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「おもてなし」の裏で「ひとでなし」-ラサール石井さんが難民いじめを批判、元五輪選手も入管に危惧

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ラサール石井さん(右)と指宿昭一弁護士(左)筆者撮影

 難民認定申請者を強制送還できるようにする、送還を拒否すれば1年の懲役も-現在、国会で審議されている入管法の改正案は、かねてから「難民認定率の低い国」としてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)からも名指しされていた日本の難民排斥ぶりに拍車をかける内容だ。名古屋入管の収容施設で、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが非業の死を遂げたこともあり、著名人の間からも入管のあり方へ疑問視する声が出始めている。今月6日、弁護士や支援団体関係者らが入管法「改正」案に反対する会見を開き、ウィシュマさんの遺族やタレントのラサール石井さんらが発言した。

○「安全なはずの日本で何故」嘆く遺族

 スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんは「日本の子ども達に英語を教えたい」という夢と共に、2017年に留学生として来日。だが、その後、学費を払えなくなり、通っていた日本語学校の学籍を失ったことで在留資格も失い、昨年8月、名古屋入管の収容施設に収容された。収容当時、コロナ禍で母国への定期便はなく、さらに、当時交際していた男性から帰国したら殺すとも脅迫を受けていた。そのためウィシュマさんは帰国できず収容は続いたが、今年1月以降、健康状態が著しく悪化。体重が20キロも激減、吐血と嘔吐を繰り返し、まともに食事を取ることすらできないウィシュマさんに、入管は点滴すらさせないなど、適切な治療行為を行わなかった。彼女との面会を行っていた支援団体は、ウィシュマさんを入院させるため、仮放免(就労しない等の一定条件の下、収容施設から解放されること)を入管側に求めていたが許可されず、今年3月6日にウィシュマさんは亡くなってしまったのだ。ウィシュマさんの2人の妹は今月6日の会見含め複数回、日本の記者達の取材に応じ、「姉との記憶はすべて楽しいものでした」「安全なはずの日本で、なぜ姉は死んでしまったのか、真実を知りたいです」等と語った。

○入管法「改正」案の欠陥と害悪

ウィシュマさん (遺族提供)
ウィシュマさん (遺族提供)

 入管法「改正」案は、出入国在留管理庁(入管)の権限を強化する一方、「不認定」とされた難民認定申請者や離婚や失職等の事情で在留資格を失った外国人を、入管の裁量のみで無期限に収容するといった問題点は改善しない。支援団体や弁護士らが「仮放免され、入院できたら、ウィシュマさんは助かったかもしれない」と指摘するように、上述した入管行政の欠陥がウィシュマさんを死に追いやった可能性が極めて高いのだ。さらに、難民認定申請者を強制送還できる例外規定を設けることは、「(迫害される危険性のある人を送還してはいけないという)国際法の原則に反する恐れがある」(入管法「改正」案へのUNHCRの意見書)、「日本に来ているミャンマー難民達が送還されることになりかねない」(入管問題に詳しい高橋済弁護士)など、深刻な人権侵害・国際法違反が大規模に行われる事態に発展しうるのである。

○"おもてなし"と"ひとでなし"

 今月6日の会見では、弁護士や支援団体関係者の他、ラサール石井さんもマイクを握った。ラサールさんは東京オリンピック招致の際での「おもてなし」のアピールにかけ、「表では"おもてなし"、片方では入管で"ひとでなし"」と日本政府の矛盾ぶりを皮肉った。さらに「難民認定申請を99%却下するのは100%受けつけないに等しい」と日本の難民排斥ぶりに苦言を呈した。

ウィシュマさんの妹達もオンラインで会見に参加、発言しているのはラサールさん 筆者撮影
ウィシュマさんの妹達もオンラインで会見に参加、発言しているのはラサールさん 筆者撮影

 実際、東京五輪は、難民その他帰国できない事情のある外国人の人々に対する入管側の姿勢にも大きな影響を与えている。2018年4月26日付の警察庁・法務省・厚生労働省の三省庁による合意文書『不法就労等外国人対策の推進(改訂)』では、“実際には条約上の難民に該当する事情がないにもかかわらず、濫用・誤用的に難民認定申請を行い、就労する事案”があるとした上で“政府は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて「世界一安全な国 日本」を作り上げることを目指している”として取り締まり強化に積極的に取り組むと書かれているのだ。

 なお、「難民認定申請の濫用」は法務省・入管の常套句であるが、日本の難民認定審査の異常さを棚に上げての悪質なレッテル貼りだろう。ミャンマーやシリア等の明らかに危険な状況から逃げてきた難民認定申請者すら認定されないことが多く、他の先進国では大勢、難民認定されているトルコ籍クルド人にいたっては、過去一度も認定されないのが日本の難民認定審査の現実だ。

三省庁の合意文書(部分) オリンピックに向けての治安維持のため、難民申請者を含む在日外国人の取締りを強化 網掛け部分は筆者
三省庁の合意文書(部分) オリンピックに向けての治安維持のため、難民申請者を含む在日外国人の取締りを強化 網掛け部分は筆者

 今月6日の会見には、バルセロナ五輪(1992年)のテコンドー日本代表であった高橋美穂さんもメッセージを寄せた。高橋さんは「ウィシュマさんの事案で国際基準からかけ離れた日本の入管行政、難民認定率の低さを知った」「今必要なのは人間の尊厳」と述べ、入管法「改正」案について「根本からの見直しを求めます」と訴えた。

 入管法の改正案は、現在、衆院本会議で審議されており、政府与党は早期の採決を目指しているが、野党側はウィシュマさん事件の真相もまだ明らかになっていないと反発を強めている。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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