自治体ぐるみで部活動の強制加入 市内の中学校に「未加入の生徒はいない」
■自治体ぐるみの強制加入
新年度が始まり、この時期、中学校や高校では新1年生が、自分が入りたい部活動を見学・体験している。
この部活動の加入について、生徒は加入したいスポーツや芸術活動を選ぶことはできても、部活動そのものに加入する/加入しないまでは、選べないことが多い。「私の学校がまさに全員加入だった」と思い起こす読者も多いことだろう。
本来、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」(学習指導要領)ものであるため、学校は生徒に加入を強制すべきではない(部活動「自主的」なのに「全員加入」)。しかし、調べを進めてみると、学校どころか自治体までもが、生徒に部活動への加入を強制している実態が浮かび上がってきた。
■市内の中学校に「未加入の生徒はいない」
ウェブ上でざっと調べただけでも、下記のとおり複数の自治体が、管轄下の中学校全校に対して、生徒全員の部活動加入を要請している。
●岩手県盛岡市(市議会、2014)
質問:お伺いいたします。現時点での盛岡市立中学校生徒の部活動加入状況と部活動未加入生徒の理由などを把握しているのかお伺いいたします。
回答:盛岡市立中学校生徒の部活動加入状況についてですが、市内の中学校では、部活動は心身の健全な発達を図る上で重要な役割を担っており、生徒の人間形成にとって必要であるとの考えから全員が部活動に加入しており、部活動未加入生徒はおらないところであります。
●埼玉県志木市(教育委員会会議、2015)
委員:中学生の部活動は全員加入しないとならないのか。
学校教育課:原則は全員加入である。ただし、強制力があるものではない。
●埼玉県熊谷市(スポーツ振興基本計画、2011)
中学校での運動部活動
部活動については、市内の中学校では原則として全員加入制で取り組んでおり、平成22年度の運動部活動への加入率は、80.8%です。
●岐阜県下呂市(部活動ガイドライン、2014)
部活動は重要な教育活動であり、原則、全員加入制をとる。ただし、各学校の実情により加入方針(転部も含む)を明確に定め、生徒、保護者に伝える。
上記の自治体の例はいずれも、ここ数年の資料によるものである。上記自治体を含め、少なくない自治体が今日、中学校全校に対して、部活動への生徒全員の加入を指示していると推測される。
なお、やや古い調査ではあるものの、上記の盛岡市がある岩手県については2008年の時点で、調査対象となった115校のうち114校(99.1%)が部活動への加入を義務づけている(部活動「自主的」なのに「全員加入」)。
■名ばかりの「自主性」
「自主的な活動」の名のもと、学校どころか自治体ぐるみで、部活動への加入が強制されている。部活動は、毎日数時間ずつさらには土日も費やされる。どの教科よりも多く、時間が使われる。生徒の生活や人生に与える影響は、各教科よりもはるかに大きい。
これほどに重要な活動が、ある自治体では強制され、別の自治体では自由参加になっている。地方の教育行政がこれほどに差のある対応をとっているのであれば、これは大きな問題であると言える。文部科学省は、全国の自治体における部活動について、実態把握のための調査を実施し、さらには各教育委員会への指導をおこなうべきである。
自主性が破たんしている社会で、生徒の自主性は育たない。いまや部活動改革の旗手となっている「部活問題対策プロジェクト」の先生たちも「入部の強制に断固反対!」と新たに声をあげている。学校現場で先生たちは、名ばかりの「自主性」の矛盾に気づき始めている。教育行政も、そうした声に積極的に耳を傾けていくべきだ。
※本記事中の写真は、「写真素材 足成」の画像を利用した。