60年あまりにわたる民間・公営賃貸住宅の家賃の変遷をさぐる(2024年公開版)
急上昇した民間賃貸と、漸増・横ばいを見せる公営賃貸
住まいの需要として賃貸住宅は民間・公営ともに大きな需要を持ち、その需要に応えるべく供給が行われている。その賃貸住宅の家賃の実情・推移を総務省統計局の小売物価統計調査(※)の結果から確認する。
精査を行うデータは東京都区部におけるもの(「民間賃貸(住宅)」「公営賃貸(住宅)」について、1か月あたり・3.3平方メートル(1坪)の家賃。敷金・礼金や共益費、管理費などは含まれていない)。地方の値とは異なることを記しておく。直近の年次公開値は2023年分なので、その値を取得。また2024年分に関しては月次の記事執筆時点での最新値を暫定的に適用する。
一方小売物価統計調査では2015年1月から小さからぬ規模の調査項目の差し換えや仕様変更が実施された。今件記事の対象項目では「公営賃貸(公営・都市再生機構)」(公営賃貸住宅と都市再生機構の賃貸住宅との平均値)に該当する項目が調査対象から外れ、データの連続性が失われる形となった。そこで代替として、1991年分から計測値が取得可能な「公営賃貸(都道府県営)」の値を公的賃貸の代表値として反映させている。
民間賃貸は1967年に垂直に近い動きを見せたのち、キツめの勾配で上昇を続けており、1990年代後半になってようやく上昇が止まることになる。一方公営賃貸は1975年前後に上昇カーブがややキツめになったものの民間と比べれば随分とリーズナブルなままで推移し、やはり1995年以降は横ばい、一時期は減少傾向まで見せている(都道府県営では明らかに減少している)。
民間賃貸は金融危機勃発をきっかけに下落に転じ、ここ数年でその動きを止めて再び上昇したのちに、ほぼ横ばいの推移となっていた。他方公営賃貸は今世紀に入ってからはおおよそ横ばいを維持し続けている。公民の差は大きく開いたまま。直近2024年の民間賃貸の大幅上昇で、公民の差はさらに開くこととなる。
消費者物価の動向を反映させると
世帯内における支出の少なからぬ割合を占める家賃の場合、単純に金額の移り変わりだけでなく、当時の物価を考慮した方が道理は通る。家計全体に対する負担は金額そのものでは無く、物価を考慮した上で比べるべきとの意見は説得力がある。例えば同じ家賃にしても、50年前の5万円と今の5万円では大きく価値が異なる。
そこで各年の家賃に、それぞれの年の消費者物価指数を考慮した値を算出することにした。消費者物価指数の各年における値を基に、直近の2024年の値を基準として、他の年の家賃を再計算する。例えばこの試算では1959年における民間賃貸の家賃は2145円との値が出ているが(実測値は337円)、これは「1959年当時の物価が2024年と同じだった場合、民間賃貸住宅の平均家賃は2145円(1坪あたり)になる」次第である。
やはり民間賃貸では住宅ブームの1960年代、特に1960年代後半において、大規模な家賃の「実質的」値上げが起きていることが分かる。その後は1980年代前半までほぼ横ばいを見せたものの、バブル時代の到来とともに一段階上昇し、あとは穏やかな値上げが漸次行われていた形だ。そして金融危機勃発以降は漸次値下がり。直近2024年における大幅な家賃上昇は、物価上昇への対応以上のものではなかったようだ。
一方で公営賃貸ではこの60年あまりで実質2倍足らずの値上げしか行われておらず、その値上げ時期も1970年代後半から1990年代後半までの間に限られているのが分かる。色々な意味で良心的といえよう。
ここ数年の間に更新料に関する論議が活発に行われ、それに伴い「更新料の廃止=家賃に転嫁」との動きも一部で見られている。他方、賃貸住宅の供給量の大幅増加に連れ、需給バランスが崩れ気味なのも事実。家賃動向はほぼ横ばい、新規契約時にも減少の動きすら見られる。これらの動向は家賃にどのような影響をもたらすのだろうか。
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※小売物価統計調査
国民の消費生活上重要な財の小売価格、サービス料金および家賃を全国的規模で小売店舗、サービス事業所、関係機関および世帯から毎月調査し、消費者物価指数(CPI)やその他物価に関する基礎資料を得ることを目的として実施されている調査。
一般の財の小売価格またはサービスの料金を調査する「価格調査」、家賃を調査する「家賃調査」および宿泊施設の宿泊料金を調査する「宿泊料調査」に大別。価格調査および家賃調査については、全国の167市町村を調査市町村とし、調査市町村ごとに、財の価格およびサービス料金を調査する価格調査地区(約28000の店舗・事業所)と、民営借家の家賃を調査する家賃調査地区(約7000事務所)を設けている。
価格調査および家賃調査の調査市町村は、都道府県庁所在市、川崎市、相模原市、浜松市、堺市および北九州市をそれぞれ調査市とするほか、それ以外の全国の市町村を人口規模、地理的位置、産業的特色などによって115層に分け、各層から一つずつ総務省統計局が抽出し167の調査市町村を設定している。
価格調査については、調査員が毎月担当する調査地区内の調査店舗などに出かけ、代表者から商品の小売価格、サービス料金などを聞き取り、その結果を調査員端末に入力する。家賃調査については、原則として調査員が調査事業所を訪問し、事業主から家賃、延べ面積などを聞き取り、調査員端末に入力する。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
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