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東京都4・4・4制小中高一貫校について考えた 2(課題と問題点)

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部教授

東京都の狙い

東京都が発表している「東京都教育ビジョン概要」(東京都教育委員会 2013年4月)には、「世界に伍して活躍する人材を育成するとともに、新たな教育モデルを提起するため、都立小中高一貫教育校の設置に向けて準備を進める」とある。

毎日jpには、「自治体による義務教育段階からのエリート養成」と書かれているが、同誌をまとめると、ポイントは以下の3点か。

1. 1学年80人(2クラス)程度で構成

2. 12年を4年刻みで、「基礎期」「拡充期」「発展期」

3. 発展期では理数系科目を中心に高校の履修内容を先取教授

実際の運用面を考えると

これまでの教育制度に当てはめると次の通り。

小1~小4 基礎期

小5~中2 拡充期

中3~高3 発展期

詳しい内容が公表されていないので、断言できないが、小中高一貫してカリキュラムを考えることが可能になるので、今まで一部の有名私学の中高一貫校が中高一貫と称して6年間で行っていたことを公立の、しかも小中高の12年で行おうというものだろう。

有名私学が特別のカリキュラムを組み、通常6年かかるカリキュラムを5年程度で済ませてしまい、最後の1年を完全に受験対策等に充てていたことを、12年単位でやるとしたら、かなり大胆なことが可能である。

今後の発表に注視したいが、「拡充期」で従来の中学校までの過程を終了させ、「発展期」の中3から高2で高校の過程を終わらせ、残り1年間を進路に向けて充分な時間を確保する狙いと考えられる。

「基礎期」の段階で入学試験を実施するとのことなので、希望する家庭の子どもが選択して通うのだから、方向としては充分に考えられると思う。

不明なこと

産経新聞には、「現行の学校制度は変えられないため、学校の種別としては小学校と中高一貫校となるが、学習指導要領の内容をすべて盛り込み、国の承認が得られれば、教育課程特例校として4・4・4制が実現できるという」との記載がある。

小学校課程を「基礎期」4年で済ませてしまうとしたら、中学校課程「拡充期」は4年は従来より1年多い。その1年をどう扱うのか。

新聞報道からは、「発展期」で理数系科目を中心に高校の履修内容を先取りして教えるとあるが、実際は先取り教授は、「拡充期」から始まるイメージだろう。つまり、従来の小5にあたる年齢から、従来の中学校のカリキュラムを始める、中高一貫校がスタートする、ということだろう。

論点整理

議論をしておかなければならないことを列挙していきたい。現段階では情報が少なすぎるので私見は書かない。

6年分を4年で?

最も問題なのは小学校課程を4年で済ませるということだろう。

優秀な子どもたちなら、学力面の確保は可能だろう。しかし、日本の学校が6年かけて、ゆっくりと子どもたちを教え育てる教育内容は、単に学力面だけでなく、様々な配慮が有形無形になされてきており、4年で行うのなら、十分な準備が必要である。単純に考えて、1.5倍のスピードである。小学校入学前のテストで、このスピードに耐えうる子どもか見極めることが可能だろうか。乗り遅れる子どもが出てきたときの対応方法についても十分な議論と準備が必要である。公立の小学校で必要なことかどうか、議論が必要だろう。

12年続く仲間

小1で入学した80人が12年間、共に学ぶことになるのだろう。2クラスを想定しているのだと思うが、かなり濃密な人間関係が築かれることが予想される。歓迎すべきことである反面、いじめ等の課題を抱えてしまうとリセットしにくい。

小学校時代から学力面だけでなく、学級経営にも力を入れていかなければ、ドロップアウトする子どもが出てくる可能性がある。

関わっている私学では、小中が一貫校のような関係でカリキュラムを柔軟に編成しようとしているが、小学校卒業時にかなりの人数が進路変更して、地元の公立中学校に入学していく。漏れ聞く話では、人間関係の縺れが主要因だそうだ。この部分には先行事例が多数あるので、参考にできるはずだ。

教員免許状

日本の教員免許状はこのような学校を想定してこなかったので、小学校、中学校、高等学校と分かれている。難しいのが小5~小6年代の子どもたちへの指導だろう。私の想像通りのカリキュラムで進むと想定したら、教科内容が中学校内容で、学齢が小学校年代である。そのあたりをどうするかも、重要な部分で議論を要する。

転入、転校

中1、高1での追加募集を想定しているとのことだが、中1で合流する子どもが、小1から同校で学ぶ子どもに追いつくためには、特別なカリキュラムで急ピッチに追いつかなければならない。他の生徒は中学校の範囲を終わりかけている可能性があるので難しい。高1での合流はさらに難しい。実際は同じ敷地内で、別カリキュラムになってしまうそうである。

また、逆に転校、転出の場合の扱いも難しい。具体的には高校入試での内申書の扱いである。例えば中1年代で中学校の内容が終わってしまっているとしたら、その時期の成績が内申書として活用されるのだろうか。

上記の人間関係で縺れ等の理由他で、高1で進路変更したいと考える子どもがでてくることも十分想定できるので、このあたりも議論のポイントの一つだろう。

今後も注視していきたい

新しいことを始めるのだから、課題や問題点が続出してくるだろう。生身の子どもたちを実験台にはできないので、できるかぎりの議論と準備をしておくことが必要である。東京都だけの問題と捉えず、この後の一つの方向性として、日本全体の課題と考えて議論していく姿勢を持ちたい。智恵を出し合えば、一つの画期的な方向になるかもしれないし、失敗に終わってしまうかもしれない。見切り発車は厳禁である。

そういう意味でも東京都は広く情報提供をしていく努力を惜しまないでいただきたい。

兵庫県立大学環境人間学部教授

生徒指導提要(改訂版)執筆。教育学博士。公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より大学教員。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。

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