「次の首相」上川外相の顔に泥を塗った防衛省―共産・山添氏も暴挙に憤り #ガザ
イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃開始から、来月で半年になります。今月13日時点でガザ保健省によると、少なくとも3万1272人のパレスチナ人が殺害され、そのうち約7割は女性と子どもだとのこと。さらに7万3024人が負傷したとのことです。国際人道法においては、戦争中であっても民間人を殺傷してはならないと定められており、意図的に民間人を攻撃、或いは民間人の被害を防ごうとしないことは、戦争犯罪です。イスラエルによる戦争犯罪が連日行われている中、驚くべきことに、防衛省がイスラエルの軍事企業のドローン兵器を導入しようとしているのです。しかも、イスラエルの軍事企業側は、その製品の「性能」を防衛省にこの3月中に示すとしています。つまり、防衛省のイスラエルの軍事企業からの兵器の導入が、ガザの人々のさらなる犠牲を招くことになりかねないのです。また、防衛省の振る舞いは、流石にイスラエルの戦争犯罪に対し憂慮する姿勢を見せ始めた上川陽子外務大臣の顔に泥を塗るものであり、岸田政権の迷走ぶりを表しているとも言えます。
*本記事は、theLetterでの記事を転載したものです。
〇防衛省の異常なイスラエル贔屓
問題の契約は、防衛省が今年度に本格着手するドローン等の無人兵器に関する研究開発「無人アセット防衛能力」の一環として、IAI社(イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ)や、エルビット・システムズ社などイスラエルの軍事企業から攻撃用ドローンを導入し、運用実証を行うというものです。今年2月20日に行われた市民団体「大軍拡と基地強化にNO!アクション2023」が行った防衛省交渉において、その事実が明らかになりました。
それによると、既に防衛省は今年1月から2月にかけて、Heron MK 2(IAI社製)、Sky Striker(エルビット・システムズ社製)などイスラエル産ドローン兵器運用実証を行うとして契約しているとのことです。しかも、防衛省が運用実証を行うドローン兵器7種のうち、実に5種がイスラエル産であるなど、露骨なイスラエル贔屓が目立ちます。防衛省側は入札価格や性能を判断基準にしたとも主張しますが、ガザ攻撃の非人道性や後に述べる日本の外交方針への配慮が足らない点は批判されてしかるべきです。
本件について、今月13日、参院外交防衛委員会で山添拓議員が質問。イスラエル軍事企業が今月中にドローン兵器の実証結果を防衛省に報告する見込みであることを指摘した上で、「ガザ攻撃の実戦に投入され、その結果を報告してくるということが考えられるのではないか」と追及しました。これに対し、防衛省・防衛装備庁の久沢洋調達事業部長は「そのような実証実験を行われるということは確認しておりません」と答弁、事実上、はぐらかしたのですが、仮にこの答弁の通りだとしても、日本がイスラエルの軍事企業の兵器を導入することが、ガザの被害を助長することにならないかの確認をしていないこと自体が無責任だと言えます。とりわけ、実質的な軍事組織である自衛隊を管理する防衛省が、戦争犯罪に対する問題意識が低いことは極めて由々しきことです。
〇日本の外交に深刻な捻じれ
この時期に防衛省がイスラエルの軍事企業の兵器を導入することは、ガザ攻撃に対する日本の外交方針にも深刻な矛盾を生じさせています。上述の13日の国会質疑で山添議員は上川外相に対し、昨年12月のガザ停戦を求める国連総会決議に日本が賛成した理由を質問しました。これに対し、上川外相は
「我が国は昨年12月初頭の戦闘再開以降、ガザ地区 の人道状況がさらに深刻化していた中において、人道的観点から再度の戦闘休止や停戦を求める声が一層高まっていたこと、また決議案がグテーレス国連事務総長が国連憲章第99条に基づき発出したことを踏まえて、我が国も総合的に判断をし、賛成票を投じた」
と答弁しています。さらに、国際司法裁判所(ICJ)が今年1月26日に、イスラエルに対しパレスチナ自治区ガザ地区でのジェノサイド(大量虐殺)を防ぐためにあらゆる対策を講じるよう命じたことについても、上川外相は同27日に談話を発表、「ICJの命令は当事国を法的に拘束するものであり、誠実に履行されるべきもの」だと述べています。
つまり、外務省としては、イスラエル軍によるガザの民間人への無差別攻撃を憂慮し、ICJの「ジェノサイドを防げ」という命令を支持しているのです。その最中に防衛省がイスラエルのドローン兵器の導入することは日本の外交方針に反していますし、イスラエルに対しても「日本政府はガザでの虐殺を懸念しているように振る舞っているが、実際には口先だけ」「ICJの命令も軽視している」と受け取られかねない、非常に問題のあるメッセージを送ることになります。これは、人道的・倫理的に許されないことであることは勿論、防衛省は上川外相の顔に泥を塗ったとも言えるでしょう。また、「次の首相」として期待が高まっているとの世論調査もあると報じられる上川外相が本件について、どう対応するのかしないのかも、問われるところです。
〇「ガザ虐殺に加担するな」との批判
ガザ虐殺を防げというICJの命令とこれを支持する上川外相の談話は、少なくとも民間レベルでは重く受け取られているようです。伊藤忠商事はその子会社である伊藤忠アビエーションが、イスラエル軍事企業大手エルビット・システムズとの協力関係の「覚書」を昨年3月に結びましたが、今年2月にその覚書を「終了」させると発表しました。その理由として伊藤忠商事が会見で明言したのが、ICJ命令と上川外相の談話なのです。
上述の防衛省との交渉を行った市民団体のメンバーの杉原浩司さんは「民間企業が協力覚書の段階で関係を断ったにもかかわらず、防衛省が、こともあろうに虐殺を支えている軍需企業の武器を税金で購入するとは言語道断。まるでウクライナへの侵略戦争を続けるロシアの武器を買うに等しい暴挙であり、これほど露骨な虐殺への共犯行為はない」と憤ります。
上述の国会質疑でも、山添議員は「そもそも専守防衛の下で攻撃用ドローンの導入そのものが問題だと考えるが、ICJでジェノサイドが指摘されるタイミングでイスラエル製兵器の導入を決め、イスラエルの軍事産業を支える、これは絶対にやってはならない」と防衛省の姿勢を追及しました。
防衛省はこうした市民や野党からの批判に真摯に耳を傾けるべきでしょうし、また岸田政権としても、防衛省の振る舞いによって日本の外交が、事実上、「二枚舌外交」となってしまっていることへ対応すべきなのでしょう。
(了)