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プロ野球選手会が労働委員会に申し立てた件について

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

 次のニュースがありました。

巨人・山口俊の処分めぐり球団が不誠実交渉…プロ野球選手会が都労委に救済申立て

 プロ野球選手会が東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた、というものです。

 なかなか珍しいと思うので、少し解説したいと思います。

プロ野球選手会は労働組合

 御存じのとおり、プロ野球選手会は労働組合です。

 プロ野球選手が労働者なの?!と思うかもしれませんが、労働組合法では立派な労働者です。

 労働組合を結成する権利もありますし、その労働組合が使用者から不当な扱いを受ければ救済を求める権利もあります。

 労働基準法上の労働者かどうかは、争いがあるところですが、選手によっては労働基準法上の労働者にあたる人もいるだろう、と私は思っていますが、このニュースではそこは関係ありません。

 ちなみに、サッカー選手も労働組合があります。

労働委員会とは?

 さて、労働委員会というところは、労働組合が不当な扱いを受けたとき(不当労働行為を受けたとき)に、その労働組合が救済を求める組織です。

 都道府県に1つずつあります。

 申立てがあると調査を行い、必要であれば関係者の尋問も行い(「審問」といいます)、結論を出します。

 ここでの結論に不服がある場合は、中央労働委員会にさらに判断を求めることができます(裁判もできます)。

選手会は何を求めたのか?

 今回、プロ野球選手会が申し立てた内容は、報道によると、

 読売巨人軍については、(1)交渉を一方的に打ち切ったこと(2)選手と個別に交渉したこと(3)客観的かつ具体的な資料を示さず、合理的な説明をしなかったこと、日本プロフェッショナル野球組織については、(4)義務的団交事項であることを否定したこと――などを指摘したうえで、双方に誠実に対応することを求めている。

出典:弁護士ドットコムニュース

とのことです。

選手会が求めたことの意味

 巨人軍のしたとされる、「交渉の一方的打ち切り」は、団体交渉拒否として、労働組合法7条2号の不当労働行為となる可能性があります。

 また、「選手との個別交渉」は、会社が労組の頭を超えて組合員と個別交渉したことと同じですので、支配介入(労組法7条3号)の不当労働行為となる可能性があります。

 そして、「交渉で客観的かつ具体的な資料を示さない」という点は、団体交渉を不誠実に行ったということで、不誠実団交(労組法7条2号)という不当労働行為となる可能性があります。

 また、日本プロフェッショナル野球組織がしたとされる「義務的団交事項であることの否定」は、これを理由とした団交拒否であれば、その団交事項が義務的であるとされると、団体交渉拒否という不当労働行為となる可能性があります。

何が争点に?

 争点としては、巨人軍に関しては、「交渉の一方的打ち切り」に正当な理由があるかが問題となるものと思います。

 一般的には、団交を何度も重ねても平行線をたどるというような、かなり丁寧な団交を重ねているような場合でないと、交渉を一方的に打ち切ることが正当化されることは、あまりありません。

 巨人軍がどのような反論をするのか注目されます。

 さらに、個別交渉については、山口投手が同意していたという反論をするだろうと予想されますが、交渉力でいうと圧倒的に強い使用者(巨人軍)側が労働者を労組の頭を超えて同意させた行為をどのように評価するかがポイントになるだろうと思います。

 最後の不誠実団交については、交渉全体における巨人軍の態度、資料の開示に対する姿勢など、幅広い事実関係から認定されることになるので、ここも反論に注目したいところです。

 日本プロフェッショナル野球組織の義務的団交事項の否定ですが、選手会のHPなどによると、調査を求めたのに調査をしないというもののようですので、「調査の実施を求めること」を議題とした団体交渉が義務的団交事項となるのか否かがポイントになると思います。

 この点、

 コミッショナーは、(1)球団、(2)機構と契約関係にある個人、及び(3)この組織に属する団体と契約関係にある個人(以下、「関係団体等」と総称する。)に、この協約又はこの協約に基づく規程に反する事実があるか又はそのおそれがあるとの心証を抱くときは、調査委員会に事実を示してその調査を委嘱し、その結果についての処分意見を得て、自らの名において関係者に制裁を科する。

出典:野球協約8条2項

があるので、日本プロフェッショナル野球組織が職権を発動することは可能であるものと思われます。

 この規定と労働組合からの申し入れとの関連が争点になるものと予想されます。

山口投手への処分は重すぎる

 最後に、山口投手の処分の妥当性ですが、さすがに重すぎると思います。

 たしかに、プロ野球選手ですので、社会的影響は大きく、通常の労働者と比較は難しいかもしれません。

 しかし、起こした事件内容に比べて制裁内容が、7月11日から11月30日まで無給というのは厳しすぎると思います。

 ちなみに、労働基準法上の労働者にこんなことをやったら、即ブラック企業確定です。

 また、一部に一般企業であれば「解雇もできる」という人もいるようですが、一般の企業でも解雇はできないでしょう。

 強行しても無効となってしまいます。

 そうした意味で、山口投手自身が同意をしている形となってはいるものの、プロ野球選手会が労働組合としてこの問題を議題として、巨人軍と交渉したり、日本プロフェッショナル野球組織にその妥当性の調査を求めることは、労働組合の活動として当然であり、何ら責められるべきことではないと言えるでしょう。

がんばれ!プロ野球選手会

 本ニュースは、プロ野球選手会が労働組合として機能しているのを実感できるものであるとともに、労働組合が労働者のためにあることを再確認できるものであると思います。

 是非、プロ野球選手会にはがんばってもらいたいと思います!

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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