改元と出生数の関係を考察してみる(推定編)(2020年公開版)
出生数の検証
2019年4月30日に明仁天皇が退位され、翌日皇太子徳仁親王が即位されるとともに元号は同年4月1日に発表されていた令和へと改元された。この改元に絡み、2019年の出生数が以前の推測よりも大きく落ち込んだのは改元の影響があるからではとの話が持ち上がっている。今回は人口動態調査の値を基に、その実情を見ていくことにする。
記事題名が「推定編」となっているのは、現時点で検証の対象となる婚姻件数や出生数の確定数は、2018年分までしか出ていないため。人口動態調査には大きく分けると3種類の統計値がある。
・速報…毎月(調査月の2か月後ぐらいに公表)
日本における日本人、日本における外国人、外国における日本人が対象
・月報(概数)…毎月(調査月の5か月後ぐらいに公表。年1で年間合計も)
日本における日本人
・年報(確定数)…毎年(調査年の翌年9月ぐらい)
概数に修正を加えた確定数。日本における日本人が対象(日本における外国人などは別掲)
速報値はすぐに値が出るが調査対象母集団にぶれがあるため、今回は利用を見送り。よって年報分の値をベースに、不足分を月報の値で補完する。具体的には2018年分までが年報、2019年分は月報の値を用いる(現時点で7月分が最新)。年報と月報の値には当然精度の上で差異が出るが、それについては文中で補完的な考察を行う。
まずは月別の出生数を実数と前年同月比で確認する。
月単位の出生数となると全体的な流れ傾向以外に多様な要素の影響を受けるためにぶれが生じ、前年同月比の動きが乱雑となるが、それでも2019年の出生数が2018年までと比べると減少度合いが有意に大きいことが分かる。
この大きな減少は、2019年分は現時点では概数なので2018年分までの確定数とのぶれによるものかもしれない。そこですべての値を同じ条件、つまり概数で取得した結果が次のグラフ。
多少の違いは出ているが、結論としてはやはり同じ、2019年の出生数が2018年までと比べると減少度合いは有意に大きい。そもそも年間推計の2019年分の値がすでに発表されており、それによれば2019年の出生数の減少度合いが有意に大きいことが判明しているので、当然といえば当然ではある。
婚姻件数の検証
続いて婚姻件数の検証。婚姻件数は出生数とは大きな関係がある。日本では非嫡出子の割合はごく少数(2018年の出生総数に占める嫡出でない子の割合は2.29%)でしかなく、出生は婚姻状態が前提となると考えて問題は無いのが実情だからだ。
また、改元が行われるのが2019年5月1日であると周知されたのは2017年6月9日(天皇の退位等に関する皇室典範特例法の成立)で、それ以降の婚姻とそれに連なる出産に関しては、新元号下で行いたいとする思惑が多分に生じても不思議ではない(手続きの上で新元号となってからの方が無難ではとする考え方もあろう)。婚姻はともかく出産は新元号下でとの考えの場合でも、妊娠してから出産、そして出産後の母体の回復時期が婚姻のタイミングと重なるのは、特に女性側に無理が生じる。そのような実情を考えると、婚姻を考えている、さらには子供をもうけたいとする男女にとって新元号になった上で婚姻をし、それから妊娠を目指すとの発想が生じるのは不思議ではあるまい。
婚姻件数も漸減中だが、その動きとは別に2018年5月から明らかに有意な減少が生じている。そして2019年5月には飛び跳ねる形で増加しており、新元号下での婚姻を待っていた男女が多かったことが分かる。他方、2018年8~9月にも小規模ながら婚姻件数の有意な増加が確認できるが、これは「婚姻は旧元号下でもかまわないから、出産は新元号下で」との思惑が働いたものによると考えられる(妊娠から出産は十月十日と言われており、妊娠から出産までは約10か月間ぐらいが通常)。すでに2019年5月から新元号に切り替わることを知っているからこそ可能な逆算ではある。
なお出生数同様、すべてを概数で見てみたが、結果は同じであった。
2018年5月あたりからの減少、2018年8~9月の小規模な増加、2019年5月の突出した増加。同じ傾向が出ている。
また、婚姻を待って出産(に至る行動)をする実情については次のグラフで明確化できる。
2018年に生まれた嫡出子のうち27.1%は、結婚してから1年未満の夫婦から生まれたことになる。逆算すると婚姻後すぐに妊娠ということだろう。1年間とは婚姻後1年~2年未満を意味するので、おおよそ嫡出子の5割強(27.1%+27.3%=54.4%)は、婚姻後あまり間を置かずしての妊娠を考え、それが体現化したと思われる。
なお「婚姻後2年未満の第1子出生」の割合についてだが、2018年の54.4%はまだ低い方で、2000年では67.3%、1975年では79.3%との値が出ている。
婚姻件数と出生数の今後予想
母体の安全を考えると、婚姻前後が妊娠期間、出産後しばらくの間と重なるのは望ましくない。そして婚姻件数が2019年5月に大きく増加している。この2つを合わせると、出生数が例年(の減少度合い)と比べて増加を示すのは2020年3月ぐらいからだと予想される。2019年の値は概数で、しかも8月以降は現時点では不明なため推測は難しいが、2019年8~9月の婚姻件数は前年同月比で大きなマイナス(新元号下で出産を考えた人たちによるものと思われる増加の反動)があり、それ以降は通常の減少率に留まるものと思われる。また出生数は2020年2月ぐらいまでは大きく減少を続け、3月から数か月は大きく伸び、それ以降は通常の減少度合いに戻ることだろう。
年ベースでは2019年の出生数は前年比で大幅減、婚姻数は微減に留まり、年間推計とほぼ同じ結果に落ち着くに違いない。他方2020年は出生数の減少はわずかに留まるか、あるいは前年比でプラスすら見せるかもしれない。婚姻数は通常通りの減少度合いとなることだろう。つまり、2019年の出生数の有意な大幅減少は改元によるところが大きいとするものである。
この推測がどこまで外れるかに関しては、少なくとも2020年分の月報が出終わる2021年、正確には年報(確定数)が出る2022年9月頃にならないと分からない。もっとも推計レベルでよいのならば、2020年12月下旬に公表される年間推計で十分ではある(年間推計はその年の途中の月までの概数と速報を基に推計されるので、ぶれが多分に生じるのが難点だが)。
他の事例はあるのか
改元で婚姻件数や出生数が左右されるような事例は過去にあっただろうか。前回の昭和から平成の改元の際には、確定報で精査した限りではそのような動きは生じていない(グラフ化は略)。これはこの時の改元が今回のような事前告知の上での譲位によるものではなく、昭和天皇の崩御によって行われたからに他ならない。
他方、改元ではないが似たような話としては、過去に丙午(ひのえうま)を忌避する迷信により出生数が明らかに減少した事例が人口動態調査でも確認できる。丙午の生まれの女性は気性が激しく夫の命を縮めるとの迷信があり、その年の出産を避ける現象が生じ、結果として出生数が大きく減少している。
前回の丙午に該当する1966年(昭和41年)を中心に出生数の実情を確認したのが次のグラフ。
出産の完全なコントロールは不可能なこともあり、1965年11月あたりからの減少、1966年11月あたりからの増加が生じているが、明らかに1966年の出産を避ける動きが確認できる。
人口動態調査では1966年版でこの動きに関して報告書の中で特記事項として「昭和41年の出生減少について」の項目を設け、各種特別調査が行われるほど。それによると主に「出生届出の操作」「受胎調節の強化」が出生数の有意な大幅減少の要因であるとしている。その上で「(昭和)41年の出生減少は、やはり『ひのえうま』を意識したうえでの受胎調節の強化によって実現されたもので、人口史上、特筆すべき現象であるということが出来る」と説明している。
今回の改元による動向も、それが確定したものとなれば、何らかの特記が行われるかもしれない。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
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