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北朝鮮が北上した米戦略爆撃機「B-1B」を迎撃できなかった謎

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米戦略爆撃機「B-1B」

 米戦略爆撃機「B-1B」2機とそれを護衛する戦闘機「F-15C」など合わせて7機が「海の38度線」と称される北方限界線(NLL)を越え、北朝鮮の領空に近いところで2時間にわたって軍事示威を行ったにもかかわらず、北朝鮮は何の反応も示さなかった。

 「B-1B」は核兵器を搭載してないが、930km離れた場所から平壌の労働党庁舎など北朝鮮の核心施設を半径2~3km内で精密打撃することが可能で、空対地巡航ミサイル24基など61tに及ぶ兵器を搭載している。地中貫徹爆弾「バンカーバスター」も保有しており、金正恩委員長ら北朝鮮最高司令部が作戦を担う地下バンカーなどへの空爆が可能だ。戦略爆撃機の中では速度がマッハ1.25と最も早く、グアムのアンダーソン基地からは2時間もあれば平壌上空に飛来すると言われている。

 これまでは韓国・江原道のヨンウォル郡周辺を旋回し、韓国空軍の「必勝射撃場」で爆撃訓練を行っていたが、NLLを越え、北上したのは今回が初めてだ。それも1機でなく7機から成る編隊だった。

 NLLは日本海に面した元山沖から距離にして60kmしか離れてない。「B-1B」はNLLから150kmまで北上し、潜水艦弾道ミサイル(SLBM)基地のある新浦から120km~150km、核実験場の咸鏡南道吉洲豊鶏里から130km~140kmまで飛行していた。北朝鮮の領空には入らず、元山からは350km離れた国際空域を午前12時から2時間にわたって飛行訓練を行い、ユータウンしている。

 「B-1B」の北上は核実験とミサイル発射実験を続ける北朝鮮をいざとなったらいつでも攻撃できるとの本気度を示すための軍事デモンストレーショの意味合いが強いが、北朝鮮にとってはこれほどの挑発行為はない。

(参考資料:「米軍の対北先制攻撃準備完了!」米メディアが米軍の攻撃シナリオを一斉報道

 国連総会に出席していた李容浩外相はニューヨークで「これからは米国の戦略爆撃機が例え我々の領空境界線を越えていないといっても任意の時に撃ち落とす権利を含めすべての自衛的対応の権利を保有することになるだろう」(25日)と強気なコメントを発表していたが、本当に迎撃できるのかどうか、あるいはその意思があるのかどうか疑わしい。

 北朝鮮が対応措置を取らなかった理由については▲深夜に侵入したため不意を突かれたから▲電力不足でレーダーが稼働せず、捕捉できなかったから▲元山に配備されている地対空ミサイル「SA-5」では届かなったから▲国際空域を飛行し、領空侵犯しなかったからなど様々なことが取り沙汰されているが、真相は不明だ。

 仮に深夜に侵入したため不意を突かれたのが理由ならば、また電力不足でレーダーが稼働せず、捕捉できなかったのならば昨年12月に就任したばかりのキム・グァンヒョク空軍・防航空司令官(大将)の更迭は避けられないだろう。

 北朝鮮が保有している地対空ミサイルは高度40km、射程260kmの「SA-5」、射程47kmの「SA-2」、射程35kmの「SA-3」の「SA」機種のほか新型ミサイル「KN-06」(射程距離100キロメートル)があるが、「B-1B」編隊が今回、元山からは350km離れて飛行しているので領海を侵犯するか、限りなく接近しない限り、北朝鮮の能力では迎撃は不可能だ。

 今年5月に発射実験に成功した新型の地対空ミサイル「KN-06」は北朝鮮版「PAC-3」と称されているが、朝鮮中央通信がこの実験について「不意に我が領空を侵犯する敵の空中目標物を探知、迎撃する方法で行われた」と伝えているように領空侵犯に対応するものである。

 事実、昨年も同じ頃「B-1B」が韓国上空に飛来し、軍事演習を行った際、当時ベネズエラで開かれた非同盟閣僚会議に出席していた李容浩外相は演説の中で「我々には戦略爆撃機(B-1B)を投入した米国の挑発に対抗するため新たな攻撃を開始する準備ができている」と米国を牽制したが、北朝鮮は何もしなかった。

(参考資料:米戦略爆撃機「B-1B」に北朝鮮は中長距離戦略ミサイル「火星12号」で対抗

 また、今年3月に「B-1B」2基が昨年10月以来、5か月ぶりにグアムのアンダーソン基地から飛来し、韓国内の「必勝射撃場」で爆撃訓練を行った際にも北朝鮮は対南宣伝媒体である「我が民族同士」が「B-1B」と原子力空母「カールビンソン」を撃墜、撃沈する仮想映像を公開し、米国を威嚇したものの、これまた空想の世界の話であった。

 北朝鮮は今月もまた「B-1B」戦略爆撃機やステルス戦闘機「F-35B」、さらには空母を撃墜、撃沈する仮想映像を対外宣伝メディアの「朝鮮の今日」が公開していたが、爆撃機を迎撃したのはなんと、潜水艦弾道ミサイル「北極星1型」を地上型に改良した「北極星2型」であった。

 今年2月、5月と2度にわたって発射テストが行われた2段式の「北極星2型」の高度は560kmで射程距離は500km。通常飛行すれば、射程距離は2500km~3000kmは出る。固体燃料でキャタビラによる移動式発射台からコールドランチ方式で発射され、マッハは9.5~10.0。マッハ1.25の「B-1B」もはるかに速い。

 北朝鮮の発表では最初のテストで弾頭の誘導及び操縦の特性が確認されたとされているが、北朝鮮は5月の2度目の発射に成功した際にこの「北極星2型」について「地対地中距離戦略弾道ミサイル」と呼んでいた。地対空ミサイルでもない「北極星2型」による戦略爆撃機の迎撃はどう考えてもあり得ない話だ。

 仮に北朝鮮が迎撃できないとなると、トランプ政権は戦略爆撃機のNLL越えを今後常態化させるかもしれない。来月にもステルス戦闘機「F-22」と「F―35B」が韓国に飛来するが、NLLを越えるかもしれない。爆撃機や戦闘機だけでなく、原子力空母の北上もあり得るかもしれない。約1000kmに達する空母の作戦半径を考えれば、金正恩政権の喉元に刃を突き付けることに等しい。

 金正恩委員長は2013年3月29日、米韓合同軍事演習に参加するためステレス核戦略爆撃機「B-2」が韓国に飛来した際には深夜に軍幹部を召集し、「米国と総決算する時が来た」と述べ、戦時体制の突入を宣言する一方で、ミサイル部隊に射撃待機状態に入るよう指示し、ムスダンを日本海に面した元山に配備していた。

 このまま沈黙を保つのか?それとも対抗措置を取るのか?ここ数日の動きが注目される。

(参考資料:「B-1B」戦略爆撃機が飛来しても北朝鮮のミサイル発射を止められない!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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