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50盗塁達成間近の大谷翔平が規格外過ぎる明確な理由

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
盗塁により別次元のDH選手へと進化した大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【前人未到の50本塁打&50盗塁が目前に】

 レギュラーシーズンも約2週間を残すばかりとなり、ポストシーズン争いがいよいよ佳境を迎えようとしている。その一方でMLB公式サイトは9月に入り、大谷翔平選手とアーロン・ジャッジ選手の個人記録に注目し、連日彼らの活躍をトラッキングし続けている。

 ジャッジ選手に関しては9月に入り突如として打撃不振に陥り、現在のペースだとシーズン終了時に56本塁打になる予定で、自身2度目の年間60本塁打到達はかなり微妙な状況になっている。

 しかし大谷選手は、本塁打、盗塁ともに自己最多を更新し、現在も前人未到の「50本塁打&50盗塁」達成をクリアできるペースを維持している。打者に専念するシーズンでさえも規格外の活躍を続け、球界内での大谷選手の希少価値がより一層際立っている感がある。

【オッズメーカーでは大谷選手が圧倒的人気】

 ちなみにこの時期になると、米メディアの中でMVP、サイヤング賞、最優秀新人賞などのディベート合戦が始まるが、ナ・リーグMVP争いにおいて大谷選手が最有力候補である流れに変化はない。

 その端的な例が、スポーツ賭博の各オッズメーカーが発表しているオッズ状況に表れている。

 カジノ関連専門サイト「VEGAS INSIDER」によれば、7つのオッズメーカーが発表しているナ・リーグMVPのオッズは、すべて大谷選手が圧倒的人気を誇り、ただ1人マイナスオッズ(650~2200)になっている。現時点で大谷選手のMVP獲得に賭けたとしても、実入りはほぼゼロに近い状況だ。

 これまで大谷選手以前に「40本塁打&40盗塁」を達成した選手は5人存在しているが、MVPを受賞しているのは1988年のホゼ・カンセコ選手(42本塁打&40盗塁)と2023年のロナルド・アクーニャJr.選手(41本塁打&73盗塁)の2人しかいない。

 ただMVPは各シーズンにおける最も顕著な活躍をした選手を決めるものであり、他者との比較対象が原則になってくる。最近になってメッツのフランシスコ・リンドア選手が注目され始めているとはいえ、前人未到の記録達成を目前としている大谷選手(しかも本塁打と打点の二冠王獲得も濃厚)との比較となると、やはり見劣りするのは仕方ないように見える。

【DH選手が50盗塁に到達する意味】

 仮に大谷選手が順当にMVPを受賞することになれば、史上2人目の両リーグでのMVP受賞者になるとともに、史上初めてDH選手が同賞を獲得することになる。

 これまでMVP争いでは守備につかないDH選手は不利だとされてきたが、米メディアの評価を聞く限り、今シーズンの大谷選手はそうした不利を凌駕しているように思う。

 それこそが「DH選手による50盗塁」だ。“打撃の職人”的要素が強いDH選手に、“俊足”という新たな価値を加えることに成功したためだ。

 野球の記録関連専門サイト「Baseball Reference」によると、年間50盗塁到達者はこれまで延べ数で494人に上る。年間50本塁打到達者が延べ49人しかいないことを考えると、比較的容易そうに思えるが、これまでの代表的なDH選手であるエドガー・マルティネス選手(通算盗塁数49)やデビッド・オルティス(同17)選手らの成績を見れば明らかなように、彼らは完全に盗塁とは無縁の存在であった。

 それだけに50盗塁という金字塔は、大谷選手を別次元のDH選手に押し上げているように思う。

【30歳で盗塁の自己記録を大幅更新する異様さ】

 大谷選手の規格外ぶりは、それだけに止まらない。30歳を迎えたシーズンで盗塁の自己最多記録を更新するとともに50盗塁に到達しようとしている点だ。

 過去に40本塁打&40盗塁を達成しているバリー・ボンズ選手やアレックス選手は、20代中盤で自己最多盗塁数をつくり、パワーを重視して身体を大きくし始めていると、年齢を重ねるごとに盗塁数は明確に減少している。

 また盗塁を武器にしている選手にしても、ほとんどの選手のピークは20代であり、2000年以降で年間50盗塁に到達した30歳以上の選手はわずか4人しか存在していない(2011年以降ではゼロ)。

 にもかかわらず大谷選手は、2018年にMLB移籍以降毎年のように肉体強化に取り組み、現在では球界屈指のパワーを誇りながらスピードと走塁技術に磨きをかけ、30歳にして自己最多記録を大幅に更新することに成功しているのだ。

 こうした背景を考えると、30歳で50本塁打&50盗塁を達成しようとしている大記録にさらに重みが増すはずだ。

 二刀流、DHにかかわらず常に我々の想像を超えていく大谷選手に、ただただ圧倒される思いだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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