Yahoo!ニュース

今年最大のリスクはアメリカ大統領選だ 2020年の「世界10大リスク」とは

木村正人在英国際ジャーナリスト
新年初の選挙集会で熱弁をふるうドナルド・トランプ米大統領(写真:REX/アフロ)

[ロンドン発]スーパーパワーなき「Gゼロ」後の世界を予測した米政治学者イアン・ブレマー氏が会長を務めるユーラシア・グループが6日、2020年「世界10大リスク」を発表し、今年は非常に困難な転換点になると警告しました。

米中の対立でグローバル化の波が減速するとともに景気の波が後退。地球温暖化も景気の足を引っ張り、地政学的な波も急激に後退、国際協調の環境が損なわれるため、グローバルリスクがこれまでにないほど増大すると予測しています。

今年の世界10大リスクは次の通り。

(1)アメリカを統治するのは誰だ?

米国の統治制度は世界で最も強力で弾力性に富んでいるため、これまで米国の内政問題がトップリスクに挙げられることはなかった。しかし今年は大統領選イヤー。政治的な空白によって正当性が問われ、不確実性が増し、外交環境がより不安定化する。

(2)米中のテクノロジー・デカップリング(切り離し)

米中両国がテクノロジーに境界を設けたことはソ連崩壊以来、グローバル化の波に最も大きな地政学上のインパクトを与えた。昨年、アメリカが一連の対中政策をエスカレートさせたことで、中国はテクノロジーの切り離しは不可避と結論付けた。

中国の習近平国家主席は米国に対するテクノロジー依存を返上するため新“長征(1934~36年、国民党軍に敗れた中国共産党軍が江西省瑞金を放棄して交戦しながら徒歩で大移動した)政策”を呼びかけた。

切り離された世界で中国は国際的なテクノロジー、貿易、金融システムを再構築する努力を拡大するだろう。

(3)米中関係

デカップリング(切り離し)が進むと、米中関係の緊張がさらに高まり、国家安全保障、影響力、価値観を巡るより明白な衝突を引き起こすだろう。

双方は政治的な目標を達成するため制裁、輸出規制、ボイコットといった経済的な武器を使い続けることになる。企業やその他の国の政府が米中両国の争いに巻き込まれないようにするのは難しい。

(4)多国籍企業は地政学的な溝を埋められない

多くのオブザーバーは多国籍企業がグローバルガバナンスやGゼロ(主導国なき時代)の世界のリベラルな秩序にできたギャップを埋めると信じている。

具体的には民間セクターが介入して、気候変動、貧困救済、さらには貿易、投資の自由化の分野を主導するという見方に私たちは懐疑的だ。企業は著しく対立的な規制や地政学的環境に直面することになる。

(5)モディ化されたインド

インドのナレンドラ・モディ首相は2期目に入り、経済的なアジェンダを犠牲にして論争の的となっている社会政策を促進している。2020年にその影響が現れる。強化された共同体と宗派間の不安定、外交政策、経済の後退などだ。

(6)欧州の地政学

何年もの間、ヨーロッパは独自の外交・通商政策の進路について大きなビジョンを語ってきた。しかし、これまでアメリカや中国と不一致が生じた場合、効果的にそれを押し戻そうとすることは不可能か、そうする意思がないことが明白だった。これが変更されようとしている。

(7)気候変動における政治と経済

気候変動の政治学は機能していない。5年前、今世紀末までに世界平均の気温上昇を産業革命前に比べて摂氏2度未満に抑えるというパリ協定に多くの国が署名した。

しかし今までのところ、国民国家はその目標を達成するための政策を実行するのに失敗している。その失敗は企業の意思決定を困難にさせ、ビジネスの停滞、政治の不安定化をもたらす。

(8)イスラム教シーア派の三日月地帯

中東における主要なイスラム教シーア派国家に対する米国の政策は失敗している。それはイランとの致命的な紛争を含む地域の安定、原油価格の上昇圧力、イランの影響下にあるか破綻しているイラク、ロシアとイランに融合するシリア問題など深刻なリスクを生み出す。

(9)南米の不満

国民の怒りは南米全体で政治的不安定のリスクを高める。有権者の苦情には成長の鈍化、腐敗、質の低い公共サービスが含まれる。 政府にとってさらに悪いことに、新しい脆弱な中産階級は公共サービス支出を増やすことを求めており、南米社会は二極化している。

こうした不満は政府が必要な緊縮策を実施する能力を低下させる。国際通貨基金(IMF)や投資家は財政均衡を求めるものの、南米の政府は中途半端にしか対応できない。これらの圧力は南米全体にリスクをもたらす。抗議活動が起こり、財政収支は崩壊する。

(10)トルコ

トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は急激な政治的退潮期に入った。 エルドアン大統領は脅威に対する挑発的な行動の長い歴史を持ち、国内外の批判への対立を引き起こしている。

今年、彼の弱さは彼を暴走させるだろう。それはすでに苦しみ始めているトルコ経済をさらに損なう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事