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なぜ雨上がり決死隊は解散したのか?宮迫の「TVに復帰したい」発言とYouTube活動の温度差

谷田彰吾放送作家

 異例と言っても過言ではないだろう。お笑いコンビの解散が、「特番」という形で発表された。

 雨上がり決死隊が解散を発表した。今回はテレビ朝日で放送されている雨上がり決死隊の冠番組『アメトーーク』の特別編として、インターネットテレビ局ABEMA TVで配信された。番組らしく、二人とゆかりのあるゲスト芸人が登場し、笑いを交えながら明るく楽しい解散発表となった。

 最大の注目は、二人がなぜ今、解散を選んだかということだった。蛍原は解散の理由をこう語った。

 「宮迫がYouTubeを始めたあたりから価値観にズレが生じた」

 宮迫のYouTubeチャンネルは、登録者数140万人。芸人のYouTubeの中でも5番目に多い登録者数を誇る人気チャンネルだ。だが、このチャンネルが二人の間に溝を生む結果となってしまった。それは宮迫が言う「テレビに復帰したい」という言葉との温度差に原因があるのではないか。

 宮迫がYouTubeを始めたそもそもの原因は、2年前。宮迫が反社会勢力の会合に参加し、お金を受け取っていたという「闇営業問題」が発端だった。宮迫は所属事務所の吉本興業から解雇され、吉本に残った蛍原と別々に活動していくことになった。今のテレビはコンプライアンスが厳しく、宮迫の仕事は無くなった。そこで宮迫が選んだ新たな主戦場が、YouTubeだった。

 だが当時、宮迫はYouTubeを始めることを蛍原に相談しなかったという。それが不信感につながった。

 宮迫のYouTubeには開始当初、猛烈な批判が殺到した。だが、宮迫はくじけず動画を投稿し続けた。ゴールデン番組のMCだったとは思えない体を張った企画にも挑戦。事務所の垣根を超えて芸人との対談もアップした。徐々に視聴者の応援を勝ち取り、わずか5ヶ月で登録者数100万人を超える人気チャンネルになった。

 その原動力となったのが、宮迫が言い続けてきた言葉だった。

 「いつかテレビに復帰したい」

 宮迫はことあるごとにそう語ってきた。あくまで自分はテレビタレントであり、雨上がり決死隊のメンバーである。YouTubeで頑張って認めてもらって、闇営業の一件を世間に許してもらい、テレビ復帰への足がかりにしたい。そのスタンスは今も変わらない。

 すると、徐々に宮迫をとりまくムードが変わってきた。YouTubeのコメント欄などを見ていると、宮迫がテレビ復帰を「悲願」と語れば語るほど、後押しするファンの間では「宮迫さんは反省してこんなに頑張っているのに、テレビがコンプライアンスを気にして使わないのはおかしい」という空気が生まれた。そもそも宮迫がテレビ界から消えたのは身から出た錆なのだが、いつの間にか「テレビが悪い」という構図にすり替わっていった印象がある。YouTubeをよく見る人の中には、テレビ嫌いの人もよくいる。そういった層にも支持されて、宮迫は登録者を伸ばした。

 しかし、あえて言わせてもらう。宮迫は本当にテレビに復帰したいと考えているのか? ウソとは言わない。だが、本気度は感じられない。

 現在、多くの芸人がYouTubeチャンネルを立ち上げているが、それらと今の宮迫のYouTubeは内容が全く違う。宮迫はYouTube開始当初から登録者数440万人超のYouTuber・ヒカルにコンサルティングをしてもらってきた。ヒカルは年商50億円を自称し、大金を使う動画などで視聴者を獲得してきた。一方でアンチも多く、炎上を何度も経験している。宮迫はヒカルを「本当の息子のよう」と語り、ヒカルも「親父」と呼ぶような関係性になった。二人の仲が深まるとともに動画の内容も変わっていき、今や宮迫もアパレルブランドをプロデュースしたり、ヒカルと一緒に焼肉店をプロデュースするというビジネス色の強い企画を始めた。他にも高級腕時計のコレクションを見せるなど、ヒカルさながらにお金の匂いのする企画を連発している。YouTube開始当初の謙虚な姿勢は影を潜め、テレビに出なくても十分すぎるほど稼いでます感がプンプンする。

 これは復帰を望む芸人がやる動画なのか? 蛍原は、そんな宮迫の活動に違和感を持ったのではないか。解散発表番組ではこう語っている。

 「(テレビに復帰して)相方の横に戻りたいと言うなら、僕ならそうしない」

 本気でテレビに復帰したいと思うなら、もっとテレビのスタッフが宮迫を起用したくなる”芸人らしい動画”を配信すべきだ。不義理があったとしても、テレビ復帰への強い意志や姿勢が見えるYouTubeなら蛍原も解散せずに待っていられたのではないか。

 宮迫はもはやYouTubeに人生を賭けるYouTuberだ。その覚悟を感じたのが、6月に配信した目を整形手術する動画。ここのところ再生数が頭打ちになっている中で、カンフル剤のように配信したこの動画は170万再生を突破。「そこまでするのか…」と言うのが正直な感想だ。だが、YouTubeは再生されてナンボの世界。動画が再生され、広告が流れて初めて収益があがる。だから動画の内容は人の興味を過剰にあおるものになっていく。YouTuberとして宮迫はある意味”あたりまえ”のことをしているのだが、芸人である蛍原にはエスカレートしていく宮迫に我慢がならなかったのかもしれない。

 だが、蛍原も番組で語っていたように、蛍原の価値観が正解で、宮迫が間違っているということではない。私自身は、宮迫個人がエンタメ業界で生き残るという意味では、当然の選択をしたと思っている。テレビを主戦場にしてきた芸人が職場を奪われたらYouTubeを始めるのは自然な流れだし、そこで結果を出すためになりふりかまわずやるのも理解できる。ただ、コンビ復活という目的へのプロセスとしては、二人の間でズレていってしまったということだろう。

 最後に、今回「番組」として解散報告を笑いのコンテンツにした『アメトーーク』のスタッフには敬意を表したい。普通ならマスコミ各社にリリースするか、記者会見で終わるところだ。だが、『アメトーーク』の特別編としてABEMA TVで配信したことで、「テレビ復帰は『アメトーーク』で」と言い続けてきた宮迫の気持ちにも応えることができた。雨上がり決死隊としても一番関係性の深い番組で区切りを付けられた。テレビ朝日の地上波放送では実現できないところをABEMA TVで実現したのは、2社の連携体制の柔軟性を示した。

 芸能人がYouTubeに大量参戦して2年目になる。芸能人の事務所独立も急増した。テレビや芸能界が変化する中で、雨上がり決死隊の解散はひとつの象徴的なニュースになった。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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