下落基調の中で3000億円割り込み…音楽CD・有料音楽配信の売上動向
音楽ソフト・有料音楽配信の売上推移
日本国内では音楽として定義づけられた娯楽に対価を支払う動きは、環境の移り変わりに伴い次第に縮小する方向にある。日本レコード協会の公開白書「日本のレコード産業2017」を基に、その実情を確認していく。
まずは「有料音楽配信」(モバイル、そしてインターネットダウンロード(パソコン配信とスマートフォン双方))の2016年分における結果。金額としては528億8600万円、前年比でプラス12%を示した。従来型携帯電話(フィーチャーフォン)による着うたなどの売上を意味する「モバイル」は急速に減少を続けているが、代わりにインターネットダウンロード(iTuneなどのスマートフォン系含む)がアルバムで増加し、サブスクリプション(定額制方式に対する使用権の販売など)も大幅上昇を遂げ、今回年も「有料音楽配信」の全体額を押し上げる形となった。
2007年までは「音楽ソフトの売上減を有料音楽配信がカバーし、全体の売上は上昇していた」、つまり「音楽業界は売上では成長を続けており、CDなどの音楽ソフトの売上減は有料音楽配信にそのシェアを食われている」と解説できた。ところが2008年に至り、有料音楽配信の成長は続いているものの、それ以上に音楽ソフトの売上減が急速に進み、市場全体の売上も落ち込む結果となってしまった。そして2010年以降はモバイル端末市場の変化、具体的には従来型携帯電話からスマートフォンへのトレンドの移り変わりに伴う、利用者の有料音楽との付き合い方の激変によって、有料音楽市場も急速に縮退してしまう。
2015年では音楽ソフトの堅調さで全体額でも盛り上がりを見せたものの、直近の2016年は音楽ソフトではCDの中でも特に洋盤の不調は続き、全体として販売数ではマイナス5%・金額でマイナス3%の縮小を示すこととなった。結果として音楽ソフト全体の売上は前年から転じてわずかではあるが減少、アナログ・デジタルを合わせた音楽全体の売上も2年ぶりに減少へと転じ、節目となる3000億円を割り込む形となった。
売上動向を長期視点で
音楽業界の動向を一歩引いた立場から眺められるのが次の図。上記のグラフを1990年までさかのぼって再構築したもの(有料音楽配信はデータ上に登場した2005年以降のみ)、さらに有料音楽配信と音楽ソフトの売上合計における両者の比率推移をグラフ化した。
有料音楽配信のデータは2005年からなので、それまでは音楽ソフトのみのグラフとなる。(従来型)携帯電話上の着メロがスタートしたのは1996年。ただし2004年以前は計測対象とならないほど売り上げが小さかったこと、そして音質の問題もあり、1996年~2004年の間の音楽ソフトの減少が、デジタル有料音楽配信のみに起因するとは考えにくい。2005年からは別途取り扱われるほどまでに有料音楽配信が成長し、一時期ではあるが音楽業界に救いの手を差し伸べた形になっているのが分かる。そして1990年代後半に音楽業界はピークを迎えており、それ以降は売上の面で漸減する傾向である実情も確認できる。
2009年~2010年ではすでに1/4近くがソフト部門において有料音楽配信で占められていた。ところがそれ以降は「従来型携帯電話からスマートフォンへの利用移行に伴う、音楽聴取者の有料音楽配信との付き合い方の変化」、そして某ユニット・グループによる手法で知られる特殊な販売スタイルに代表される「シングルCDの販促方法の多様化に伴う盛り返し」などがあり、少なくとも売上の面ではトレンドの変化が確認できる。そして2013年以降は、有料音楽配信分野におけるサブスクリプションサービスという新たな音楽提供のスタイルの伸長により、再びシェアは有料音楽配信の増加の形で変化を見せつつある。
金額こそまだ音楽ソフトと比べれば少額ではあるが、今後の動向では注目すべきなのが有料音楽配信部門。同部門ではスマートフォンの台頭、急速な普及に伴い、大きな転換点を迎えている。曲の管理の簡易化と収録容量の増加、無料曲の増加、市場単価の減退、定額制サービスの普及など、多彩な売り上げ圧縮理由により、従量制的な従来の「有料」音楽市場が縮小を続けている。昨今のサブスクリプションによる売り上げ増は、見方を変えればアラカルト方式(1曲ごとの販売方式)の低迷に直結することになるため、諸手を挙げられる状況とは言い難い。あるいは音楽の利用スタイルそのものに大きな変化が生じている、生じさせた可能性は否定できない。
今後さらにスマートフォンの普及率が高まり、多様なサービスが普及し、音楽への接触の様式が変わるに連れ、有料・無料楽曲感のバランス、聴取者の利用スタイルはどのような変化を見せていくのか。多分に拡大を続けているであろう無料音楽市場、さらには定額制の取得サービスの動向と合わせ、注視し続けたい。
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