を使っていく方向での対策の研究開発が進んでいる。中長期的には、飛行機が「エコな乗り物」となることも、あり得なくはないのかもしれない。だが、それまではなるべく無用な利用を避け、列車などの、より環境負荷の少ない交通手段を使うべきだろう。
また、どうしても飛行機を使わざるを得ないという場合、カーボンオフセットを行うことも重要だ。つまり、排出してしまった温室効果ガス量に見合った排出削減活動(植林や再エネ普及など)に投資すること等で埋め合わせすること。筆者も、今年2月にウクライナ現地取材を行った際、飛行機を利用したが、その分のCO2をカーボンオフセットした。例えば、JALは飛行距離に応じてカーボンオフセットするサービスを行っており(関連情報)、非常に簡単にできるので飛行機に乗った際には、こうしたサービスを利用するとよいだろう。
〇スター選手は社会の模範に
恐らく、大谷選手やダルビッシュ選手はプライベートジェットの環境負荷の大きさやカーボンオフセットについて、あまり知らなかったのではと推察するが、報道関係者らは、この種の質問もするべきだろう。実際、フランスではワールドカップ代表として活躍したキリアン・エムバペ選手も、プライベートジェット利用で記者達から追及を受けた(関連報道)。日本全体ではCO2排出量から比べれば、大谷選手が今回1回だけプライベートジェット(以下、PJ)を利用しただけなら、その排出量は微々たるものではあるのだが、欧米では著名人のPJ利用が批判される中、日本では大谷選手のPJ利用に「流石」「凄い」と称賛までする報道もあったので、あえて本記事で指摘した。東京オリンピックやワールドカップの際もそうであったが、日本のメディアでは、「スポーツと政治、社会、環境問題等は別」という風潮があるものの、多くの人々の注目を浴びるスター選手だからこそ、社会の模範となる行動をしてもらいたいものであるし、報道関係者らがスポーツの熱狂で思考停止することは職務放棄ではないか。近年、毎年の様に起きている豪雨被害など、異常気象による災害と地球温暖化進行の関係について、気象庁も具体的に言及するようになった中で、スター選手や報道関係者の意識も問われている。
(了)