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ラーメン一風堂に20億円、クールジャパン機構が目指すもの

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

ラーメンダイニングをコンセプトとした一風堂 豪・シドニー店
ラーメンダイニングをコンセプトとした一風堂 豪・シドニー店

日本文化を海外に売り込む官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)は8日、博多ラーメン「一風堂」を展開する力の源ホールディングス(福岡市)に、欧州や米豪での海外展開資金として計20億円を支援すると発表した。

出典:「一風堂」海外展開に20億円 クールジャパン機構、ラーメン普及支援

クールジャパン機構プレスリリース

http://www.cj-fund.co.jp/files/press_141208-2.pdf

官民ファンドであるクールジャパン機構海外需要開拓支援機構)が、ラーメンチェーンの福岡の一風堂に、約 7 億円の出資と最大 13 億円の融資枠で支援するという。経済産業省の所轄である実績600億円(2013年度)のファンドが、ラーメンチェーンへ出資?になんとなく違和感がわく人も多いことだろう。

しかし、アニメや映画の輸出(アウトバウンド)よりも、食の輸出は、産業全体と係る人口の多さから考えると非常に効率のいい投資だと思う。

海外で見かける変な日本レストランの理由

海外の日本レストランをイメージしてみてほしい。日本食を食べようと思うと、ラーメン、カレー、寿司、天ぷら、丼、すき焼き、焼き魚、ステーキ、弁当が、まったく同じ店舗で提供されていることに驚ろくことがある。日本人としては、カレーと寿司とラーメンと寿司とすき焼きが同じ店で出てくるのはどうしても許せない。

「一体、この店は何屋なんだ?」と腹立たしく思うことがある。しかし、これが、日本人の外食に対して求めるクオリティの感覚だと自覚したほうが良い。外国の人にしてみれば、どれも日本食なのだ。それだけ日本食のバリエーションがあることを海外に出てはじめて我々は知らされる。

世界広しといえども、外食産業が、これほどまでに細分化されている国は日本以外にまったく存在しない。たとえば、会食でも、昨日食べたものとかぶらないような「おもてなし」をする。外国人のお客様も、なぜ?昨日の食事を聞かれるのかの理由がわかった時に、日本食のバリエーションの多さに驚愕する。

世界でNo.1 日本の専門外食店は5,000種類

日本のレストランの種類は5,000アイテムに及んでいる。ダントツで世界でNo.1だ。

和食に洋食、中華にイタリアン、フレンチ、各国外国料理…多岐にわたる。

例えば麺類のうどんジャンルだけでも、「関西」「讃岐」「カレー」「ほうとう」「沖縄そば」などの専門店が存在する。さらに、ラーメンジャンルとなれば、「札幌」「喜多方」「東京」「横浜家系」「博多」などの地域別に、「味噌」「醤油」「塩」「つけめん」「油そば」「魚介系」「オリジナル系」の掛け算によるラーメン専門店数となる。

ラーメン専門店だけでも、日本では3万5,000店舗あり、市場規模は5,550億円だ。年間3.8億杯も消費されている。

料理のたかが1ジャンルでこれだけの規模を持つのが、我ら日本人の育った食文化のDNAだ。

一方、海外にある日本食レストランは、推計で20,000~24,000店舗。もっとも多いのは北米の約10,000店、次いでアジア地域の約6,000~9,000店。欧州には約2,000店、中南米に約1,500店、オセアニアに約500~1,000店、ロシアに約500店、中東にも約100店の日本食レストランがある。

http://www.nissui.co.jp/academy/data/07/

それが、2013年3月では55,000店舗(外務省調べ農林水産省推計)に成長している。

2020年の成長分野は「食」だ!

世界の食の市場規模は340兆円(2009年)だが、2020年には、680兆円と倍増する。アジア地域では82兆円(2009年)が229兆円と3倍に増える。

2020年、680兆円となる世界の「食」市場規模
2020年、680兆円となる世界の「食」市場規模

http://www.maff.go.jp/j/shokusan/eat/pdf/20130620.pdf

この急成長する市場に、日本食は、「文化」「味」「材料」「スキル」「習慣化」などによって10%食い込むだけで68兆円20%のシェアでは136兆円のアウトバウンド効果が期待できる。これは十分に可能な数字だ。

さらに、日本の食文化をアウトバウンドすることによって、観光や、食材の輸出などと多岐にわたって日本文化の認知を育て、農家や酪農家や刃物産業、衣類、観光に至るまで、日本ブランドへのシナジーは限りなく増える。

日本食の海外でのアドバンテージと競争力

外国人が好きな外国料理の1位は「日本料理」であり、外国人観光客の日本への訪日前に期待することの1位も「食事」である。

平成32年度(2020年)日本の社会保障費は131兆円が想定されているが、それと同等の売上、いやそれ以上が見込めるのだ。むしろ、消費税よりも、海外の潤沢な市場からこの費用を捻出すべきと考えた方が良いのではないだろうか?

2020年、130兆円になる社会保障費
2020年、130兆円になる社会保障費

2020年、東京オリンピックまでの、あと5年。この5年に出来る限りの策を講じるしか、我らの生きる道はないと思う。もしかすると最後のチャンスかもしれない。

食のアウトバウンドは、世界でも通用する戦略だ。限りない可能性を秘めている世界市場でもある。

このチャンスをどうとらえるのか、官民ファンドだけではなく、政府をあげてでも、海外で日本の多岐にわたるレストラン輸出をぜひ展開していくべきではないだろうか?

国内だけを見ていては、何もできない。…かといって海外で何をという時に、飲食ビジネスは、投資と結果が短期的に見えやすいビジネスだ。

この5年で目標を建てて、集中し、世界の680兆円の「食」の市場を狙ってほしい。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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