一度不採用とした候補者に企業がアプローチする「タレントプール」はアリか?
■再受験をしてもいいのかどうか
就職・転職希望者から「一度落ちた会社を再度受けてもよいのでしょうか?」と質問されることがよくあります。企業側からすると「もちろん!」です。特に最終面接で泣く泣く不採用にした人の中には、たまたまそのときの採用枠が少なかったり、他に良さげな候補者がいたりしただけで、状況が許せば採用したかったということも少なくないからです。
ただし、人はそんなに急には変わりませんし、企業側の都合も急には変わらないので、しばらく間を置くことは必要ではありますが。候補者側には「当たって砕けろ、で挑戦してみては?」と思うのですが、落とした企業側にも同じようなケースがありえます。今回はそのことについて考えてみます。
■落ちた会社からのスカウトは9割の人が「うれしい」
一般的な採用担当者側の感覚としては、一度落とした候補者にこちらから「やっぱりもう一度受けませんか?」とアプローチをすることは、ありえない選択肢かもしれません。確かにこちらから「不採用」としておいて、どのツラ下げて再アプローチするのかと思うのも無理はありません。
ところが、今年4月に会社員男女506人を対象にMyRefer社が行った「タレント人材の転職意識調査」によると、「一度ご縁がなかった会社からのスカウトが嬉しい」と回答した人が、なんと9割にものぼりました。そして8割の人は、タイミングやスカウト内容によっては実際に再応募する意向があるという結果でした。
つまり、一度好きになって選考まで受けた会社は、もしも不採用になったとしても、そんなに簡単には嫌いにならないということです。ちなみに、過去最終選考に進んだ会社に再応募したい理由としては、1位が「過去選考を受けたときの印象がよかったから」(47.9%)、2位が「自分のことをよく分かってくれているから」(37.7%)、3位が「機会があればまた受けたいと思っていたから」(29.2%)ということでした。
下世話な例で恐縮ですが、一度好き合って付き合おうとした人とは、結婚には至らなくとも「別れても好きな人」でいることが多いということかもしれません。気持ちはとても分かります。
■「鮭採用」は実際にいくらでもある
もしこれが広く一般的にも当てはまるのであれば、不採用の方や辞退をした方を含めて、採用活動において一度接点を持った候補者の方々と、採用活動後も何らかの方法で接点を持ち続ける「タレントプール」という施策が現実味を帯びてきます。
タレントプールとは、「自社に合いそうな人材をデータベース化すること」です。一度受けてくれた人に限らず、受験にまで至らなくても少し関心を持ってくれている人、自社の社員や内定者の知人、アルムナイ(退職者、卒業生、OB・OG)などをデータベース化し、勉強会やイベント、採用募集の案内などで定期的にアプローチをするというものです。
そうすれば、プールしている人材が「ちくしょう、転職だ!」と思っているタイミングなどで、再応募が生まれるという流れです。
実際、これまで私が採用実務をしてきた中でも、一度ご縁がなかった候補者が一定の時を経て入社する例を山ほど見てきました。リクルート時代には、採用グループの中で「鮭採用」という言葉もあったほどです。
鮭の稚魚を川に放流すると大人になって帰ってくるように、新卒採用や中途採用時にご縁がなくとも、リレーションを取り続けておくと、数年経って立派になって戻ってくることがあるのです。このため、当時のリクルートの採用担当者は、ご縁がなかった人とも飲みに行く関係性を作っていることが多々ありました。
■人は「生きなかった人生」を生きてみたい
しかもこの「鮭採用」は多大なメリットがあります。ひとつめは、他社が育成をしてくれるということです。新卒時にはマッキンゼーに行ってしまった人が、数年経ってリクルートに入社して事業開発などで活躍してくれる。「マッキンゼー様、ありがとうございます!」です。自社でも得られない能力を獲得して、自社にもたらしてくれるわけです。
ふたつめは、一度別れてから再び付き合う方が、かえって絆が強固になる場合があることです。一度はダメだと思った願いが成就するわけですから、嬉しさも倍増です。「拾ってもらった」という気持ちもあり、入社してからのコミットメントも強くなることでしょう。私もリクルートに出戻ったとき、そういう気分でした。
無論、「一度自分を振った会社なんか大嫌いだ」「縁がなかった会社にしがみつくのは無様だ」という人もいるでしょう。しかし冒頭の調査からは、そういう人は少数派で「袖触れ合うも他生の縁」と、入社に至らずとも少しでも縁のあったことを大切にする人がほとんどということです。
むしろ「逃した魚は大きい」で、「行った会社」「来てくれた人」よりも「行かなかった(行けなかった)会社」「来なかった人」に未練を抱くのが人間というものかもしれません。一部の「振り向かない」人を除き、「生きなかった方の人生を生きてみたい」という思いは普遍的です。多くの人は人生、二毛作、三毛作してみたいのです。そう考えると、タレントプールという採用手法は、今後期待が持てるのではないでしょうか。
※キャリコネニュース にて人と組織についての記事を連載しています。こちらも是非ご覧ください。