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今年下半期の密かな話題作:中国発劇場版2Dアニメ「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」とは

小新井涼アニメウォッチャー
劇場版パンフレット(筆者撮影)

新海誠監督の「天気の子」を始めとする数々の話題作も生まれ、何よりその公開本数が膨大であった2019年の劇場版アニメ。

その中にあって、今年9月に実施された国内1館での10日間限定上映から人気が広がり、未だに全国各地で上映が続いている密かな話題作があるのをご存知でしょうか。

中国発のオリジナル劇場版2Dアニメ「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)THE LEGEND OF HEI」です。

◆「羅小黒戦記」とは

「羅小黒戦記」とは、本作の監督でもある中国人クリエイターのMTJJ氏原作の漫画キャラクター、及びウェブアニメを基にした劇場版アニメです。

妖精と人間が共に存在する現代社会を舞台に、開拓によって森を追われた猫の妖精・羅小黒(ロ シャオヘイ)が、新たな居場所を探して旅する中で、同じ妖精や人間達と出会い、やがて彼らの世界を変えるほどの出来事に巻き込まれていくという、神怪アクションロードムービーとなっています。

中国でのヒットを経て今年9月に上陸した本作は、日本のアニメ関係者やアニメファンの間でも高い評価を得てきました。

人気もじわじわと広がり、国内わずか1館での10日間限定上映は連日チケットが完売、上映延長を経て公開終了した後も新規公開劇場を次々と拡大し続け、未だに全国各地のミニシアターを中心に上映が続いているほどです。

◆知っているはずなのにみたことがない不思議な鑑賞体験

とはいえ、全国のミニシアターを中心に上映されている、日本でも高い評価を得た海外発の長編アニメと聞くと、どことなく普段自分達が親しんでいる深夜アニメや劇場版アニメとは違いそうな“敷居の高さ”を感じてしまう人もいるかもしれません。

しかし本作は敷居が高いどころか、むしろそうした深夜アニメや劇場版アニメに普段から親しんでいる人ほど入り込みやすい極上のエンタメ作品となっています。

映像の通り、本作は日本のアニメや欧米のカートゥーン、ゲームのモーションやカメラワークなど、世界各国のあらゆるコンテンツの影響が随所に感じられますが、その一方で、それらの影響が模倣やモザイクアート的に見えず、唯一無二のオリジナリティを強烈に感じさせる作品となっているのが魅力です。

そのため、そうした世界各国のあらゆるコンテンツ、特に日本のアニメに慣れ親しんでいる人にとっては、既視感もあるのに今までにみたことがないと感じてしまう、不思議な鑑賞体験ができる作品でもあります。

◆中国2Dアニメの今

それでも中国の2Dアニメと聞くとあまり馴染みがないと感じてしまうかもしれませんが、実は現在日本では、気づかれにくいだけで、ことテレビアニメに関しては中国関連の2Dアニメがかなり身近に存在しています。

実際に、2016年に放送された「霊剣山 星屑たちの宴」を皮切りに、毎クール2本以上中国関連のアニメが放送されている時期があったり、その頃より数は減ったものの、今年も「ほら、耳がみえてるよ!」を始め、今期は「兄に付ける薬はない!」や「どるふろ-癒し篇-」が放送されました。

ところが、それらは確かに原作や製作元などが中国ではあるものの、制作スタッフの多くや制作会社は日本であることが多く、見た目だけならば日本の深夜アニメと言われても違和感がない作品がほとんどです。

それもあってここ数年、日本において中国の2Dアニメというのは、実はごく身近に存在しながらも、あまりにも自然に溶け込みすぎて気づかれていなかったり、その全貌がいまいち把握しづらい存在でもありました。

そんな中にあって、監督を始め2、30代の若手中国人クリエイター達が手掛け、中国語音声のまま鑑賞できる「羅小黒戦記」は、とても明確に”中国の2Dアニメの今”を把握できる、かなり純正に近い中国2Dアニメだと思います。

その意味で本作は、作品性やエンタメ性の高さだけでなく、昨今の日本においてこれまで身近でありながら謎のヴェールに包まれていた”中国の2Dアニメの今”を直に知ることができる、希少な作品でもあると言えるでしょう。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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