「働き方改革と業績向上の両立」と言われても、どうすればいいのかわからない
■働き方改革を目指さない選択肢など無い
お悩みは切実だと思いますが、一方で社長が働き方改革と業績向上の両立を目指すのは当然、とも思います。
就活ブログ運営を行う株式会社L100による「2023年度卒業の就活生が企業を選ぶ上で最も重視するポイントの調査結果」によると、「働きやすさ」が40.3%で、「仕事のやりがい」(24.3%)、「福利厚生の充実」(7.7%)、「企業理念やビジョンに共感できること」(7.4%)を抑えて、ダントツの1位でした。
つまり、少子化により構造的に若手が少なくなっていく現代日本において、人材不足を解決するために採用力をつけようと思えば、さまざまな人が働きやすい会社を目指すという会社の選択は、至極当然のことです。
むしろ、目指さない選択肢など無く、いくら現場が大変だったとしても(実際、大変だと思います)、それを嘆いても仕方のないことです。
■実現すると経営者は「できるじゃん」と思う
ただ、本稿のように、メンバーが働きやすくなるように、残業をして力技で乗り切るというのは十分お分かりだと思いますが、けして良い策ではないでしょう。
もっと言えば、周囲を楽にするために、自分が単純に頑張る方法は、本来やるべきことを先延ばしにするだけで、むしろやってはいけないことかもしれません。
経営者の側から見れば多少厳しいかなと思いつつ指示した、時短などの働き方改革を力技で現場が実現してしまったら、単純に「なんだ、やっぱりできるじゃないか」と思うでしょう。
そして、本当は管理職などがかなり無理をしていることも知らず、これからもさらなる働き方改革の指示が飛んでくるだけのことです。これでは、まさに無間地獄になってしまいます。
■「できない」と言う勇気を持つ
では本当に管理職がすべきことはなんでしょうか。それは「できないものはできない」と勇気を持って経営者に告げることです。
ビジネス界では「できない理由を言わず、どうすればできるかを考える」ことが優秀という言説が浸透しているので、意識の高い管理職の人ほど「できない」と発言するのは評価が下がるようで、なかなか言えないかもしれません。
確かに何の工夫もせず「できない」と言っている人はダメでしょうが、考え抜いたうえで、それでもどうしてもできないのであれば、「できない」と言うべきです。
無理に残業して管理職が体を壊しても、「そこまでしろとは言っていない」と思われるのがオチです。
■事実がわかれば経営者は別の判断ができる
ダメな経営者の中には悪い報告を持ってくる人を罰するような、いわゆる「使者を斬る」人もいるでしょうが、ちゃんとした経営者であれば「できない」という報告自体を怒ることはないでしょう。
なぜなら、経営者が欲しいのは「正確な事実」だからです。
もし、現在の業務と働き方改革の両立が物理的にどう工夫しても難しい、限界があるということが事実であり、正確にどの程度難しいのかを示してくれれば、経営者はまた別の判断が可能になります。
今は事業の成長期だから、働き方改革のペースを緩めようと思うかもしれませんし、まだ人員を増やす予算の余裕はあるので、採用数を増やそうと思うかもしれません。
■無理をすれば結局会社のためにはならない
それなのに、自分では会社のためになっていると思って、無理をして見た目上の働き方改革を実現してしまうと、それは経営者に誤った事実認識を与えることになってしまいます。
「今の人員でも業績目標と働き方改革は両立可能だ」と判断してそれを徹底推進した結果、会社のあちこちで地雷が爆発して、結局事業も組織もボロボロになってしまったとしたら、「できないのにできる」と言った人たちに怒りを感じることでしょう(もちろん、率直な悪い報告をしにくい経営者のほうにも問題は大いにありますが)。
どこまで考えて無理なら「できない」と言って良いのかというタイミングはとても難しいですが、「できない」と経営者に示す選択肢もあるのだということを、管理職は常に頭の中に置いておくべきではないかと思います。
※OCEANSにて人と組織に関する連載をしています。こちらもぜひご覧ください。