「現実と合わない」北朝鮮経済を台無しにする金正恩の余計なひと言
「加工品を増やせ!」そんな上部からの命令に、北朝鮮の貿易会社は困惑を隠せずにいる。
北朝鮮は、不足する外貨を補うために、様々なものを採取して輸出してきた。代表的なものとしては松の実、ドングリ、トゥルチュク(和名クロマメノキ、ブルーベリーの一種)などで、小学生からお年寄りに至るまで動員して採取させたり、買い上げたりして、主に中国に輸出してきた。ところが、そんなやり方に突如として、横槍が入ってきた。
平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、内閣対外経済省は今月初旬、平安北道貿易管理局に対し、加工品を通じた外貨稼ぎのノルマを定め、その実行のために指導イルクン(幹部)を現地に派遣すると通知した。
道内の貿易会社は、この通知に頭を抱えている。上述の通り、道内各地で様々な薬草、木の実などを集めて中国に輸出してきたが、今後は何らかの製品に加工した上で輸出しなければならなくなる。
「今回の内閣の指示は、加工品を中国に輸出してさらに外貨を稼ごうというものだ」(情報筋)
安値で買い叩かれがちな原材料ではなく、製品に加工して付加価値を付けてさらに儲けようということだ。これは、国の貴重な資源を安く売払い、目先の利益だけを追求する貿易を根絶せよという金正恩総書記の方針に基づくものだ。一見、正論のように見えるが、実は現実を無視したものだ。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
貿易管理局は、傘下の貿易会社に、自社製品ではなく、大同江ビール、高麗人参酒、化粧品など、北朝鮮で生産された製品を輸出するよう指示した。だが、以前ならともかく、北朝鮮製品は今、中国市場ではほとんどといっても良いほど相手にされない。
中国の消費者はかつて、北朝鮮の製品に対して「汚染されていないオーガニック製品」というイメージを持っていたが、重金属が検出されるなどして、そのイメージは崩れてしまった。また、核実験などで国のイメージそのものが悪くなった。さらに、質の割には値段も高く、競争力がない。
カウンターパートの中国の業者に、北朝鮮製品を売り込もうとしても、どうせ売れないからと相手にしてもらえないのだ。
貿易会社は大混乱に陥った。
中国の業者から前払いで松の実、松茸、イカなどの注文を取り付け、輸出する準備を進めていた最中だったからだ。急に加工品の輸出に変えよと言われても、そういうわけにもいかないのだ。
コロナ鎖国からようやく息を吹き返した道内の貿易会社だが、今回の指示で再び危機に陥っている。中国の業者からは「需要を全く考慮していない非現実的な指示」「貿易の基本に合わない」などと文句を言われる始末だ。
ただ、情報筋は先行きを比較的楽観的に見ている。
「原材料の輸出を減らして、加工品を輸出を強化せよという指示は理想に過ぎず、しばらくするとウヤムヤになるとの見方が出ている」
北朝鮮では、「余計な鶴の一声」で現場がかき回されることがしばしばある。現場を知らない最高指導者の思いつきで発せられたものだが、これらの指示や命令の類は、当初は従おう、またはそのフリをするが、徐々になかったことにされる。
最高指導者の命令だけあって、正面切って反対すると、反動分子扱いされ、管理所(政治犯収容所)送りにされかねないので、ウヤムヤになるまで放っておくのが一番いいのだ。
「現実と合わない貿易政策で、平安北道の貿易会社は当分混乱に陥り、しばらくは中央と地方の間で緊張感が漂うことになりそうだ」(情報筋)
しかし、そんな嵐が過ぎ去るのを待てば、元の状態に戻るということだ。しかし、松茸の香りは、その間になくなってしまうだろう。「秋の収穫」を逃した責任は誰に押し付けられるのだろうか。