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4回目のワクチン接種の効果によって明らかになってきた、既存の新型コロナワクチンの有効性の限界

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

日本では現在ブースター接種とも呼ばれる3回目の新型コロナワクチンの接種が進められています。

イスラエルではすでに4回目の接種が行われており、その結果の一部が報告されています。

残念ながら目覚ましい効果は確認されず、この結果によってワクチン政策は大きな岐路に立たされることとなりそうです。

4回目のmRNAワクチン接種後、抗体はどれくらい増えるか

3回目までファイザーのmRNAワクチンを接種した後、4回目にファイザーまたはモデルナのワクチンを接種した場合の抗体価の推移(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)
3回目までファイザーのmRNAワクチンを接種した後、4回目にファイザーまたはモデルナのワクチンを接種した場合の抗体価の推移(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)

医療従事者を対象にしたイスラエルでの4回目のワクチンの効果と安全性を評価した研究が報告されています。

1250人の医療従事者のうち、ファイザー3回目接種から4ヶ月後以降に154人がファイザーの4回目の接種を受け、120人がモデルナの4回目を接種しました。

図はワクチン接種後のスパイク蛋白RBDと呼ばれる、実際のウイルスを中和する中和抗体の量を反映しやすい抗体価の推移を示しています。

縦軸は2回目よりは3回目、3回目よりは4回目の後の方が抗体価は高くなっていますが、それほど大きな変化とは言えません。

ただし、3回目の接種後に時間が経つと抗体価が減ってきますが、4回目によってそれが再上昇するということは確認できます。

オミクロン株に対する中和抗体は4回接種後も不十分

野生株、デルタ株、オミクロン株に対する中和抗体価の推移(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)
野生株、デルタ株、オミクロン株に対する中和抗体価の推移(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)

ワクチン接種後に産生される中和抗体(実際にウイルスを中和するための抗体)の量は、変異株の種類によって異なります。

元々、ファイザーやモデルナのmRNAワクチンは、武漢で見つかった新型コロナウイルス(いわゆる野生株)のスパイク蛋白を細胞内で産生し、免疫を得るというものです。

しかし、オミクロン株では非常に多くのスパイク蛋白の変異が起こっており、野生株のスパイク蛋白とは顔つきが大きく変わっています。

このため、mRNAワクチンの接種によって野生株に対する中和抗体は多く産生されますが、オミクロン株に反応するための中和抗体の量は十分ではありません。

4回目の接種ではどうなるかというと、これもやはり野生株と比べると10分の1以下の量となっており、十分とは言えません。

中和抗体の量は感染を防ぐ効果と概ね相関すると考えられており、オミクロン株に対して十分な中和抗体が産生されないことは、十分に感染を防ぐことは難しいと推測されます(重症化を防ぐ効果は必ずしも中和抗体の量と相関しません)。

4回目のワクチンの感染予防効果は11〜30%

4回目のワクチン接種をした人と、3回目までの接種の人の累積罹患率の推移(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)
4回目のワクチン接種をした人と、3回目までの接種の人の累積罹患率の推移(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)

この研究では、4回目のワクチン接種をしなかった人(3回目まで接種した人)は、観察期間中に25%がオミクロン株に感染したのに対し、ファイザー接種群は18.3%、モデルナ接種群は20.7%が感染しており、3回目接種のみの人と比べた感染予防効果はそれぞれ30%、11%と計算されました。

ただしこの研究では参加者の人数が多くないため、ワクチンの効果を過小評価している可能性もあります。

ちなみにこの研究でオミクロン株に感染した医療従事者は、4回目接種群の方が無症候性感染者の割合が多かった(25〜29.2%)ものの、4回目を接種した群も接種なしの群と比べてウイルス量は多く、感染した場合の周りに感染を広げるリスクはおそらく変わらないものと考えられます。

4回目接種後に生じた副反応の頻度(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)
4回目接種後に生じた副反応の頻度(DOI: 10.1056/NEJMc2202542)

なお、4回目の接種後に生じた副反応は、3回目までの副反応と大きな違いは見られませんでした。

これまで通り接種部位の腫れや痛み、だるさ、筋肉痛、頭痛、発熱、リンパ節の腫れなどが見られています。

3回目までよりも特に副反応が多くなる、ということはなさそうです。

60歳以上の高齢者では感染リスクが半減、重症化リスクが1/4

ファイザー社は3月15日にプレスリリースを発出し、イスラエルにおける60歳以上の高齢者を対象にした4回目のワクチン接種の効果について発表しました。

このプレスリリースによると、3回目の接種から4ヶ月後以降に4回目のワクチン接種をした高齢者では、4回目を接種していない高齢者と比較して感染者が半分、重症化した人が4分の1であった、とのことです。

これらのデータを元に、ファイザー社はアメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)に65歳以上の高齢者に対する4回目の接種に関する申請を行ったとのことです。

4回目接種の効果で見えてきた既存ワクチンの限界

以上のように、4回目のワクチン接種の効果や安全性に関する情報は限られていますが、3回目と4回目とでは大きな効果の差はなく、少なくとも「全員が4回目の接種をしたらコロナは終息する」ということは期待できなさそうです。

オミクロン株が主流となっている現状においては、4回目のワクチン接種をすることで接種した人の感染リスクを下げることはできるようですが、感染を完全に防ぐことはできないようです。

高齢者では時間経過とともに重症化を防ぐ効果も下がってきますので4回目を接種する意義はあるでしょう。

病院内でのクラスターを少しでも防ぐという意味では医療従事者も接種対象になると思われます。

しかし、すでに3回接種を完了して重症化リスクが大きく下がったそれ以外の人たちにとって、3回目からたった4ヶ月の間隔で4回目の接種を行うのは現実的ではないでしょう。

今回の4回目の接種の効果に関する報告は、有効性を示したというよりは既存のワクチンの限界を示したとも言えます。

「おっ、くつ王、ついに反ワクになったか・・・闇落ち乙」と思われたかもしれませんが、そういうわけではありません。

これまでにmRNAワクチンなどの新型コロナワクチンが果たした功績はあまりに大きく素晴らしいものです。現在、感染力が極めて強いオミクロン株で感染者が爆発的に増えてしまいましたが、それでもこれだけの重症者・死亡者で済んでいるのはワクチン接種の影響が非常に大きいです。

しかし、既存のワクチンは重症化予防効果は保たれているものの、短期間で出現してくる変異株に対して十分な感染予防効果を持続的に保つことができなくなってきています(今後、オミクロン株よりもワクチンが効きやすい変異株がオミクロン株から置き換わるということも、これまでの変遷を考えればあまり期待できないでしょう)。

また、4ヶ月ごとに追加接種を延々と行うことは、一部の免疫不全者・基礎疾患のある方や高齢者以外の人々にとっては現実的に難しいと考えられます。

既存のワクチンの追加接種は重症化リスクの高い人に限定し、今後は、より長期間効果が持続するワクチンや、様々な変異株に対して幅広い効果を持つワクチンの開発に注力すべき、という意見が増えてくるでしょう。

そういう意味では、今回の4回目の接種に関する効果に関する報告は、今後のさらなるワクチン開発の必要性を改めて認識させるものになったと言えるでしょう。

そして、そうしたワクチンが登場するまでは、4回目以降のワクチンは「どういった人たちへ」「どれくらいの間隔で」接種すべきなのか、科学的根拠と実現可能性の見地から検討しなければなりません。

なお、高齢者や基礎疾患のある方にとっては3回目のワクチン接種が重症化リスクを大きく下げることは間違いありません。

また多くの人にとっても3回目のワクチン接種はオミクロン株による感染を防ぐ効果を再び高めることができます。

本稿では「4回目」の接種について述べていることにご注意ください。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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